夕学レポート
2009年07月01日
株式会社とは、資本市場を使いこなせる会社制度である 上村達男さん
小泉構造改革の時代、ホリエモンや村上ファンドが颯爽と登場し社会の注目を一身に集めていた頃、アカデミックな立場から反市場・反規制緩和の論陣を張っていた上村達男教授。
当時は、守旧派の代表として孤軍奮闘という印象でしたが、時代の風は大きく変わり、いまや、上村先生の主張が世の中の主流になりつつあるような観があります。
「どんなに分かり易く話そうと思っても難しいのが法学者の話です」
という前置き通り? 多岐細部に渡る上村先生のお話は、私の知識では上手くまとめることができません。そこで、思い切って大づかみで理解した私なりの解釈を書くことにいたします。
「株式会社とは、資本市場を使いこなせる会社制度である」
上村先生は、そう定義します。
法律的には、あたかもひとつの人格をもった個人として扱われる会社という「法人」が、有限責任のもとに「市場」からお金を集め、自由な競争の中で切磋琢磨しながら、社会のニーズに応える活動をするための最も効率的な道具であり手段が、株式会社の本質であります。
いわば、「法人」と「市場」という二つの要素の高度結合体が株式会社制度ということになります。
ところが、上村先生によれば、この「法人」と「市場」に対する基本的な考え方の違いが、株式会社の性格を大きく変えていると言います。
なぜならば、「法人」と「市場」は、人間の「個」の意義を削減させる二大危険要素であるからとのこと。
国家や社会の権威に対して個人の権利と自由を尊重するに際して、「法人」と「市場」は、そのパワーの裏返しとして、マイナスの働きをする性質を持っているそうです。
西欧社会は、市民革命や産業革命を経て、500年かけて近代社会を構築してきました。
その過程で、教会・ギルドなどの団体・結社が、個人の権利と自由を抑圧することがあることを経験してきました。
「法人」という疑似人格体を、無節操に信じることへの警戒感が、あくまでも個人中心の企業社会であるべきだとする思想に結実していると言います。
同様に、「市場」への無警戒の信望が、金銭第一主義を生み、社会に歪みをもたらすことについても、ギリシャ・ローマの時代から嫌悪感を共有してきました。
つまり、「法人」と「市場」への不信と距離感が、株式会社に対する抑制的な姿勢につながり、株式会社の行動に対する厳格な法整備になっていると上村先生は言います。
「法人」と「市場」は社会に必要だけれども、自由に振る舞わせないための事前制御が不可欠であり、その役割が法律であるとする考え方です。
一方で、米国は、「法人」と「市場」のパワーに着目し、その力を最大限使って社会を進歩させる道を選択しました。
企業の自由な活動を抑圧する規制は出来るだけ排除し、競争から生まれる創意工夫と活力が人類に幸せをもたらすと考えています。
「法人」と「市場」のリスクについては、「悪事には厳罰で処する」ことで対応しようとします。米国に法制度は、法的論拠や整合性を逸脱しても、悪いことをした奴は徹底的に糾弾し、弁済させるという西部劇的な理念のうえに乗っかっていると上村先生は言います。
「法人」と「市場」を、出来るだけ自由に振る舞わせることに意味があり、間違いがあれば、後で法律を修正すればよいという考え方です。
そのどちらがよいかという問題は、ひと筋縄でいかない問題です。成長を取るか、調和を取るか。貧富の格差を問題とするか、階級固定を問題とする。議論の分かれるところでしょう。
では、日本はどうなのかということになります。
「法人」と「市場」の危険性には無警戒なまま、短期間に経済成長を求めた代償の大きさに慄然としている状態。それが日本の現実だと上村先生は言います。
今回の金融危機から得た教訓が、西欧、米国ともに、それぞれの基本思想に立脚しながら
社会で共有化され、対策づくりが進んでいるのに対して、日本は、そもそも論を避けて、「100年に一度」の災害で総括しているのではないかという指摘です。
「法人」と「市場」を使いこなす絶対的経験が少ないのなら、それを理論で補うべきだ。
それが上村先生の立場です。
日本の近代社会はわずか150年。500年の歴史に乗っている西欧社会には適わない。周回遅れてスタートした事実は覆せないのなら、スタートが遅くなったことを強みにすればよい。日本の自動車産業が、米国モデル(大量生産)、西欧モデル(デザイン・感性)を巧みに取り込んでトップランナーに成長したように、最後の来た走者である日本が、世界で最も洗練された株式会社制度を作ることも出来るはずである。
その具体的な取り組みのひとつが、上村先生が尽力している「公開会社法」です。
その内容について言及できる筆力はありませんが、上村先生が幹事を務める日本取締役協会が公開している要綱案がありましたので、ご覧になってみてください。
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