夕学レポート
2007年12月06日
関係性をデザインする 石川幹子さん
「ランドスケープ」という概念は、あまりに抽象的で捉えどころがありません。
例えばウィキペディアをたたいてみると「景観を構成する諸要素。ある土地における、資源、環境、歴史などの要素が構築する政治的、経済的、社会的シンボルや空間。または、そのシンボル群や空間が作る都市そのもの」とあります。
ますますもってわからない。
ましてや「ランドスケープデザイン」となると、なお一層抽象性が増してしまいます。
そんな疑問を解消しようと石川先生のお話を聞いておりましたが、「ランドスケープデザイン」というのは、「関係性をデザインすること」ことなのだと合点がいきました。
およそ全ての土地には、なんらかの歴史的・文化的な特徴があります。
・かつて宿場町として賑わっっていた
・町屋づくりの家並みが残っている。
・古い城跡を中心に町が広がっている etc
また、今後もずっと持ち続けたい、持ち続けなければならない資産もあります。
・大きな河が街を貫いている。
・多くの観光客が訪れる。
・米軍の基地が近くにある。
さらには、こういう街にしていきたいという人々の思いや夢もあるはずです。
見えるもの、見えないものが混在し時間軸も配置空間も異なるさまざまな要素を吟味し、関係性を設計して、大きな立体的な像を描き出すこと。
その関係性を繋ぐ紐帯として「水」と「緑」が生命の息吹を運ぶ。
それが「ランドスケープデザイン」ではないでしょうか。
きょうの講演では、「ランドスケープデザイン」に取り組む海外の事例をいくつか紹介いただきました。
・ソウルの清渓川復元事業
・スペインビルバオのグッゲンハイム美術館をコアとする再生プロジェクト
・ベルリンのポツダム・プラッザ再生
・ボストンのエメラルドネックレス整備
・瀋陽のエコロジカルシティー化構想
いずれもたいへん興味深いものでした。
また、日本で数少ないランドスケープ・アーキテクトである石川先生が自ら関わった事例も教えていただきました。
・高岡市の古城公園整備事業
・各務原市の里山づくり
・東京の水と緑の回廊構想
行政と連携し、時には戦いながら粘り強く関わってきた石川先生の熱意を感じるものでした。
石川先生のお話で印象に残ったことが二つありました。
ひとつは、負の遺産から逃げないことです。
「ランドスケープデザイン」は、真っ新なキャンパスに絵を描くことではありません。そこに厳然としてあるもの、かつてあったもの、これからあって欲しいものを調和的に融合させなければいけません。
高速道路、基地、工場跡地、老朽化した建物、それらの負の遺産から目をそらさずに、どう付き合うか、どう組み込みか、どう変えるのかを考えることが重要だとのお話でした。
普遍的な真理を言い得ていることだと感じました。
もうひとつは、100年の計といまのアクションプランを融合させることです。
あらゆる分野において「走りながら考える」というのは今の主流のアプローチ方法です。
変化の時代に対応するには、計画に固執することなく、状況に合わせた柔軟性が必要だということでしょう。
石川先生は、それを否定するものではありませんが、大きなグランドデザインがあって、そのうえで状況に合わせることこそが、真の柔軟性ではないかと指摘します。
間違えたと気づいた時に完全なリセットが効く世界なら別でしょうが、一度手を加えてしまうと、容易に元に戻せない対象に向かう時に肝に銘じておきべき示唆だと思います。
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