KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2009年07月02日

自分の言葉で語る強さ  漆紫穂子さん

いま、日本で一番のリーダーシップ育成機関であるISLの創設者&代表で、夕学にも登壇いただいたことのある野田智義さんは、リーダーシップを旅に擬えて次ぎのように語ります。

村のはずれに不気味な沼地がどこまでも広がっていて、周囲を暗い森が囲んでいる。村には「この沼を渡るな、沼を渡って戻ってきた者は誰もいない」という言い伝えがある。
しかし目を凝らしてみると、沼の向こうにほのかに明るい光が見えるような気がする。豊かな草原と青い空が待っているように思える。
不安や恐れに包まれながらも、沼の向こうに広がる素晴らしい世界を信じて、じめじめとした暗い沼地を歩き続けること。それがリーダーシップの旅である。

旅の一歩を踏み出すのはリーダーの仕事です。
はっきりとは見えない希望を信じて、暗闇の沼地に足を踏み入れること。つまり「はじめの一人になる」人が、はじめてリーダーに名乗りを上げることが出来ます。
冷たい水。引き込まれるような恐怖。不気味な静けさ。それを打ち消して、はじめの一人になり、ふと気づいて振り返ったら、何人かの人々が付いてきていた。それがリーダーシップの旅のはじまりです。


旅の途中では、大小の危機が何度も訪れます。それを乗り越えるのもリーダーの仕事です。
はじめの頃の必死さがなくなる。いつまでも終わらない旅に少しずつ疲れがたまり、足下ばかり見るようなる。皆の言葉が少なくなり、何を考えているのがわからなくなる。倒れる人、去る人が出てくる。いらだち、夢やロマンが見えなくなる。そうすると「ある日突然振り返ったら誰も人がいなかった」という不安にさいなまれるようになります。
リーダーは、そんな時こそ、常に後ろを振り返り、時には疲れたメンバーを激励し、荷物を軽くしたり、水を与えたり、暖かい言葉をかけたりすることが必要になります。漆先生の言葉を借りれば「組織文化への水やり」です。
そうやって、沼地を越え、青い空と豊かな草原に辿り着き、笑顔で抱き合ったのも、つかの間、目の前には新しい沼地が広がっていることに気づく。それを繰り返すのがリーダーシップの旅の本質です。
ずいぶんと長い前置きになってしまいましたが、漆紫穂子さんの旅、言い換えれば品川女子学園の変革の軌跡というのも、きっとこういうものだったのだろうと推察いたします。
20年前には、応募者わずかに28名。全員合格なので合格発表すらやることができない。そんな状態から、女子校という形態を変えず、教師陣もほぼそのままの陣容で、改革をはじめ、いまでは、200人の定員に1800人が応募する人気校に変わりました。
改革に向けて歩きだそうとした漆先生に対して、「沼を渡るな」という言い伝えのごとく、諫めに入るベテラン教師もたくさんいたそうです。
今日の品女を象徴するユニークな教育内容である「28プロジェクト」、最初から掲げていたビジョンではなかったようです。暗い沼地を歩きながら、手探りで探し当てていった道だとのこと。 ビジョンとはそういうものです。
「28プロジェクト」のひとつに、企業とのコラボ授業があります。藤原和博さんの「よのなか科」の授業と似ていると思ったらなんと、藤原さんが最初に「よのなか科」の授業に取り組んだのが、品女だったとのこと。その頃に藤原さんについて、ノウハウを学んだ若手教員が10人単位でおり、彼らが現在の企業とのコラボ授業を企画・運営しているのだそうです。
漆先生の話を聞くと、「自分の言葉で語る」ことの強さを改めて感じます。百万言の理論より、高名な学説の権威より、自分が直面し、自分で考え抜き、自分で紡ぎ出した言葉ほど強いインパクトがあるものはないようです。
「自分の言葉で語る」 これもリーダーシップに欠かせない要素なのでしょう。
さて、先述の「28プロジェクト」は、28才になった時に社会で活躍している女性を育てるという含意が込められたネーミングです。
28才というのは、実は漆先生が、家業を継ぐような意味合いで品女に移り、学校改革をはじめた年齢でもあります。
28才になる頃には、ひとつの道を決め、リーダーシップの旅に出発して欲しい。その時のために、品女の6年間で何を学ばせたらよいかを考えたい。
意識されたかどうかはわかりませんが、奇しくも「28プロジェクト」は、そんな意味にも取れるのではないでしょうか。
品女の学生達にとって最も価値があることは、漆先生というロールモデルを見て育つことが出来ることかもしれません。

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