KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2005年07月14日

アーキテクチャで読み解く中国製造業 新宅純二郎さん 「中国企業との分業と協業」

新宅先生に夕学の依頼をしたきっかけは、昨秋東大ものづくり経営研究センターが主催する「ものづくり寄席」を聴講したことに遡ります。ものづくり経営研究センターは、トヨタ式生産方式や全社品質管理(TQC)に代表され、日本製造業の強みとも言われる「統合型ものづくりシステム」を組織的に研究するためにつくられた研究機関です。
「ものづくり寄席」は、その研究構想と内容を実務家向けに紹介することを兼ねたセミナーでした。ものづくり経営研究センターは藤本隆宏先生がセンター長に座り、高橋伸夫先生もいらして、夕学にも縁がある所です。そこで藤本・高橋先生に並ぶ主要メンバーである新宅先生にも是非お越しいただきたいと思い、本日の講演となりました。


きょうの講演は、まず中国の実像について具体的なデータに基づいて分析していただきました。まずひとつは、中国生産≠中国企業ではないという事実です。DVDを例に取ると全世界の生産量の80%が中国で生産されてはいますが、うち中国企業のシェアは20%強に過ぎないそうです。外資が支える中国という実像が浮かび上がります。もうひとつは、日中貿易は高い水準で輸出入が均衡する希有な例だということです。米国は圧倒的に輸入超過(米国からみて)で“中国脅威論”がストレートにあてはまるとのこと。逆に韓国・台湾は輸出超過で“有望市場としての中国論”が合致するそうです。日本が高いレベルで輸出入を均衡できる要因は、完成品に組み込まれるコアな部材に圧倒的な強みを維持できているからで、完成品の中国生産が増えれば増える程日本からの部材の輸出が増えることになります。DVDプレイヤーのコア部材のうち光ピックアップと呼ばれる部材においては、日本企業が占めるシェアは90%を超えるそうです。
新宅先生は、これらの実像を踏まえて、過激な脅威論、加熱する進出論のいずれにも組しない、日本と中国・アジア企業の分業・協業関係のあり方に論を進めました。ここでは「アーキテクチャ(設計思想)」というフレームワークで考えることが有効だそうです。これは、ものづくりにあたって、入念で綿密な調整を大切にする「すり合わせ型アーキテクチャ」でいくのか、必要な要素をブロックのように連結してつくる「組み合わせ型アーキテクチャ」を取るのかという事業戦略を分類する考え方です。一般論でいえば、自動車のように「すり合わせ型アーキテクチャ」が有効な産業は緻密な日本企業の優位性が高く、パソコンのように「組み合わせ型アーキテクチャ」が有効な産業はコストが安くて大胆な投資判断ができる中国・韓国が強いという分類ができます。
新宅先生によれば、日本がとるべき分業・協業関係には3つの方向性があるそうです。ひとつは「すり合わせ型」にフィットするコアな部材に特化する業界分業の方向。ふたつ目は「すり合わせ型」に強い日本と「組み合わせ型」に強い中国・韓国がジョイントベンチャーを立ち上げ、相互補完関係で戦うという協業の方向。みっつ目は「すり合わせ型」に親和性の高い川上分野(製造装置や部材)とブランド・販売といった川下分野を日本が担い、「組み合わせ型」が競争力を持つ真ん中(組み立て)を中国・韓国に委ねるといった機能分業の方向です。それぞれ一長一短があり絶対にこれだいう正解がないのは当然ですが、目の前の競争に明け暮れていると見えなくなく俯瞰的な見方と方向性を提示してくれたのではないでしょうか。
私は、個人的にも「アーキテクチャ」というフレームワークが好きです。製造業だけでなく、サービス業や小売業等多くの業界も「すり合わせ型」と「組み合わせ型」いずれのアークテクチャを採用しているのかで事業戦略が整理できると思うからです。ちなみに慶應MCCは「すり合わせ型アーキテクチャ」です。講師、受講生、内容、学習環境、プロモーション、アフターサービスetcの諸要素を入念に設計・調整して相互のシナジー効果が最大限に引き出せるような学習促進機能の強化を重視しており、それを担うラーニングファシリテーターというプロフェッショナルがいます。
そんな話を控室でぶつけてみたところ「それは面白い考え方ですね」と言っていただきました。お世辞と分かってはいても嬉しくなりました。
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