KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2009年06月17日

「目利き・聞き耳・死神」の消費行動 清水聰さん

ネットワークメディアの発展が、消費者間に情報格差を生み出していると言われています。従来型のマス媒体に頼るだけの受け身型の消費者と、ネットを活用して積極的な情報探索を行う能動型の消費者の差が顕著になったという見解です。
消費者間情報格差の拡大は、マーケティングの変化を促し、電通が提唱する「AISAS」やインフルエンサーへの着目論などが生まれました。
特に、能動型の消費者の場合は、購入後にブログ等で情報発信をする機会が多いので、企業の対応も「いかに売るか」から「いかに消費者と継続的コミュニケーションを取るか」に変わってきました。
夕学でも、KBSの井上哲浩先生の「オーガニックマーケティング」の考え方を紹介しました。
清水先生は、更にもう一歩突っ込んで、情報感度の高い人だけでなく、情報感度の低い人も活かせないかと考えました。言わば「逆張りの発想」です。
こうして生まれたのが、「目利き・聞き耳・死神」の研究です。


「目利き・聞き耳・死神」とは、情報感度と消費行動の特徴を分析した上で、顧客を類型化した名称です。
「目利き層」:先端的な消費者。情報感度が鋭く、マス媒体からネットメディアまで幅広く、深くキャッチしている。買物経験も豊富で、常に売り場もチェックしている人々。
先端ゆえに考え方も不安定で、時代とともに価値観も変わっていく。
「聞き耳層」:目利きほどではないが、情報に敏感で、バランスの取れた消費者。常に目利きの評価に聞き耳を立て、何が良いのかを冷静に判断する人々。
よく吟味したうえでの消費は安定しており、進歩的保守層とも呼べる。
「死神層」:中間層と無関心層の間にいる消費者。主にマスメディアからの情報に頼り、信念はあるが独善的で頑固、人の話を聞かず、自分の話ばかり展開するタイプの人々。
この人達が好む商品は、やがて市場から退出を余儀なくされることから命名される。
という具合です。
清水先生は、大手広告代理店との共同研究で、上記三層の消費者を取り込んだ消費者モニターを構築しました。さらに、彼らがどのようなブランドを好んで購入するのかを経年で分析しました。
これによって、言わば「ブランドの若さ・勢い」を定量的に把握する指標を作り上げました。
例えば、「目利き層」や「聞き耳層」が多いブランドは、勢いがあり、これから拡大が予想できます。逆に「死神層」ばかりになると、すでに末期的な状態にあることがわかります。
これは、市場シェア、ブランドの歴史からは判別できないそうです。
市場シェアが高くても「死神層」の比率が高いと要注意ですし、シェアが低くても「聞き耳層」が多ければ伸長が期待できます。
歴史あるブランドでもコミュニケーション次第で、「目利き層」や「聞き耳層」の支持を集めることもあります。(例.ロッテ ガーナチョコレート
実際に見せてくれた分析結果の一部は、なるほどと思わせるもので、会場の方も大きく頷いていました。
清水先生は、アサヒビールとの共同研究で、「目利き層」を用いた新製品評価も行ってきたそうです。
「目利き層」を含んだモニターに、発売前の新製品のプレスリリースを見せて、これが売れると思うかどうかを予測してもらうものです。
「目利き層」は、他社製品も含めた当該商品の関連情報にも精通し、メーカーの企画意図やコミュニケーションメッセージを読みとることも出来るので、言わば、即席商品評論家になってもらおうという考え方です。
「目利き層」とそうでない人の予測結果を比較し、発売1年間の販売実績も合わせて検証してみると、驚く程の精度で当たると言います。
典型的な成功例としてオープンになっているのが、「クリアアサヒ」とのこと。
また、売れるか否かに合わせて、定性的な意見も収集すると、どこを改善すべきか、どのような広告展開を取るべきかを考えるうえでの有益な情報を集めることもできます。
清水先生は、ビールだけでなく、耐久消費財を使っての上記調査も始めたそうです。
「購入・体験頻度が、ある程度あり、消費者が購入経験による学習を積めるものであれば、目利きにより製品評価は、幅広く有効になるはすだ」という仮説に基づいてのものです。
日本のマーケティングの特徴のひとつに、「連続的新製品投入」があります。飲料、お菓子、家電、車まで、多くの消費財は、激しい競争の中で短サイクルの新製品投入を常態にしています。ロングセラー商品をじっくりと育てている米国や欧州とは異なる特徴でしょう。
であるならば、日本の実態に合わせたマーケティング理論があってしかるべきだろう。
学者も米国理論の紹介者に留まっていてはいけない。
日本ならではのマーケティング理論を実証的な方法で構築する必要がある。
「死神」学者が、マジョリティになれば、その研究領域はやがて衰退するかもしれない。になってしまう。「目利き」学者が多い学問にこそ未来がある。
「目利き・聞き耳・死神」流に言うと、そんな風に思いました。

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