KEIO MCC

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夕学レポート

2005年06月24日

つぶやきをかたちにする 世古一穂さん 「参加協働型社会へのパラダイムシフト」

「NPOとNGOの違いはご存じですか?」「NPOとボランティアは何が違うかお分かりですか?」 世古さんの講演はこの投げかけからはじまりました。
曰く、厳密に言えば、NGOとは国連憲章第71条に依拠する組織を意味するそうですが、広義で捉えれば、強調したい性格が「非営利」なのか「非政府」なのかの違いであって、両者はほぼ同様の活動組織と理解してよいそうです。世古さん自身、国内ではご自分の組織をNPOと称しますが、海外にいくとNGOと名乗るとのこと。
またボランティアとNPOの違いは、前者が、個人が主体、無報酬、自己実現重視、マネジメント不要であるのに対して、NPOは、組織が活動主体で、収益を伴い、目的達成度合いを重視し、マネジメントが不可欠と整理できるそうです。
シャープで分かりやすい整理ですね、私もはじめて知りました。


さらに、世古さんによれば、NPOは、1.サービスプロバイダー型と2.アドボガシー型に分類できるそうです。「こんなサービスがあったらいいなあ」という問題意識を出発点にして、「無ければつくろう」の精神で、新たなサービス事業を起こすのがサービスプロバイダー型です。対してアドボガシー型とは、政策提言や社会変革の主体を目指そうというもので、「つぶやきを政策に!」が合い言葉だそうです。サービスプロバイダー型は、突き詰めると企業の新規事業と限りなく近くなっていくので、世古さんとしてはアドボガシー型のNPOが活発になるべきだというお考えのようですが、必ずしも趨勢はそうなっていないというのが課題と認識されているとのこと。
時代の流れが、「行政が担う公益」から「民が担う公益」へとシフトチェンジしていることは間違いありませんが、その境界を機械的に分けることは出来ません。多くの事業で両者が共に係わるものの、そのウェイトは時と場合によって異なります。従って、問題解決にあたっては行政とNPOの領域設定と役割分担がもっとも重要なファクターとなるそうです。それを解決するコンセプトが「協働」であり、「協働」を担う作業は高度な専門性を必要とするプロフェッショナルな仕事だというのが世古さんのNPO観のようです。
ボーダレスな時代にあって、さまざまな“際”が消滅し「コラボレーション」が問題解決の鍵と叫ばれている企業社会とまったく同じ構図が、NPOにも存在しているのですね。
印象に残ったのは、「世古さんがNPOを志した動機は何ですか」という会場からの質問に対して、若い頃に経験した水俣病の患者さんとの出会いがきっかけだったいうお話でした。病気の被害が表面化し、社会問題になる10年近くまえから、地元住民の間では「何かがおかしい」という“つぶやき”が蔓延していたそうです。その声にならない声を、もっと早く拾いあげる仕組みが社会に存在していれば被害は最小限に食い止められたのではないかという問題意識が世古さんの原点だそうです。 “つぶやき”を受け止め、政策に還元する社会システムとしてNPOを育てたいという強い意志を感じさせるお話でした。
世古さんが手がけているコミュニティビジネスとしてのNPOに、コミュニティレストランがあります。全国各地にいろいろな形態で広がっているそうです。皆さんも機会があったら是非お訪ねください。
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