夕学レポート
2010年09月20日
大人の選句教室
正岡子規は、「近代俳句の革新者」と言われている。
限られた風流人がプロトコルに則って、知性と技術を競い合う「芸」として扱われてきた俳句を、誰もが自由な感性にまかせて思うままにうたうことができる「芸術」へと認識転換を促したことが、革新者たる所以だとされている。
つまり、俳句は、自分が「感じたまま」「見えたまま」を自由にうたうものなのだ。
話題になっている「俳句甲子園」も、感受性の鋭い高校生のみずみずしい感性がほとばしるからこそ、詠み人を夢中にさせ、聴衆に感動を呼ぶもののだろう。
さて、問題は大人である。リンボウ先生に言わせれば、とりわけ男性諸氏である。
どうやら女性陣は、年齢に関係なく、すぐに自由になれるのだという。
私も含めて、世の男性諸氏は、知らず知らずのうちに、裃や鎧を幾重にもまとっており、自分が「感じたまま」「見えたまま」を屈託なく表現することを大の苦手としている。何かといえば、知識、理屈、意味といった調味料をたっぷりと塗してしてしまい、「感じたままま」「見えたまま」が見えなくなる。
自戒を込めて言えば、調味料のつけ過ぎで味覚麻痺がおきているのかもしれない。
自己弁護をすれば、長年に渡って、如何にして調味料を探すか、つけるかという勝負を余儀なくされてきたのだから、いまさら「素」を味わえと言われてもなぁ、と避けて通りたくなる気持ちもなくはない。
しかし、どうやら世の中の風向きは変わってきたらしい。
なぜなら、心豊かに生きるためには、「素」を楽しむことが....。
危ない危ない、また調味料を使うところであった。
理屈はどうでもよい。格好悪くて何が悪い。
自分が「感じたまま」「見えたまま」を自由に表現する。そういう体験を味わうことに挑戦してみるのも一興ではないだろうか。
そこで企画したのが
夕学プレミアムagora 林望先生とワークショップ【大人の選句教室】である。
「どんな言葉がより鮮明に風景を伝えうるのか、どんな場面を切り取れば美しいと感じるのか、どんなリズムが琴線に触れるのか。
闇雲に自分の内面を探るのではなく、鏡に姿を映すように、あなたが選びとる句を通してあなた自身を発見する、大人のためのワークショップです。」
リンボウ先生は、そう誘っている。
俳句を作る前に、すこし敷居の低い「俳句を選ぶ」という行為からはじめるようだ。
対象となっている、夏目漱石、北原白秋、久保田万太郎、永井荷風は、近代を代表する文人・芸術家ではあるけれど、俳句の専門家ではない。いわば素人である。
リンボウ先生の配慮を感じる人選である。
大人の選句教室。
そのこころは、俳句そのものを楽しむことではない。俳句を通して、自分の感性・価値観を再確認する楽しみである。
感性のみずみずしさでは負けるけれど、高校生には見えないもの、聞こえない声、感じられない質感を理解できる感性を、われわれ大人は持っている。
夕学プレミアムagora 林望先生とワークショップ【大人の選句教室】
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