夕学レポート
2014年01月16日
問題を問題にするために 安田菜津紀さん
安田菜津紀さんは、1987年生まれ、26歳の若きフォトジャーナリストである。
16歳の時、NPO「国境なき子供たち」の友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされている子供達を取材したことをきっかけに、この道を志向したという。
中学校時代に父親、兄を相次いで亡くし、家計を支えてくれていた母親は安田さんが高校生の時、乳がんを患った。
やむなく生活保護の申請を考えた時に、制度を巡るさまざまな問題に当事者として直面した経験もある。
カンボジアの貧困と日本の貧困。理由も実態も悲惨の度合いも違うけれど、貧困に起因する本質的な問題は同じだと安田さんは言う。
貧困とは何か。それは「機会の欠如」ではないか。
貧困が、本人の努力だけでは越えられない壁を作ってしまう。その壁が、大人だけでなく、子供達が持つ可能性を奪ってしまう。だから貧困は連鎖する。その構造は、世界も日本も同じではないか。
安田さんは、母親の知識と周囲の支えがあって、奨学金と学費免除を受けて大学に進学し、希望する職業につくことが出来た。
一方で、同じ年齢の若者が、同じような家庭の貧困をきっかけに、さまざまな機会を失い、いつのまにかネットカフェ難民に堕ちていく。
自分と彼らの道を分けたものは、ほんのわずかな違いしかない。しかし、そこには、本人の努力や才能で片付けられない大きな問題が隠されている。
その問題に向ける強いまなざしが、安田菜津紀というフォトジャーナリストの原点である。
http://www.aftermode.com/gallery_natsuki.html
3年前、もうひとつの原点が加わった。
東日本大震災の津波被害で、入籍間もないご主人(フォトジャーナリスト 佐藤慧氏)の陸前高田の実家が被災した。
義父(医師)は、翌朝、孤立した市民病院の屋上からヘリコプターで救助された。寒空の屋上で過ごした一夜のうちに、何人もの重症患者が息を引き取るのを看取るしかなかった。
義母は津波に流され行方不明になった。一ヶ月後、愛犬のリードを握りしめたままの亡骸が発見された。
夫婦は、被災地の復興のプロセスを記録し、発表し続けることを誓った。
単なる復興賛歌ではない。被災地に暮らす人々の迷いや悩み、苦しみにもしっかりと寄り添いながら、人の数だけ存在するさまざまな思いを記録する。
http://f311.jp/
ジャーナリストの仕事は、問題を問題にすることだと思う。
貧困も被災も、それだけでは問題にならない。
多くの人に知られることではじめて問題になる。
「なんとかしなければならない」「どこかがおかしい」「何かが間違っている」という声が沸き起こることで、問題解決の歯車が回り出す。
汚職であれ、貧困であれ、災害被災であれ、その構造は同じである。
問題を問題にするために、多くの人に知ってもらう。
安田菜津紀さんの写真やレポートには、そんな思いが込められている。
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