夕学レポート
2013年06月04日
ミシマ社という名の実験 三島邦弘さん
「原点回帰の出版社」 「一冊入魂」 「ほがらかな出版社」
いずれも、三島邦弘さんが7年前にたったひとりでミシマ社を始めた頃から謳っているコピーである。
「キャッチコピーではありません」
三島さんは、そう言う。
キャッチコピーという言葉には、人目を惹くために、実体よりも大きく美しく見せようという虚飾の芳香がまとわりついているけれど、自分達は違う。
本当にそれにこだわっている等身大の自己を表現する、実感を込めた言葉である。
既存の出版社で失われつつある「大切なもの」を追究し、なおかつ持続可能な経営体を目指そうという「実験」だという。
無骨で一徹、でも明るく楽天的。
スマートでも、雄弁でもないけれど、素の人間として人から愛され、信頼される。三島邦弘さんとは、そんな人である。
創業にあたって、ミシマ社の方針として掲げたのは下記の3点であった。
1.絶版本は作らない
ひたすらたくさんの本を出して、出版社-取次-書店の三者間を激しく移動させることでお金を動かしている出版業界では、絶版になる書籍が急激に増えている。
自分達は、そういう土俵で勝負したくない。
納得のいく本を大切に、こころを込めてつくって、熱意をもって読者に届けたい。
2.書店との直取引
本の魅力は作った自分達が一番知っている、だからこそ直接書店員さんに伝えて、納得したうえで仕入れてもらいたい。
3.全員・全チーム
全員で編集して、全員で仕掛けて、全員で売る。そのためには小さな組織でいたい(現在ミシマ社は6名)
7年で40数点の書籍を出し、小さくともキラリと光る出版社として注目されるようになったいまも、そしてこれからもこの方針にこだわっていきたいという。
「原点回帰」「一冊入魂」「ほがらかな」の所以である。
最近、ミシマ社の精神を体現する本を出した。
就活大学生が大好きなミシマ社の本をお守り代わりに持ち歩いたという実話を聞いて、三島さんが閃いたコンセプトだという。
本は中身を読むだけのものではない。お守りのように肌身離さず携帯することだってある。
読者は、本が自分の手に届くまでに辿ってきた軌跡に思いをはせ、そこから目には見えない何かを感じ取ることができる。本は「手」で読むものでもあるはずだ。
見えない価値を伝える媒体、だから本を「メディア」と呼ぶのではないか。
本は、そういうものであって欲しいという三島さんの思いが伝わる企画だと思う。
この春から、新しいWEBマガジンをはじめた。
好評だった「平日開店ミシマガジン」を改名し、「みんなのミシマガジン」としてリニュアルしたものだ。
「平日…」の時代から、毎日ひとつ、質の高い読み物コンテンツが更新されることをウリにしていたWEBマガジンだったが、編集には手間と費用がかかる。継続するのは運営費だけでも賄えるマネタイズが必要になる。
かといって、スポンサーをつけてバナーだらけのページにはしたくない。マガジンとして独立性はなんとしても守りたい。
課金システムにも抵抗がある。そもそもWEBとはオープンであるべきもの。「ここから先はお金をもらってから…」というのは”ほがらか”ではない。
そこで考えたのがサポーター制であった。サポーターとして運営費を支援してもらい、その代わりにサポーター限定の紙の雑誌を作ってプレゼントしようという発想である。
サポーターへの発送にあたっては、感謝の意味をこめて三島さんが宛名を手書きしている。
500名の募集に対して、すぐに200名余りの希望者が集まったという。しかも、志に共鳴してくれた紙屋・印刷会社が紙の雑誌作りを無償で請け負ってくれた。
少しだけ誇張していえば、「みんなのミシマガジン」は贈与システムで回る新しい出版文化の実験でもある。
ミシマ社という「実験」に、これからも期待したい。
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