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夕学レポート

2010年05月14日

「自分だけの本、自分だけの雑誌」 小林弘人さん

小林弘人さんは、インターネット黎明期から、IT・ネットと出版のクロス領域をドメインにしたメディアビジネスを次々と興し、成功させてきた人である。
大ベストセラーになった『FREE』の監修・解説も手がけ、フリミアム(FREEMIAUM)と呼ばれる新しいマーケティングの啓蒙者としても知られている。
小林さんは、「誰でもメディア」の時代が到来したと言う。
メディアがひと握りの専門家による独占から解き放たれ、企業活動も個人生活や思考もメディアになり得るという意味である。
Webサイトやブログを持つこと、ツイッターでつぶやくことが「誰でもメディア」ではない。
あるテーマについて、秀でたコンテンツ制作力・編集力を持ち、自らを核にして、少なくとも数千人レベルのコミュニティを作り、維持できる求心力と牽引力を持った存在でなければならない。
これが、至るところに勃興していることを称して「誰でもメディア」と名付けているのである。


小林さんは、「誰でもメディア」時代のメインプレイヤーは、「ミドルメディア」だという。
不特定多数に同一情報を一斉発信するマスメディアと半径2メートル内の出来事と心理を綴るパーソナルメディアの中間にあって、両者を有機的に連結する存在である。
ただの連結機能ではなく、先述のように、それ自体がコミュニティを形成する「島宇宙」でもある。
ミドルメディアは、マスと個人をつなぐだけでなく、他の「島宇宙」とも連結し合い、巨大な「ネット銀河」を構成する恒星でもある。
「ここにメディアビジネスの萌芽が見て取れる」という。
「誰でもメディア」時代のメディア資産は、コンテンツだけではない。むしろコミュニティにある。あるテーマについて、同質性の高い志向と行動をとる数千~数十万人の集団に内在するものである。
経営学の用語を使えば、コミュニティはコアコンピタンスの典型的な例だろう。
構築には時間と労力がかかる。他者が簡単に模倣できない。それゆえに競争力がある。
ゆえに資産価値は高い。
メディアビジネスとは、このコミュニティの価値を換金化することで成立する。
どのように換金化するのか、それがビジネスモデルのKFSだと言っていいだろう。
この構造は、Eコマースの世界で、「インフォメディアリー」と呼ばれるものと似ている。
世界中の消費者の多様なニーズを収集する。
ニーズに見合うソリューションをワールドワイドで調達する。
両者を適切な価格で瞬時にマッチングする。
それを全てコンピューターとネットで実現するというものだ。
ヤフーオークションも、価格comも、アマゾンも「インフォメディアリー」である。
「インフォメディアリー」のキモは、膨大な消費者のニーズ把握を可能にするデータベースマーケティングである。
データマイニングやテキストマイニングといった統計手法と、それを支援するIT分析ツール、使いこなす専門家を必要とする。もちろん大きな投資が必要になる。
インフォメディアリービジネスを成功させるには、ここに大きな障壁があった。
ミドルメディアは、この点においてインフォメディアリーの欠点を解消している。
なぜなら、消費者を適切なサイズに分割して、コミュニティの中に取り込んでいるからである。無自覚的にそういう構造になっている。
ミドルメディアの主宰者は、コミュニティのニーズを知っている。むしろ人々が、主宰者の志向に蝟集していると言ってよい。だからコミュニティが成立している。
ミドルメディアが、新しいメディアビジネスの主役たりうる所以がここにある。
しかし、小林さんはもう一歩先の姿を見据えている。
コミュニティのニーズを知るだけでなく、個々人のパーソナルニーズまで把握することである。同好の士とはいえ、人間である以上、好みや購買力に違いがある。そこまで分け入って、ジャストフィットソリューションを目指そうというものだ。
具体例として、小林さんは、オンデマンドプリンティングの技術を使った「カスタマイズ・ブック」「カスタマイズ・マガジン」の例を紹介してくれた。
自分だけの本、自分だけの雑誌、自分だけの新聞。
それが、新世紀メディア時代のオープン出版ビジネスの姿である。

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