夕学レポート
2006年02月01日
新潟を世界一にする 池田弘さん 「アルビレックス新潟の奇跡と軌跡」
冷たい冬の雨をものともせず、人懐っこい満面の笑み浮かべながら池田さんは控室に現れました。スーツの襟元から覗くのは鮮やかなオレンジのクレリックカラーシャツ。オレンジはアルビレックス新潟のチームカラーです。
池田会長は、構えは小さいながらも新潟で一番の古社の宮司として生まれ、いまも現役の神主さんであると同時に、23の専門学校と高校・大学を要する北陸有数の教育グループ新潟総合学院の理事長、サッカー、バスケット、陸上競技、ウィンタースポーツのチームを運営するスポーツビジネス企業 アルビレックス新潟の会長、そしてベンチャーインキュベーションを目的に組織化されたニューベンチャービジネス協議会の会長を務めます。宗教・学校・スポーツ・企業...人間が社会を営むのに不可欠な要素の多くに経営者・リーダーとして関わっていることになります。一見脈略のない事業連鎖のように見えますが、池田さんの中では極めて筋の通ったシナジーが描かれていたのでしょう。聴く人に、そう納得させる講演でした。
池田さんの最終目標は「新潟を世界で一番の街にすること」だそうです。神主さんとして、参拝者の健康や幸せ、地域の平和を祈る気持ちが高じて、地域を担う人材を育てるための学校経営に両翼を広げ、その延長線上に地域活性化のためのワールドカップ誘致と球場建設(ビッグスワン)が展望されました。アルビレックス新潟を作ったのは、誘致を確実なものにするための地元チームが必要だと言う地域の声に押されたからだとのこと。
新潟は、中世には東北貿易の拠点として隆盛を極め、江戸時代には北前船の中継港として、近代は東アジア貿易の窓口として栄えました。ところが近年は衰退が激しく、若い人の流出も止まりません。地域の人々が誇りを持って応援できるサーカーチームを作ることは「新潟を元気にする」ためにも必要なことだと考えたのでしょう。
とはいえ、チーム経営は困難をきわめたようです。1億円以上の資金を持ち出したうえに債務超過寸前に追い込まれ、大量の選手解雇をせざるをえませんでした。なんとかW杯会場のひとつに新潟が決まった時点で「チーム経営から足を洗うべきだ」との忠告も多数あったそうです。それらの苦難を乗り越えて、アルビレックス新潟をJリーグ一番の集客を誇る人気チームに育て上げ、いまや地域スポーツ経営のモデルとまで言われる程になりました。それもひとえに、新潟の活性化に掛ける池田さんの思いと地元チームをファミリーの一員として粘り強く応援してくれた地域の人々の情熱の結晶といえるでしょう。アルビレックス新潟のサポーターは、老人や子供の姿が多く、ブーイングを嫌うとのこと。かつての甲子園には地元高校の出場に街をあげて祝福し、勝ち負けに関係なく暖かい拍手を送った老若男女の姿が全国津々浦々にありましたが、それに近い一体感がもっと洗練された形で実現できているような印象です。
「新潟を世界で一番の街にする」という目標に対して、何合目まで来ていると思うかという質問に対して、言下に「まだ1合目にも来ていない」と喝破した池田会長の眼にはまだまだ大きな野望の光が灯っていました。
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