夕学レポート
2011年04月28日
コストマネジメントという専門性 栗谷仁さん
「経営の目的は何か」
所説あることは承知しているが、最も狭義の考え方に則れば、「利益の最大化」ということで衆目の意見は一致するだろう。
そして、下記のシンプルな計算式にも異論は生じない。
利益=売上-コスト
二元論的に言えば、利益を上げるということは、「売上を上げるか」、「コストを下げる」かの選択である(正確には、両方を同時にやるという選択肢もあるが)
MBAには、「売上」を上げるために必要な知識を学ぶ科目は多い。経営戦略、マーケティング、人材マネジメントetc。
一方で、「コスト」を下げることにフォーカスした科目はない。栗谷氏が卒業したハーバードのMBAにも「コストマネジメント」という科目はなかったという。
コスト削減には、マイナスのイメージが強い。「人減らし」「下請けいじめ」という言葉がすぐに連想されることでもわかるだろう。
しかし、それでいいのかという思いも強い。
「欲張らない」「ほどほどに」「節度を持って」
それが世界の経済社会の共通認識になりつつある成熟化の時代には、売上を上げること以上に、コストを下げることに、陽の目があたってもいいのではなだろうか。
前向き、論理的にコストを考える。「コストマネジメント」の思考法が、求められる時代になったと思う。
ATカーニー社の調べては、10産業×上位5社=50社の平均値を取ると、会社の総コストの11.1%を、間接材コストが占めている。(ちなみに人件費は6.4%)
「そのうちの10%は削減できる」
それが、多くのコスト削減コンサルティングを手がけてきたATカーニー社の経験則だという。
栗谷氏は、コストマネジメントの全体像を次のように解説してくれた。
まずは、コストを2種類に分類する。
経営資源として必要性を判断すべき「投資」なのか、経常的な支出として適正化をはかる「経費」なのか。
前者であれば、マネジメントの対象は、「投資」する人・モノを活用するユーザーになる。
限られた資本を、何のために、何かれら、どれくらい、どうやって使うのかを徹底的に突き詰めることが重要である。これを「最適化」と呼ぶ。
さらに、「投資」を固定コストとして使うのか、変動コストとして使うのかを判断し、必要に応じて変更することも必要になる。これを「変動化」と呼ぶ。
売上の変動幅が大きい時に固定コストは負担が重い。逆に売上が安定している時に、変動コストは非効率になる。
見極めと大胆はシフトチェンジが求められる。
経常的な支出として適正化をはかる「経費」に対しては、「集約」「分解」「統合」の3つのマネジメント手法があるという。
こちらのマネジメントの対象は、モノ・サービスのサプライヤーになる。
「集約」とは、まとめて、あつめて、合わせて安くするアプローチである。
例えば、ATカーニー社の経験によれば、オフィスのコピーの一枚当たり単価を「集約」して管理している会社は少ないという。部署ごと、拠点ごとにバラバラにベンダーに発注し、単価もばらつきがある。最も安い単価のベンダー「集約」して数量をまとめることで、更なる単価ダウンが可能になる。
「分解」とは、文字通り、コストの中身を部品単位で丸裸にすることである。
汎用品であれば、同じ品質ものを最も安く、有利な条件で購入できるサプライヤーを探し、その価格をベンチマークすることで交渉や選定が効率化できる。
個別性の高いものであれば、サプライヤーの請求を鵜呑みにせずに、単価や工数を細かく精査することだ。何事もドンブリ勘定はムダのもとである。
「統合」とは、中抜きの思考である。
モノであれ、サービスであれ、複数の関与者がいる場合(ex:生産者、問屋、商社、子会社等々)には、付加価値を出せるステークホルダーだけを残して中抜きすることでコスト削減が可能になる。慣例や義理に惑わされてはならない。
ここでは、全体を通観して、取引先の必要性を見極める統合的な判断力が不可欠になる。
コストマネジメントのやっかいな側面であり、それゆえに面白みがあるのは、顧客と購入先が入れ子構造になっているということかもしれない。
トヨターはソニーにとって、ある時(ある部署)は顧客であり、ある時(ある部署)では購入先である。逆もまた真である。
したがって、バーゲニングパワーは、二社間の力関係によってさまざまに変わる。
上記の「コストマネジメント」を連立方程式で解かねばならない。
だからMBAの科目になりにくいのかもしれないが、だからこそプロの仕事とも言える。
奥が深いことだけは間違いない。
この講演に寄せられた「明日への一言」です。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/4月28日-栗谷-仁/
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