夕学レポート
2008年04月10日
家庭と仕事を分けるのではなく、統合する 高橋俊介さん
工業化と民主主義に象徴される近代社会は、その必然として、二つの基本概念&システムを産み出したと言われています。
「分業による効率化」と「官僚型の管理システム」です。
複雑な仕事を分業化し、限定された役割に集中することで、生産性は向上します。
各自の役割と権限を明確にし、分業を連結するための手続きをルール化することで、適切に制御された自由が実現します。
一方で、それ以前の前近代社会は、「家内制工業」のよる家族主義的な経営が営まれ、家庭と仕事の際はありませんでした。地縁・血縁による「相互扶助システム」が家庭と仕事の両方を支えていました。
子供を背負いながら機を織り、よその子も一緒に夕飯を食べる光景が当たり前のように広がっていました。
私は、高橋先生の提唱する「これからの働き方」とは、近代以前と以降のふたつの基本思想のどちらか一方を選択するのではなく、その両方をデュアルに持ち、必要に応じて自由に乗り換えることだと理解しています。
なぜ、「働き方」が論点になってきたのか。
高橋先生は、時代の潮目が変わってきたと考えているようです。
男性中心社会、長時間労働、組織ロイヤリティへの過度の依存、やる気万能主義。
これらのキーワードに代表される組織・人事の基本構造が、制度疲労を起こして、持続不可能になってきたということです。
パフォーマンスに問題のある社員の話をよく聞くと、家庭生活の不健康が仕事の足を引っ張っているという実態がはっきりと見えてくるそうです。
「ワークライフ・バランス」とよく言われますが、高橋先生は「家庭と仕事を分けるのではなく、統合する時代である」と言います。
家庭と仕事を分業してしまうから、相手への感受性が鈍化して、相互不信が募る。
家庭と仕事のどちらかに優先順位をつけようとするから、ストレスが生まれる。
二つを同時にやるから見えてくる世界もある。
二つを同時にやるから、捨てることができるものもある。
二つを同時にやるから、得られるものもある。
高橋先生は、そう言います。
例えば、どんなことか。
高橋先生が実施した20数名の「ワーキングマザーヒアリング」の結果から、印象的なものをご紹介すると、
「いざとなったら人にふらなければいけないので、自分の仕事を抱え込まずに、他の人でもいつでもできるように情報を共有化・見える化するようになった」
「育児は、一生懸命やったから結果が出るとか、目標を定めてスケジュール通りにこなすことが、最も通用しない分野、仕事でもこつこつとやり続けるというやり方を憶えた」
「育児があるから仕事のいやなことを忘れられる、仕事があるから育児のつらさを忘れられる」
「夫や家族、地域の人たちの助けが絶対必要、多様な人たちとの良好な人間関係構築の能力が鍛えられた」
等々の声があったとのこと。
仕事と家庭の両立を目指したからこそ、見えた風景が語られています。
一見すると矛盾する二つの思想を、二項同体的に併存させるデュアル思考については、今度夕学に登壇される松岡正剛さんが非常に面白い指摘をされています。
日本人は、漢字の音読みと訓読みの併存にはじまり、仏教と神道、天皇と将軍、絢爛豪華と侘びさび等々、デュアル思考を最も得意にしてきた民族であるという説です。(詳しくは7/23の松岡正剛さんの回に期待しましょう)
講演をお聴きになった方は、高橋先生の話そのものが、デュアルになっていたことに気づかれたと思います。
時刻表マニアだった少年時代から変わらない、論理と段取りを優先する合理主義の思考と、脱目的・目標、脱スケジューリングを勧めるワークライフインテグレーションの伝道者としての思考。
矛盾や葛藤に満ちているような両者の間を、自由に連結切替えをし、乗り換えを楽しんでいる気がします。
「だって、その方が楽しいだもん!」
そんな高橋先生のメッセージだったように思いました。
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