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夕学レポート

2014年01月28日

つながる時代の経済 國領二郎さん

慶應SFCには、インターネットの黎明期から今日に至るまで、その啓蒙と普及、そしてインターネットが実現する社会のあり方について、提言を続けてきた研究者が何人かいる。
村井純先生はインターネット技術の専門家、金子郁容先生はインターネットとボランタリーな社会システムの思いを巡らし、國領二郎先生はインターネットによる経営や経済社会の変化を研究してきた。
photo_instructor_702.jpgそんな国領先生によれば、ITの分野では、パソコン登場以来の大変化が起きているという。
「クラウドコンピューティング」である。
PCによって、大組織でしか出来なかった大量情報の管理・分析がパーソナルな手許で可能になった。クラウドの実現により、手許におく必要さえなくなった。クラウドを通じてネットワーク化されたビッグデータが簡単に手に入る時代がやってくる。
もしチャンドラーが生きていれば、150年に一度の産業モデルの大変化が起きていると言うだろう。
国領先生は、そう言う。
1850年代にアメリカで生まれ世界を席巻した大量生産・大量販売モデルから、つながっている個客への継続サービスモデルへの変化である。
大量生産・大量販売モデルは、鉄道と電信による商圏の飛躍的拡大によって実現した。
顔見知りの間で行われるクローズドな取引から、名も知らぬ遠い地の人々に、これまでとは比較にならない大量のモノが売れるようになった。
未知の取引関係に対する信頼を担保するためにブランドが生まれ、定価販売が慣行となり、マスメディアよる広告がそれを加速させた。
販売とは、モノやサービスの所有権を移転することで、買った人はそれを独占所有できることに価値を見いだす経済システムである。
つながる時代の産業モデルは、大きく異なる。
特定個人の情報を深く追究することで、親しい関係ではなくとも、個のニーズを正確に捉えることができる。なんでも知っている執事の如くに、その人が欲しているものを、欲している時に提供できるようになる。
また、ある集団や地域のビヘイビアをかなり精緻に予測できるようになる。道路の渋滞、地域ごとの電力使用量がリアルタイムに把握できる。
そこでは、販売の意味が、所有権の移転ではなく、利用する権利を渡すという考え方に変わるだろう。音楽や電子書籍の世界で起きていることがあらゆる業界に起きてくる。
国領先生は、そう予言する。
限られた財やサービスを、多数の人がそれぞれの都合に合わせて便利に使い分けることが、システムとして可能になる。スマートグリッドが実現すれば、電気料金もホテルや飛行機のチケットのように受給バランスによって柔軟に変わりうる。
いいことばかりではない。
国領先生によれば、つながる時代を立体的に理解するためには、二つのインパクトを認識する必要があるという。
1)可視化のインパクト
つながることであらゆることが見えてくる。過去も、いまも、未来も。
分析できる過去データはPOSとはケタ違いになる。
ネットーク化されたセンサーを使えば、いま起きていることが瞬時にわかる。
未来の予測精度も飛躍的に高まる。
見えないものがみえることで新たな価値が発生するだろう。
同じ衝撃が、マイナスのインパクトとして押し寄せてくる。
1億総可視化社会の中で、新しいプライバシー問題が発生している。
あらゆるものをつなごうという哲学のもとで広がったインターネットが、わざわざつながりにくくするサービスをウリにするようになる。SNSはその典型である。
ポイントになるのは、「見せてもらえる特権」を持てるかどうかだという。
つながる産業モデルで生き残る企業の条件は、情報を預けるに足る存在として認めてもらえるかどうか。人や企業に対する信頼を担保できるかが成否を分けていく。
誰にも見せる世界、許し合った仲間にだけ見せる世界、誰にも見せない個人世界。
この三つの空間を適切に使いこなせるリテラシーが求められる。
確かに、企業、個人いずれも、ネット不祥事の多くは、三つの空間を使いこなせないことに起因している。
2)創発性のインパクト
つながる時代のイノベーションは創発型である。
多くの要因、多様性が複雑に絡まり合い、影響しあっている。その渾沌の中から、一気にエネルギーの向きが一定方向に揃った時に、思いもかけない価値が創出される。
創発はコントロールできない。
起きるかもしれないし、起きないかもしれない。創発が起きる可能性を高めることしかできない。そこを理解しないといけない。
創発プロセスをマネジメントするには、多様性が集まる場、つながりやすいインターフェース、コミュニケーションを促進するしかけが必要である。
そして、なにより冗長性に対する耐性がないといけない。ムダを許容できないといけない。
「効率的、無駄なく創発を起こす」という概念はありえない。
切れていた時代から、つながる時代。
その変化を理解することよりも、その変化に適応することの方が難しいのかもしれない。

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