KEIO MCC

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夕学レポート

2011年01月17日

楽しく生きる「流儀」 酒井穣さん

「酒井さんのキャリアは、偶発性重視の直感派ですか? それともプランニング派ですか」
講演終了後に、すぐに投げかけたのは、その問いかけである。
楽しそうに生きている人だな。
話を聴きながら、そう思ったからだ。仕事と自分の間合いの取り方、人生の位置取りが巧な人だと感じた。
キャリアの描き方を見ると、良い意味での突っ込みどころが満載である。
慶應の理工学部を出て、商社に就職する。
英米企業ではなく、オランダのメーカーに転職し移住する。
米国ではなくオランダでMBAを取る。
いずれの道も、誰もが歩もうとするメインストリームではないけれど、「その手があったか」と周囲の人を唸らせるユニークな選択と言えるだろう。
多くの人には見えないものを、いち早くつかみ取る時代感覚のようなものがあるのかもしれない。
そんな感覚はご本人にも自覚があるようで、総合商社や大手広告代理店に就職した大学時代の友人達が、三十代後半を迎えて「組織と個人の関係」に悩む中で、自分は「ナナロク世代」と呼ばれるトップランナーを輩出した少し下の世代に考え方が近いと話す。
護送船団方式のど真ん中の船に乗ったつもりが、いつのまにか船団は崩れ、びくともしないはずだった自船には、至る所にガタがきていることに気づく。
かといって、いまさら他の船には乗り換えられない。さてどうしたものか。
そんな心境にある同世代人から見れば、「ちょっと変わった奴」だったはずの酒井さんの生き方が、時代の理想的な姿に変わっていることに気づき愕然とするのかもしれない。


冒頭の質問に対して、酒井さんは「いいことを聞いてくれた」という表情を見せながら振り返ってくれた。
「最初のうちは、偶発性重視の直感派。だけどある時点からは、綿密なプランニング派です」
転回点になったのは、最初の本を書き始めた頃だという。
2004年頃MBA在学中の酒井さんは、黎明期にあったブログに熱中した。
海外ビジネスの実情や学んだばかりの経営学の知見を発信し続けたという。同じような日本人が世界に何人かいて、いつのまにか「海外ブロガー」というコミュニティの一人に数えられるようになった。
彼らのネットワークから世界が広がり、「本を書かないか」というオファーが来るようになった。「海外MBA体験記」のような紋切り型の企画に気乗りしなかった酒井さんは、自分なりの企画書を作成し、逆提案を繰り返した。
何社か目で日の目を見た企画が『はじめての課長の教科書』として結実した。
酒井さんがこだわりは、自分のコアコンピタンスへのこだわりでもあった。自分の強みは難しい理論を分かり易く伝える表現力にある自覚していたからだ。
オランダメーカーでエンジニアをしていた頃、高額な自社製精密機械を操作間違いせずに使ってもらうために、高等数学だらけの工学学術書を、文系の日本人にわかるようなマニュアルを自作する中で、「ひょっとしてオレ、こういうこと得意かも」と気づいた能力だったという。
著述家としての酒井さんの現在のフィールドは、その延長線上にプランニングされており、一連の作品は、緻密に設計された計画的な成果物に他ならない。
どの港に、いつ着岸するかわからない船に、すぐに飛び乗れるように準備万端に整えて、各地を訪ね歩く。
来た船には、あれこれと考え過ぎずに飛び乗ってみる。旅をしながら次の行き先を探す。
やがて、自分の天命のようなものが見えてきたら、そこに向かって進路を取る。ただし今度は、入念にスケジュールと経路を考える。
酒井さんのキャリアは、そういう軌跡を描いて進んでいるようである。
講演のテーマは、「ビジネス・マインド」であった。
私なりに解釈すれば「生き方の流儀」のようなものであろう。
「できること」から「やりたいこと」へ、そして「やるべきこと」へと成長の階段を昇ること。
あるべき姿に向けて、自分を動機づけ、セルフマネジメントを続けること。
人間は他者の支援を受けて成長することを信じ、建設的な人間関係を気づくこと。
いずれも、「最初のうちは、偶発性重視の直感、ある時点からは、綿密なプランニング...」で人生を切り拓いてきた酒井さんを支えた「ビジネス・マインド」であり、楽しく生きるための「流儀」であろう。
酒井さんには、すでに次の「やるべきこと」が見えているようである。
次は、私たちにどんなメッセージを発信してくれるのか、大いに期待して待ちたい。
・この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/1月14日-酒井-穣/
・この講演には1件の「感想レポート」を応募いただいています。
成長を最高のエンターテイメントと感じられる為に(ハット/会社員/26歳/男性)

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