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夕学レポート

2013年02月16日

「世界の経営学者はいま何を考えているのか」を読んだ

夕学ネタではないけれど、いつか夕学に登壇していただけることを期待して、きょう読んだ本について書いてみた。
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<以下書評>
ビジネス書としては珍しく、最初から最後まで一気に読んでしまった。
理由は「既視感がなかった」からかもしれない。
これはどこかで聞いたとか、どこそこで読んだという部分が少ない。私にとっては新奇性の高い本であった。
なにより挑戦的な姿勢がよい。
「世界の経営学のフロンティアを、体系的にわかりやすく紹介する。しかも実証性に基づいて」
などということは、日本の経営学者はまずやらない。というよりやれない。
実務家向けに、そんな本を書いているひまがあるなら、もっと論文を書け、校務をこなせと言われることだろう。
著者の入山章栄氏は、米国の大学に所属する30後半の経営学者である。日本では、経済学修士課程を修了しているが、経営学をまったく学ぶことなく、米国の大学で経営学PhDを取っている。
なるほど、だから書けたのだな。合点がゆく。
日本で経営学を学んだ人=日本の経営学者に師匠がいる人には書けない、思い切りのよさがある。
この本は、そんな健全な野心をもった若手経営学者が、米国経営学トピックの目利きに挑戦した本といえるのではないか。
競争戦略論では「ハイパーコンペティション」
組織学習は「トランザクショナリーメモリー」
イノベーション論なら「両利き(Ambidexterity)経営」等々
いずれも、著者がフロンティアとして目利きした経営学トピックである。
コンサル会社発信のカタカナコンセプトではなく、データに裏づけられた実証研究として注目されている出自の正しいものらしい。
もし、数年後、丸善丸の内店の一階に、これらのトピックが織り込まれたタイトルのビジネス書が平積みされたら、著者の目利きは当たったことになる。
真面目な話、「日本人には受けるかも…」と感じた。ひょっとしたら、目先の利く編集者はすでに動き始めているかもしれない。
コンサルタントの皆さんは要チェックであろう。
「日本の経営学のことは、ほとんど知らない」と著書が自ら語っているだけに、日本の経営学についての勘違いや早合点もあるようだ。
「米国の経営学者はドラッカーなど誰も読まない」という著者の主張が本当かどうかは知らないが、日本だって、ドラッカーを経営学の先行理論として提示する経営学者はほとんどいない。数少ない例外が慶應の菊澤研宗教授ではないだろうか。
日本でドラッカーを熱心に読んでいるのは、いまも昔も、経営者や実務家である。少なくとも昨今のドラッカーブームは日本の経営学の世界で起きたことではない。
日本の経営学の主流は、事例分析などの定性的な情報から経営の法則や含意を導きだそうとするもので、統計学的手法を使わない、という見解も事実とは違うのではないか。
もちろん、そういう学者もいるが、主流は「理論仮説をたて、統計的な手法で検証する」社会科学的なアプローチである。著者が標榜する姿勢とまったく同じである。
むしろ現在は、逆の危機意識が語られており、若手の経営学者は、統計手法に乗りやすい重箱のスミをつつくような研究ばかりしていて、理論が生まれないことが問題とされていると聞く。
とはいえ、冒頭に述べたように、最後まで一気に読んだ。仕事柄、たくさんのビジネス書を読むが、そういうことは滅多にない。
それだけ、面白かったということである。

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