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夕学レポート

2010年01月28日

思い込み・決めつけをやめる  金井壽宏さん・川上真史さん

キャリア、リーダーシップなど、ひとの発達に関連する組織行動を研究する金井壽宏先生と、日本におけるコンピテンシーの導入者として多くの企業の人事コンサルに関わってきた川上真史さん。
学者とコンサルタントという異なるフィールドではあるものの、二人とも日本を代表する人事の専門家と言えるだろう。
今期の最終回を飾るに相応しい、贅沢なビッグツーの揃い踏みであった。
拠って立つ基盤の違いはあっても、共に京都大学教育学部で心理学を学び、「心理学の知見を企業の組織行動、人材マネジメントに活用する」という同じアプローチを取る二人には、何かと接点が多いようだ。
今回のセッションのテーマは「いまの若者にどう向かうべきか」であった。
マスコミは、昔から世代にラベリングすることが大好きだ。ちなみに私の世代(1961年生まれ)は、「新人類世代」と呼ばれた。
今春入社してくる大卒社員を「ゆとり教育世代」と呼ぶらしい。
我ら「新人類世代」も、齢五十を目前にして、ようやく「旧人類」との融合がなったようだ。
いつのまにか大勢の一群に与して、「ゆとり教育世代」の不可解さを嘆き、接し方への戸惑いを口にする。
いつの時代も、中高年にとって、若者は「理解しづらい」対象になる。
「ゆとり教育世代って呼ぶな!」と強く主張する識者もいる。
安易なラベリングが、諸問題の要因を「社会構造の問題」から、「若者個人の問題」にすり替えてしまい、思考停止を招くことを危惧している。


金井先生、川上さんの問題意識も同じである。
「色メガネで見るな!」「思い込み、決めつけをやめよ!」
もちろん世代論には意味があり、「ゆとり教育世代」になんらかの特性があることは認めつつも(川上さんが調査データをもとに解説してくれた「ゆとり教育世代」の特性は慧眼であった)、メガネをはずして素の眼で、よくよく観察してみれば、意外と変わらないものだ。
なぜ、思い込み、決めつけが悪いのか。専門家である二人は、心理学の理論を用いて説明してくれる。
川上さんは言う。
「周囲(上司・職場)が“選択的抽象化”を起こしてしまう可能性がある」
さまざまな事象に目がいかず、思い込み・決めつけがあてはまる事象だけを選択して、全体をそういうものだと抽象化してしまう心理状態だという。
「幽霊の正体見たり枯れすすき」ということわざを思い出す。
金井先生は言う。
“自己成就的予言”が起きることもある」
例えば「こいつは、指示待ち癖があり、自発性がない」という思い込み・決めつけを持って若者と接すると、ついつい指示を連発し、考えさせることをしなくなる。知らず知らずのうちに、指示待ち人間を育ててしまうことである。
“選択的抽象化”も“自己成就的予言”も、誰もが陥りがちな心理のバイアスである。しかも陥っていることに気づきにくいから余計に始末が悪い。
では、どのように現代の若者と付き合えばいいのか。
二人の考え方は、かねてからの持論を再確認することであった。
川上さんは言う。
「最終的には、のめり込ませることが出来れば問題ない」
「のめり込み感=ジョブ・エンゲージメント」
川上さんが最も重視するキーコンセプトである。
相手が「ゆとり教育世代」であろうがなかろうが、リーダーの重要な仕事は、のめり込むような仕事を部下にアサインできるかどうか、動機づけられるかどうかである。
問われているのは、リーダーのマネジメント能力なのだ。
金井先生は言う。
「ひとつのことに打ち込んだ経験が何より重要なのではないか」
何かひとつのことに打ち込んだ経験のある人間は、多くの場合、そこから、何らかの知見・教訓を得ている。その学習能力には再現性があり、必ず仕事にも活かされるはずだ。
「ひと皮むける経験」
これまた、金井先生が最も重視するキーコンセプトである。
人にせよ、企業にせよ、国家にせよ、ラベリングは、対象をシンプルに表現する便利なツールではあるけれど、思考停止を招き、対象を見えづらくさせるマイナス効果もある。
原理・原則に則ることが、なによりも大切である。

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