夕学レポート
2016年11月17日
マネージャーになる・育てる・幸せになる! 松尾睦先生
経済規模がなかなか思うように大きくならず、AIのように自分で経験を積み人間の仕事を代替する機械まで現れた。私たちは、昨日していた自分の仕事は明日なくなるかもしれないという不安が多くの人の心の片隅に常に陣取っているような時代で仕事をしている。諸先輩方に至っては、自分がエースだったころの仕事の仕方なんぞは通用せず、どうにかしてこの時代を切り拓く後世を育てたいという熱い思いのやり場を、探しているように見える。会場は、そんな諸先輩方が多く詰め掛け、私のように背伸びをして「マネージャーの育て方・なり方」の講演にお邪魔する若輩者は少数派であった。
だが、北海道大学大学院経済学研究科教授の松尾睦先生のお話はそんな部下の育て方やマネージャー予備軍である自分がどのように道を歩むべきかを教えてくれた。
まず、よきマネージャーを育てるには適切なタイミングで「質の高い経験を積み」土台を作らせることがカギだという。一般的に、社会人が中堅になるのは、仕事を始めて方6,7年目といわれている。微妙な状況の違いがわかり、業務の内容を分析しながら進めることができる。それを過ぎた10年選手とは直感的に判断ができるようになるかどうかが差であるステージという。この中堅のときに挑戦的な経験をすることが、よいマネージャーを育てるには必要である。この挑戦的経験によって「self-efficacy: 自分はできるんだという満足感」と「social capital: いわゆる人脈」を獲得することが有効である。
また、仕事の与え方についても留意が必要である。特に上司が仕事を与えるときに悩みを持つのは、仕事の創り方と任せ方なのだそう。先生は、仕事を創り出す際には、マネージャー候補の役割を見直し幅を拡大すること、他部門・関係者とのつながりまでを仕事の範疇とすることが重要だという。また、仕事を任せる際には、本人の成長と仕事のつながりの説明等を含む入り口段階での入念な準備や根回し、最小限の指示と手厚い側面支援のバランスを保つことが重要のようだ。
マネージャーになりたい人にとっては仕事を自ら創りだしていく作業が求められる。といっても大きな売上げや周囲への影響が生じなくてもよい。どんな小さなことでも自分の能力や勤め先への提供価値を広げられればよい。松尾先生は仕事の本質を見直し、業務内容や関係のあり方を創意工夫すること(=ジョブクラフティング)を推薦している。自分の仕事を観察・分析・提案・効率化通じて創意工夫することで、結果的に周囲から評価され、挑戦的アサインメントを与えられたりする好循環が生まれるという。
質疑応答では、中堅や20代の若手の仕事に対するモチベーションが低く、その結果挑戦的なアサインメントを課すことが難しいというマネージャーがどのように部下と向き合ったらよいかという質問がでた。先生は、そのような部下に対してはともに内省を促すこと、本人へ期待していると心から思うこと、仕事への姿勢ではなく方法を修正するように諭すことがよい対応であるとのこと。先生によれば、若手のモチベーション対応の解消はとても難しいとのことで、恐らく私は、若手がモチベーションを失うまでには多くの要因がかかわっており、だからこそその対応は難しいのだと思った。
先生のおっしゃる対応策に加えて、私は例えば自分の興味のあることを選択して、人と異なる多様な人生送ること自体を許容する仕組みを社会がきちんと構築、許容することも重要かと思った。一つの企業の成長や効率からは外れた大きな話なので、今回のテーマからは少しずれるかもしれない。しかし、もしかしたら人のモチベーションは一つの企業で対応するよりも、社会全体で解決するほうが上手くいく場合があるのではないだろうか。
終身雇用に裏付けられた企業では、どんなに自分が興味のない仕事だったとしても辞めさせられることはない。だとしたら、一定数の若者は興味のあることや得意なことより、辞めさせられない、最低限生きていくことができる道を選ぶのだろう。一方、ほんの少し自分の興味のあることを追いかけて、例えばその専門性を高めることができたなら、今より大きな社会的価値を提供できる人がいるのではないかと思う。新しいフィールドならマネージャーになりたいと思う人がいるのではないか。きっと自分の好きなことや得意なことが社内ではできないということ自体が多数あるはずなのに、日本人は結構自分の帰属する企業やコミュニティが自分の世界すべてだと思ってしまう節があると思う。定年が75歳になるとしたら、そんなに退屈で興味のないことを20代から50年以上継続するなんてことが、ちょっともったいないなぁと思う。自分のこどもには好きなことをさせたいという親はたくさんいるのに、なぜか子どもが中高校生くらいの年齢になると必ず塾に通わせて、いい大学に行かせたいと、この段階から非常に狭い考え方が適用される。
もちろん仕事だから自分の好きなことだけをしていれば対価がもらえるとは思わない。すぐに転職したり、自分の時間を好きなことに使うことがかなわない場合も多くあると思う。一方、自分の興味のあることならば、ジョブクラフティングがより積極的にできるし、結果的に日本の経済発展に寄与するところも大きいのではないか。すごく基本的なことを書いているのかもと思いつつ、少しずつ変わりつつある社会の兆しを是非ここで後押ししたいと思う。
(沙織)
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