夕学レポート
2011年07月13日
友人のように名画と付き合う 結城昌子さん
結城昌子さんを、ひと言で表現するならば「やわらか~な」人である。
饒舌ではないけれど、聴衆の意識をそらせない絶妙な間の取り方、身体全体で醸し出す雰囲気が印象的な人である。
なによりも、これまでにない、新しい絵の楽しみ方を見つけ出そうとする柔軟な視点が素晴らしい。
結城さんにかかると、ゴッホの絵は「うずまきぐるぐる」になり、
ピカソの絵は「あっち向いてホイ」になる。
確かに言われてみれば、ゴッホの月光や陽光の描き方は「うずまき」に見えるし、ピカソが描く人物像は、「あっち」を向かんばかりに見える。
画家の創造性が、「これまで誰もしなかった新しい描き方」にあるとすれば、これまで誰も試みなかった、新しい絵画の楽しみ方を見つけ出すのが結城さんの才能なのかもしれない。
アートは、人類(先人)が残してくれた宝物。額縁に入れて厳かに飾り置くのではなく、お気に入りのオモチャのように、愛しみ、撫で回し、いつも傍らに置いて楽しむ。
「親しい存在にする」ことが、結城さんがこだわるアートの楽しみ方である。
『原寸美術館』という企画は、アートの新しい楽しみ方を探し求めた結城さんが辿り着いたひとつの到達点だという。
多くの絵画は、全図ではけっしてわからない魅力を秘めている。
例えば、修復がなったばかりの「最後の晩餐」は420 x 910 cm の巨大なものである。全図では、食卓テーブルに描かれた晩餐の内容まではわからない。
この絵を、ひとつのお皿にフォーカスして原寸で再現してみると、皿の料理は魚の切り身(結城さんにはサバの塩焼きに見えるとか)だと分かる。しかも添え物のレモンスライスの輪郭が銀食器に映り込むさまも、詳細に描かれていることに気づく。ディティールに込められたダヴィンチの魂を感じることが出来るという。
「いい絵というのは、いろんな見方を許してくれると思います」
結城さんは言う。
だから、名作はいくら見ても飽きない。見れば見るほど新しい見方、楽しみ方が見つかる。
絵を知るということは、友人を理解することと同じだとも言う。
その人のプロフィールを調べてから友人を作る人はいない。なんとなく意気が合うと感じる人と付き合いながら、互いの理解を深めていく。
同じように、名画を見るのに事前の知識は必要ない。感性で惹かれた絵を、何度も何度も、いろんな角度、やり方で眺めて見る。調べてみる。もし見れば見るほど新しい見方、楽しみ方が見つかれば、その絵とは一生の付き合いが出来る。
講演の最後で、結城さんから聴衆ひとり一人に名画のポストカードがプレゼントされた。
ちなみに私がもらったのはボッティチェリの「ビーナスの誕生」であった。
今秋のagoraで「阿刀田高さんと読み解く【古代ギリシャ・ローマの知恵】」という講座をやる予定なので、ピッタリだ。
オリンポスの神々を虜にしたという美の女神アフロディテ(ラテン語でヴィーナス)の艶やかな物語をもう一度読み直すことにしよう。
この講演に寄せられた明日への一言はこちらです。
・http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/7月13日-結城-昌子/
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・名画は遊んでくれる(オトマカス/会社員/40代/男性)
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