夕学レポート
2007年11月15日
戦略不全の因果 三品和広さん
「はたして、日本は賞賛に値する国であろうか?」
三品先生は、きょうの夕学をこの問いから始めました。
「格差問題」という共通した悩みを抱える中国を比較対象に選び、共に成長・復活から取り残されたと言われている日本の地方都市に一方のフォーカスをあててみると、対称的な光景が広がっています。
三農問題に悩む中国 四川省成都市と衰退に苦悩する北海道室蘭市。
成都には、広大な敷地に米国の大学キャンパスを想起させる近未来型の企業団地がそびえ、インテル、マイクロソフト、グーグルといったIT企業がソフトウェア開発の拠点を構えています。
室蘭の工業団地には、朽ちかけた工場跡がポツンと残り、周囲はペンペン草に覆われています。
成都のイトーヨーカドーは、毎日買い物客が開店2時間前からドアの前に立ち、全ヨーカドー(日本含む)で4番目の売上規模を誇ります。
室蘭の商店街にはほとんど人が歩いていません。
「これは最近始まったことではない。時間をかけて少しずつ発生してきた問題である」
三品先生は、そう考えています。
日本企業は1970年代以降、売上規模の拡大に注力する一方、売上高利益率を低下させ続けてきたという事実に立脚しての主張です。(これは野口悠紀雄先生も同様でした)
三品先生流にいえば、「失われた40年」説というものです。
なぜ、こうなってしまったのかを調べるために、三品先生は膨大なデータの分析を行いました。
上場企業1013社を対象に、過去半世紀に及ぶ長期間の業績を調べあげました。
最高益更新率と利益成長倍率の二つの指標をもとに、利益成長率という独自の評価尺度を編み出し、50年間の貨幣価値を換算し直して、落とし込んでみると見えてくるものがあるとのこと。
停滞企業(最高益をなかなか更新できず、成長幅も小さい会社)が202社
優良企業(最高益を何度も更新し、成長幅も大きい会社)が122社
その違いを分けたものは何かを分析してみると、「企業の成長は事業立地で決まる」という戦略のテーゼが見えてくるそうです。
「事業立地」とは、“誰”に“何”を売るかを規定するものです。マーケティングで言えば、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)のようなものでしょうか。
「事業立地」は、時代との適応性が決め手になります。顧客や社会の動向で、ベストな立地は変わってきます。かつての好立地が道路一本通ったせいで、二等立地に成り下がるということは小売業ではよくあることですが、企業経営にもまったく同じことが言えるそうです。
また、「事業立地」が時代とズレた時には、大胆に立地転換しない限り将来はないと断言できるそうです。不毛な立地をいくら耕しても作物は育たないということです。
「時代に合わせた立地の見極め」「時代とズレた時の立地転換」この二つの大きな決断を出来るのは経営者以外にはいない。
ゆえに、「戦略は経営者で決まる」と三品先生は言います。
ちなみに三品先生は、「良い企業というものは存在しない、あるのは良い経営者だけだ」と喝破します。
122社の優良企業に共通しているのは同じ人間が長く社長をやっていたこと、という事実が裏付けとなっています。
三品先生があげる「良い経営者」は、次のような人だそうです。
・HOYAの鈴木哲夫さん、
・ミネベアの高橋高見さん
・ヒロセ電機の酒井秀樹さん
・不二製油の西村政太郎さん
いずれも立派な方ですが、いわゆる「マスコミの寵児」ではありません。表に出て軽々に持論を吐くことをしない地味な経営者です。
しかしながら、良い立地をいち早く見抜き注力すること、既存立地が難しいと判断したら果敢に新たな立地に移ることにかけては、抜きんでた能力を発揮してきた経営者だそうです。
三品先生の「企業は経営者で決まる」論は、一見すると11/6の夕学に登壇された遠藤先生の「企業は現場力で決まる」論と対極をなすような印象を受けます。
ところが両者が優良企業としてあげた会社は、はからずもよく似ていました。
花王、キャノン、セブンイレブン、セコム、村田製作所...
企業の何を、どう見るかで強みの分析の仕方・中身も変わってきます。
両先生のお話を聞いた方は、はたしてどちらに納得されたでしょうか?
ひょっとしたら、それを決めるのも「立地を見極める能力」なのかも知れません。
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