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夕学レポート

2014年04月10日

成長戦略は、いまが正念場! 竹中平蔵さん

夕学五十講2014年度前期のトップを飾ったのは、竹中平蔵先生である。
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冒頭、竹中先生は、最近ことある毎に聞くという二択質問を投げ掛けた。
2013年一年間で日本の株価は57%の上昇、先進国ではダントツの上昇率。
世界の投資家がアベノミクスを、期待を込めて評価した結果であろう。
では、アベノミクスで日本経済はこれからさらによくなると思うか?
A:期待を込めてよくなると信じたい
B:期待はしたいが、よくなるとは思えない
会場の答えは6:4でAが多かった。これは珍しい結果だという。他でやると2:8でBが多い。世間はアベノミクスの先行きを悲観的に見ている。
これは現政権内の風向きと一緒だという。
「首相と官房長官だけががんばっている状態」
それが竹中先生の見立てである。
人々が懐疑的に見ているのが、アベノミクス第三の矢「成長戦略」の中身であろう。ここには、竹中先生も深く関わっている。
竹中先生は、安倍政権の「成長戦略」は、まさにこれからが勝負。海外投資家は期待しつつも不安を隠せない緊張状態で見守っているという。
竹中先生によれば、成長戦略や他の二本の矢とは評価ディメンションが違う。
一の矢、二の矢は需要サイドへの働きかけであり、 即効性がある。
成長戦略は、供給サイドへの働きかけなので、実現するまでに時間がかかる。
我々は、印象論や感情論に縛られずに、実現可能性を冷静に見極めねばならない。
では、成長戦略として、どのような絵図を描けばよいだろうか。


一般的には二つの考え方がある。
ひとつは、今後成長する特定の産業分野を選び出し、国が戦略的に支援し、育成するというもの。ターゲティングポリシーと言われる方法である。
もうひとつは、民間の活力が十二分に発揮できるような環境を整えるアプローチ。
竹中先生の立ち位置は、一貫して後者である。具体的には「規制緩和」と「法人税減税」に尽きる。
国際金融公社(IFC)と世界銀行が発表する規制緩和総合ランキングによれば、日本は47位 世界の先進国が30カ国と言われていることを考えると深刻な数字である。
行き過ぎと批判された 小泉構造改革時でさえ28位だった。
竹中先生によれば、岩盤規制と呼ばれる強固な規制は20近くある。
例えば、「株式会社の農地所有を禁止する」規制 (※借りることはできる)
これが、事実上農業への参入を阻んでいる。
農業団体の強固な反対により岩盤化している規制だが、一方で農家の後継者不足は深刻で、世界の誇るべき日本農業の潜在能力を活かせていない。
例えば、「医学部の新設が35年間も認められていない」
医療関係者の反対でこの状態が続いているが、一方で東北では深刻な医師不足が起きており、首都圏で同じ問題が起きつつある。
こういった強固な岩盤にドリルで穴を開けようというのが規制緩和である。
竹中さんが提唱し、現実化しつつあるのが、地域と分野を限定して規制緩和を進めようという「国家戦略特区」構想である。
3月に6つの地域指定は決まった。
東京圏(国際ビジネスの拠点)、関西圏(先端医療の研究開発拠点)、新潟市(農業)、兵庫県養父市(農業)、福岡市(雇用改革)、沖縄県(国際観光)の6つの地域である。
すでに枠組みはできつつあり、実行プランをつくる段階に入っている。ここでは各地域の首長の意欲と能力が鍵を握る。
夏頃までに、どこまで詰められるか勝負になる。海外投資家はその様子をじっと見ている。
いままさに正念場を迎えている。
成長戦略を進めるうえで、2020年東京オリンピックはまたとないチャンスである。
50年前の東京オリンピックでは、新幹線も首都高速などインフラ整備と同時に、新たな産業が勃興した。
外国人客を迎えるために、ニューオータニ、芝プリンス、赤坂東急キャピタルといった都市型ホテルが開設された。賓客や要人警護のためにセコムが誕生し、セキュリティビジネスが登場した。選手村の食事のために、冷凍食品とセントラルキッチン方式が開発され、ファミレス産業の基盤が整った。
オリンピックが新たなビジネスやライフスタイルを生みだしたのだ。
当時も反対勢力や懐疑的な声はあった。
改革の決め手になったのは「オリンピックだから」という殺し文句だった。
心理的バリアを壊すのにはオリンピックは効果的、いましか使えない。
夏までが正念場と読んでいるのは、規制緩和推進派だけではない。すでに反対勢力の猛烈な巻き返しがはじまっている。
これから夏にかけて、オリンピックという追い風に乗って、強固な岩盤に穴を開けられるのかどうか。注意深く見守りたい。

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