KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2009年10月21日

「これだ!」「いける!」「すごい!」という感覚 石井淳蔵さん

少し長くなるが、慶應MCCの話をさせてもらいたい。石井先生の「ビジネス・インサイト」を聴いて、「あのことだ!」と気づいた“創造的瞬間”があったからである。
慶應MCCが開設されたのは、2001年春である。立ち上がりまもなくの時期に、多少の混乱があって、コンセプトそのものから再構築する必要を迫られた。
「慶應MCCとは如何なるものか」について、皆で議論を重ねた。
・慶應ブランドを前面に打ち出し、30万人の卒業生ネットワークに訴求する。
・社会ニーズに適応したタイムリーな講座を、一流の講師陣で展開する。
・東京駅前・丸の内という立地にこそ競争力がある。 etc...
いずれも、もっともなことで、実際に、いまも謳っている「強み」ではあるが、誰もが思いつきそうなことでもある。
世の中にはアンチ慶應も多いし、慶應の卒業生以外に対しても広く門戸を開きたい。
慶應の教員といえども、専任契約をしているわけではないので、同じ先生が他の社会人講座で教えることだってありうる。
当時は、丸の内や八重洲には、次々と大学のサテライト拠点が出来つつあった。
ブランドでも、講師陣でも、立地でもないところ。いままでの社会人教育の常識では見逃していたところに競争優位があるのではないか、とあれこれと考えるうちに、「自分たち自身がなすべき役割にこそ鍵がある」と気づいた。
そこで生まれたのが「ラーニングファシリテーター」という概念である。


ラーニングファシリテーターとは、「学び」と「ネットワーク」の水先案内人である。プログラムの企画、講師選定と依頼、内容の吟味、プロモーション施策の立案、参加者とのインタフェース、講義のアシスタント、アフターフォローまでをトータルにマネジメントする。
理解を深めるためのさまざまな情報提供や多様な視点の提示、あるいは理論の実務への応用する際のアプローチ方法や問題提起など「学びの促進者」としての役割を担っている。
<詳しくはこちらを参照願います
「慶應MCCは“事務局”が優秀ですね」
講師の先生方や受講生に、そう言っていただくことが多い。
ありがたいお言葉だと感謝をしているが、本音では「事務局ではないから優秀なのだ」と言いたい。
ラーニングファシリテーターは、単なるオペレーションの担い手ではない。事務局という言葉からイメージする姿とは、目指すところが違うのだ。
「ラーニングファシリテーター」というコンセプトを紡ぎ出した瞬間に、これから自分たちが何をすべきか。受講生や講師の先生方とどう接すればよいのか。どのような能力を身につけなければいけないのか。採用にあたって、どのような人材が求められるのかが、あたかも脳内にシナプスが連結するようにイメージできた。
石井先生は、まさにこの瞬間を「ビジネス・インサイト」と呼んでいる。
これだ!」という閃き。 見えた瞬間に全体像までが見通せる感覚。
「いける!」という確信。 積年の問題が解決できるだろうという展望。
「すごい!」という喜び。 その成果で世界が変えられるという自信。

それが「ビジネス・インサイト」である。
ヤマト運輸の小倉昌男さんが、宅配便というビジネスモデルを発見した時
ダイエーの中内功さんが、流通革命ともよべる革新を見いだした時
石井先生によれば、そこには「ビジネス・インサイト」という“創造的瞬間”があったと言う。
「ビジネス・インサイト」は、けっして論理的ではない。発想の飛躍が不可欠である。従って精緻な分析では導き出せない。
他者には、突拍子もなく聞こえるかもしれない。見たことがないだけに分かりにくい。
しかし、人間には誰しも、ある日突然何かが上手く出来るようになった、見えてきたという経験があるはずだ。しかも、そのコツを他者に説明するのが難しいという経験が。
「ビジネス・インサイト」は、仮説実証型の従来の社会科学アプローチとは一線を画す概念である。石井先生は、哲学者のマイケル・ポランニーの「tacit Knowing」という概念に理論的な根拠を求めている。「暗黙知」という呼び名で知られた概念である。
ポランニーは、「ビジネス・インサイト」を発揮する条件を明らかにしている。
「対象に棲み込む」というものだ。
人間を対象にするならば、心底その人の身になって考えること。
理論を対象にするならば、理論を理論として学ぶだけなく、自家薬籠中のものにするまで自分に染みこませること。
モノを対象にするならば、自分に合わせて転用する、換骨奪胎するまで使い込むこと。
人に、理論に、あるいはモノに棲み込むとはそういうことだ。
また「経験を言葉にする」という行為も、きわめて重要になる。
自分の経験を言葉に発することで、内省が促され、気づきや発見につながる。他者との連結も可能になる。
こなれるまで語り尽くすことで、経験が抽象化され、自分ならではの「理論」になる。
「対象に棲み込む」ことや「経験を言葉にする」ことを、最も実践している人が「創業者」「起業家」である。
石井先生によれば、「ビジネス・インサイト」は、創業経営者にしか出来ないと喝破する創業経営者もいるそうだ。
寝ても覚めてもあることを考える。「そこまでやるか!」というくらい追究する。ある種の偏執性が「ビジネス・インサイト」には求められるのであろう。
冒頭の、MCCの「ラーニングファシリテーター」というコンセプトで言えば、「経験を言葉にする」ところが不十分であることを日頃から痛感している。だから、きょうあえてブログに書いてみた。 まだまだ道のりは遠い。

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