2012年03月13日
座談会 『10年目のリフレクション』をリフレクションする
2012年2月18日(土)
於)慶應丸の内シティキャンパス
他者からの反応によって深まり、磨かれた「私の10年」
城取
2010年11月に連載をはじめて1年3カ月、予定した13人の発表が終わりました。タイトル通りに、我々が『キャリア・アーキテクチャ論』プログラムで出会ってから10年になりました。今日は、この企画の区切りとして、「10年目のリフレクション」をリフレクションしてみたいと思います。
まず最初に、「10年目のリフレクション」を発表したことで、周囲(家族、友人、職場)から何か反応はありましたか?
小柳
高校時代の友人から、フェースブックを通じて「見たよ」という突然の連絡があって驚きました。
「キャリアとは自分の生きる意味をのたうちまわりながら探すこと」「でもそれを楽しむこともできる」という、最後の文章に共感したと言ってもらいました。きっと、そこしか憶えていなかったんだろうけれども(笑)、単純に嬉しかったですね。その後、彼と30数年振りに直接会うことになって、互いの30年間を語り合うことになりました。
それがきっかけになって、高校の同窓会にも初めて出席しました。 以来古い友人たちと、少しずつですが、つながりだしました。そうなると面白いもので、会社の仲間と知り合いだったことがわかったりして、世の中狭いなぁって思いましたね。
あと、家族には何も言わなかったんですが、もしかすると娘がいつか見つけて読むかもなあという気持ちはあったかもしれませんね。家内はたぶん見つけないと思います(笑)。
[小柳晶嗣]
1961年生まれ、東京都出身。広告会社の人事部長として多難な毎日だが、企業やNPOの教育プログラムを公立中学に導入する事業の立ち上げに参加。現在もボランティアとして活動中。趣味は旅とバイクと音楽と読書とキャンプと宴会と料理など。
細川
僕も誰にも言っていなかったので期待していなかったのですが、たまたま仕事上(エグゼクティブサーチ)でお会いした候補者の方が、事前に僕のことを「どんな人間だろう」と調べていらしたようで、「10年目のリフレクション」を読んでいらっしゃいました。
自分が会社を作った時の思いや考え方を書いてあったので、「こういう考え方で仕事をされているのは、候補者の立場からするとすごくありがたいと思うし、今日お会いするのを楽しみにしていました」と言われました。
こういう使い方もあったのかと逆に驚きましたね。
[細川泰史]
1962年生まれ。京都大学工学部工業化学科卒。新卒でリクルートに入社。以来、人事、採用、キャリアに関する仕事に一貫して携わる。2006年にリクルートを卒業し、株式会社キャリアエージェントを設立。口コミの紹介だけで知り合った候補者のキャリア支援をするという、新しいスタイルのエグゼクティブサーチ事業を展開。
鈴木
そうか-、そういう使い方があったんですね(笑)
城取
お書きいただいたご自身にとって、どんな気づきや発見があったでしょうか?
山川
書いたことよりも、書いたものに対する皆さんからのフィードバックをいただいて、何度も書き直すというプロセスが良かったと思っています。
ちょうど、自分自身の中で引きずっていたものから前に進もうとしていたところだったので、合宿やお酒の席も含めて、皆さんから率直にいろいろ言っていただいて、それこそ、ぐっと前に進んだという感じでした。
城取
確か3回か4回ぐらい書き直しましたよね。 皆さん、なぜか山川さんには厳しかった(笑)。
山川
私が一番メリットあったんですよね。お陰様でありがとうございました(笑)
[山川純子]
1959年生まれ。自動車メーカー、ITベンチャー、ホテル系列人材会社を経て、2003年独立。有限会社インタリストを設立し、フリーランスのライフキャリアアドバイザーとして、個人の転職支援・キャリア形成支援に取り組んでいる。2004年から2007年にかけては、地方のジョブカフェ(若年者の就職を支援する公的施設)の立ち上げに参加。
鈴木
私は、これを書いてみて、結構自分勝手に好きなようにやってきたつもりだったのが、実は周囲との関係の中で自分のキャリアが出来てきたんだなぁということに、改めて気づけたことは良かったですね。
城取
鈴木さんは、確かこのプログラムが開講する直前に起業をしていたんですよね。
鈴木
その前段階のモヤモヤしていた時のことを、前半部分で書いているんですが、だからこのプログラムに出た時には、「さあやるぞ」「やらなきゃいかん」という感じの時でした。
「犬も歩けば棒にあたるキャリア」って、書いていますが、この考え方は、構造的な変化が起きている時代には重要だと思っていて、私がいま大学生にキャリア教育をしているなんてことは、10年前にはまったく考えていなかったし、10年後にもこれをやっているかもわからない。
でも10年やってみて「自分はなんとかやっていけるだろうな」という自信は持てましたね。何があろうとも変化に対応できるだろうなという自分への信頼みたいなものは出来たと思います。このまま「犬も歩けば・・・」、でいいのかなって(笑)。
[鈴木美伸]
半導体製造装置企業の人事採用業務、米国ITコンサルティング企業の日本法人採用責任者を経て、現在は採用コンサルタントとして活動しながら、全国の大学で就職支援、キャリア教育を通じ、大学生のキャリア形成を支援している。雇用政策の研究で通学していた大学院で、昨春から特任教員として、学生のキャリア教育を担当する。
普通のビジネスパーソン13人13通りのキャリア道
城取
それでは、続いて、自分以外のリフレクションでは、どなたの記事が印象に残ったのかを聞いていきましょうか。
夏目
私は「10年目のリフレクション」を書いていないのですが、自分も同じような仕事(人材紹介)をしているということもあって、細川さんの記事ですね。「キャリアの根っこを見つけてあげて、共有する」という細川さんの仕事上のスタンスには共感しますし、自分もこうでなければいけないな、と襟を正すことができたと思います。
[夏目俊希]
1965年生まれ。愛知県出身。外資系製薬メーカーにてMR(医薬情報担当者)に従事。その経験を活かして、医療業界に特化した人材サービス会社に勤務した後、MRのアウトソーシングビジネスの立ち上げに参画。スタートアップを成功させた後、現在は独立し、MRに特化したキャリア支援ビジネスを展開中。
小柳
細川さんは、「根っこ」という言葉をどういう意味で使っているんでしたっけ?
細川
その人の軸になっている考え方だったり、こだわりであったり、仕事を通してどうなりたいのかという自己実現の鍵になるものという意味で使っています。
夏目
私の紹介した人を細川さんに面談してもらったことがあるんですが、「どうだった?」って聞くと「初めての経験をさせてもらいました」って言うんですよね。
転職相談というのは、職務経歴書に沿って、仕事上の話をずっと聞いていくのが普通なんですが、細川さんは、子供の頃の話なんかを時間をかけてじっくりと聞いてくれて、そこまで遡ったうえで、あなたの「根っこ」はこうなんだね。という話に進んでいったと言っていました。
山川
私は、自分と正反対という意味で、松尾さんの文章が印象に残りました。
すごく努力家でいらして、若い頃からキャリアのことを考えて、積み重ねてきたんだなぁ、という気がしました。
これまでお会いして話してきた松尾さんのイメージと随分と違うという感じがして、隙のない、理詰めな文体で感心してしまいました。
城取
松尾さんの文章の最後に「キャリアのグランドデザインを再修正した」って書いてあるのが、気になるよね(一同笑)。今日ここで詳しく聞きたかったなぁー。
鈴木
私は小柳さんです。ある大学の就職課が開催する企業研究会に講師として呼ばれた時の体験の部分が印象に残こりましたね。広告代理店の人って、エラそうな人が多いんだけど、小柳さんは、すごく緊張して、冷や汗かいたとか正直に書いてあったでしょ(笑)。私も、大学のキャリア教育で、一般社会人のキャリアを大学生に聞かせるという授業を増やしたいと思っているところです。
小柳
あの時は、学生が自分では思ってもみないことを聞いてくれて、それに答えることで、新しい引き出しを見つけてもらったという印象でしたね。自分でも「あれ、オレこんなこと考えてたんだ」という驚きがありました。
細川
僕は、皆さんとまったく違うことが書いてあったということもあって、塘口さんが印象に残りました。出産を経て、子育てを介して、自分のキャリアの選択基準が変わるということ書いていらっしゃいましたが、子供を育てながら働く人がどんどん多くなる世の中のことを考えると、こういう視点というのは大切だなぁ、と思いました。
子供の小学校入学をきっかけに、子供との時間を大切にしたいと思って、会社を辞める決意を固めた、と書いてあったけど、こういうことも重要なキャリアの選択だと思います。
城取
塘口さんは、「キャリアとは、自分自身の心の声に素直でありたいと思う気持ちと、周囲の期待に応えたいと思う気持ちのぶつかり合い、そのたびに自ら選択した結果の産物である」というキャリアの定義を書いていらっしゃいますが、これは我々にはちょっと言えない言葉ですよね。
小柳
私は、城取さんですね。皆さんもそうだと思いますが、あの時慶應MCCにはこういうドラマが進行していたんだという驚きがありました。城取さんは、飄々としているし、きっとハッピーに働いているんだろうなと、ずっと思っていたんですけど、実際は大変だったんですね。全然気がつかなかったなぁー。
城取
あのプログラムがものすごく勉強になって、皆さんと過ごす時間が楽しかったということで救われたという思いがあるので、感謝をしています(笑)
[城取一成]
1961年生まれ。長野県出身。社会人教育事業に携わって20年余。2001年1月慶應義塾の新しい社会人教育機関として開設された慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)に参画する。2004年から慶應丸の内シティキャンパス ゼネラルマネジャー。
城取
さて、僕は山川さんですね。
「自分はささやかな1本のマッチ棒のような存在にすぎない」「でも、世の中には、踏んでも水に浸けても火が消えないマッチがある」という部分がすごく共感できたんですよね。自分のリフレクションにも通ずるものがあったので。
金井先生は、きっとこのフレーズに反応するだろうって、山川さんに予言したけど、外れちゃいましたね(笑)
山川
先生は、「小器こそ晩成を目指して」っていうタイトルに反応してくださいました。
城取
松盛さんのリフレクションもよかったですね。
「今は、魔の14:00がちょうど過ぎたあたりだろうか。一番眠い時間を過ぎたあたりである。夕方の活動に向けて、休養は十分とれたようにも思う」ってところ。
そうか、この人は、これからもうひと勝負する気が満々なんだな。次に何をやるのかなってのいうのが興味深いですね(笑)
鈴木
人からは「ボケた顔になった」と言われるけれど、自分ではそれもまたいいかと思うっていうところも良かったですね。
細川
秋田さんについては、いろいろな思いを裏側に込めたような文章だと思いますね。
いまは人事を離れて、研究部門の支援部門のマネジメントを担当されているようですが、自分でもっと何かをデザインしたい、作りたいという思いがある。一方で、組織の中の役割、ミッションを成し遂げながら生きることの意義も十分に感じている。その両方があるように思います。
ふたつの思いを同時に抱えながらも、それを矛盾なく統合することができるし、それこそがキャリアなんだ、ということを信じる意志みたいなものを感じました。
小柳
土肥さんの文章を読むと、価値観の転換が起きている最中のような気がするなぁ。
細川
肩の力が抜けて、いろいろな風景や幸せが見えてきたという感じじゃないでしょうか。自分で世界を切り拓いていくという段階から、置かれた環境を楽しもうという感じ。どんな環境でもやれることはあるし、楽しむことができる、それを見つけていこうという意欲みたいなものが伺えますね。
城取
岩田さんも、いかにも岩田さんらしい文章でした。
「誰もやっていないことに、挑戦する」それが私のDNA=キャリアアンカーである、と言い切れるのは岩田さんらしいと思うな。
広島大学の大学改革、慶應の創立150年事業として創設した「福澤諭吉記念文明塾」など、具体的な成果を出してきた人ならではの表現だと思います。
山川
笹島さんについて言うと、「幸せ上手な人」だと思いました。
苦しい時も腐らずにやっていれば、きっと人は見ていてくれると諭してくれた上司の方とか、大企業は転職しなくてもいろんな仕事ができるからラッキーじゃない、と言ってくれる奥様とか、すごく周囲の人から恵まれているような印象でした。
きっと一生懸命にやってきて、周りの人にも感謝してきたからだと思うけど、ちょっと羨ましいですね。
小柳
作田さんが最後の方でサミュエル・ウルマンの詩を紹介しているあたりには、哲学的な意志のようなものを感じるなぁ。
作田さんは、我々よりひと世代上で、一歩先の人生を生きているわけですが、ビジネスの第一線をリタイヤした後のロールモデルとして理想的な生き方を志向されているように思います。
「三足の草鞋」という表現をされていますけれども、社会の大義と自分のやりたいことを一致させようという意志があるように感じました。
2020年へのambition
城取
最後になりますが、これからの10年をどんなふうに生きていきたいかを皆さんにお聞きしたいと思います。
鈴木
私は、これからはビジネスを2割、大学生の教育を8割位の比率で生きていきたいと思っています。キャリア教育が中心ですが、社会で働いている人のリフレクションを学生に聞いてもらう場をどんどん作っていきたいですね。
それが社会に育てられた自分の恩返しかなぁと思っています。
細川
僕は、全て口コミでいろんな人(候補者)と会っているんですが、独立してから会った人がもう1100人を越えました。同じように企業側も口コミで増えてきました。
もともとこういう形でやろうという思いでビジネスをはじめたんですが、お陰様でその時に考えていたような形になってきたという実感を持てるようになりました。
自分で積み上げてきた人脈や資産を、これからもずっと大切にしていったら、その先に何が見えてくるのか、また何が起こるのかが、いま楽しみにしていることです。
夏目
私は、MRに関わる人材ビジネスの領域で長いことやってきましたが、ここに来て「MRのことなら夏目」「メディカル分野のキャリアならアイツに聞け」というようなことを、いろんな人が言ってくれるようになりました。
今は、仲間と「MR塾」みたいなものをやろうという話もしています。
小柳
「自由に、自在に、怖れずに、学びながら、やわらかに、楽しく、自然に」生きていきたいと思います。
この数年は会社の仕事もやはり大変でしたし、またプライベートでも親の介護などが続いて、時間も体力も使わざるを得なかったという事情もあって、こういう価値観をあまり充分に生きてこれなかったという思いがあるので、余計にそういう気持ちがあります。
自由に、やわらかに、っていう感覚を自分の真ん中に取り戻して、そこから生まれてくるものを大切にしたいと思います。
山川
私は、ただシンプルに、自分らしく一日一日を大切に生きていきたいですね。
城取
こうやって話していると話題が尽きませんね。また合宿でもやって、とことん話しましょう。
今日はどうもありがとうございました。
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