KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2017年01月20日

回る大捜査線 清水聰先生

photo_instructor_851.jpg何の商売をしていても集客、とりわけ購買者を得るのは大変だ。日本語ではひと口に「客」というが英語ではこの辺りの区分けが厳しく、「visitor」(訪問者)、「customer」(購入者)と分けて呼んでいる。アメリカのとある店の店内放送で「Good morning, ***(店名) customers!」と流れてきた時には「アメリカではvisitorは挨拶されないの?」と仰天した。日本でなら新聞のコラム欄辺りに何か書かれてしまいそうである。そんなvisitorをcustomerにするためにはどうしたら良いのかのマーケティング提案が今回の清水聰先生の講演「新たな顧客マネジメント~循環型マーケティングの提案~」であった。


これまでの顧客マネジメントは顧客囲い込みに見られるような、「顧客獲得、獲得した顧客のライフタイムバリューの最大化が目的」でそれに対応した研究領域が展開(顧客満足研究、既存顧客データ活用、カスタマージャーニー研究など)されていた。しかしネット時代となり、上記の分析だけでは不足が目立つようになった。購買を決定する要因としてSNSの情報が加わってくるようになり、顧客との関係も一対一の「一人の顧客対企業」から顧客同士が繋がり、人の動きが変化してきたためだ。そのため顧客管理の方法や対象者もまた変化しなければならない。清水先生はこれまでの理論の説明とその限界、ネット時代に合わせた分析を研究し、その結果わかったことに焦点を当て講演、そして新しい理論である循環型マーケティングが提唱された。
循環型マーケティングは、新しい消費者意思決定プロセスの枠組みで、「認知→興味関心→情報探索→購買→情報共有→認知→興味関心→・・・」と潜在顧客の中で情報が広がる流れを示す。そして個人の経験が個人の中だけで完結するものではないと仮定することで様々な消費者のカスタマージャーニーに合わせて体系立てが可能となる。更にはマス媒体によって認知する人、売り場で購入を決定する人、口コミから入る人などを整理する。そうすることで自社ブランドでは、どこから上記循環の中に入る顧客が多いのか、新たなメディアの役割や戦略の立案、消費者の新たなセグメントや役割の明確化が可能となる。循環を考えた上で改めて消費者のコミュニケーションの枠組みを「購買に至るまでの行動(例:「マスメディア(での宣伝の視聴)+店頭」で購買に至る場合)→購買の場での行動(例:「主に店頭(店内)」で購入に至る場合)→購買後の行動(例:マスメディア+店頭で購入後、口コミする場合)(例:口コミから購買が誘発される場合や、再購買が生じる場合)」に分け、分析する。
こうした分析によってこれまで当たり前だったことを見直すのは大変面白くやりがいがある。私はかつて部屋の機能を見直すため、「その部屋で何をするか」との分析をしたマーケティングの文章を読んで目から鱗が落ちる思いだった。例えば寝室なら寝る以外に着替え、読書、ゲーム、メール、テレビ観賞、ヨガ、子供と遊ぶ、化粧・・・と「寝室」の一言で片づけるとすっぽりと抜け落ちてしまう諸々の活動を見直すことで大きな発見と販売機会があることに気づかされた。知的ゲームの要素が満載で、その過程は、犯罪捜査のドラマでよく見る、ホワイトボードに関係者の顔写真を貼って、時系列・関連別に行動を書き出すアレに通じるものがあるのではないかと思うほどで、ワクワクすることこの上ない。(別に犯罪捜査担当者がワクワクしながら捜査をしているとは言っていない。しかし何らかの高揚感を覚える時はあるだろう。)その図表を見ていくうちに見落としていた事の発見や、発想の発展があるのはマーケティングも同様と感じずにはいられなかった。
今回事例紹介されたのが、「みんレポ」での調査分析である。既存のサイトとは異なり、同サイトでは「いいね」の先の購買行動、ユーザーの発信の理由などが追跡できる。そこからわかったのは安価な商品であっても情報収集してからの購入が増加していること、広告と店内プロモーションの連動の重要性だ。より多くのメディア(テレビ、新聞・雑誌、口コミ、店内プロモーション)に触れている人が購入を決め、時々他商品に浮気(トライアル)しながらその商品に戻ってくる。彼らこそ感度の高い真のロイヤルユーザーであり、販売側はここを捉える努力をしなければならない。感度が高いユーザーは情報発信力が強く、顧客間の相互作用が強い(情報を回せる)ため新たな購入者を生む。同じ商品を続けて買っているだけのユーザーは惰性で買っていることが多く、別の新商品が登場した時など何かの拍子に急に買わなくなる危険性がある。これはロイヤルユーザーとは呼べない。また他メディアに触れてから購入するなどの感度も低いため、この層に依存してしまうとブランド自体が古くなる心配もあるそうだ。
感度の高いユーザーを引き付けるには「話題になっている」かがポイントだと清水先生は強調する。単に「認知」しているレベルでは弱い。「最近よく見る」レベル(それも多メディアで)になる必要がある。これは店頭の貼り紙程度でも良いそうだ。実際、こうした張り紙やポップは大きな威力を発揮する。
私及び私の周辺の例を挙げよう。以前フライパンと鍋を買った。自分が感度のいい顧客層とは思わないが、フライパンも鍋も長く使用するもので、特にフライパンはテフロン加工のものが割とすぐ駄目になったためよく調べて(インターネット及び店頭で)から購入した。その結果購入したやや高価な鉄のフライパンは大変良いものだったので今では人に強く勧めている。鍋もあれこれ調べた結果だったので当然良いものが買え、結果として得られた満足感が人に勧める動機になっている。私の「鍋感動話」につられて購入した人もいる実績があるので、清水先生の話は共感を呼ぶものだった。先生の話を私なりに咀嚼・補足するならば「調査・吟味→満足度の高い商品購入→情報発信力→次の購入」のプロセスが発信力の源になっていると思うがいかがだろう。
(太田美行)

メルマガ
登録

メルマガ
登録