KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2014年04月08日

花田 光世「先の読めない世界だからこそキャリアというアクセルで元気の一歩を踏み出そう」

花田光世
一般財団法人SFCフォーラム代表理事、慶應義塾大学名誉教授

「不安」に充ちた時代のキャリア

今私が専門とするキャリアの分野で見る限り、キャリア自律、キャリアデザイン、ライフキャリアは「不安」に充ちた時代です。社会に出たばかりの若手は、自分の力が社会で通じるのか、期待・希望するような仕事ができるのか。30歳前後の社員は責任ある仕事を任せてもらえるのか。40代の社員は管理職への期待が遠のく中で、今後の仕事人生をどのように送ったらいいのか。50代社員はいつポストオフ、ロールオフをされるのか。60代の社員は何歳まで働き続けることができるのかなどなど、「不安」をあげたらきりがありません。

加えて、自分らしさの発揮への「不安」の反対側にある「元気」の世界は、そこへの到達・達成の準が非常に高くなり、普通の人が普通に努力をしている限り、とても達成できないレベルに祭り上げられてしまっています。普通の人が到達できない高い基準レベルなのです。

キャリアとは不安の対極にある「チャンス」であるべき

私の基本的な疑問は「それでいいのか」です。キャリアはむしろだれもが「チャンスを感ずるもの」「愉しくてワクワクするもの」「チャレンジしたくなるもの」です。気遅れして、滅入ってしまい、逃げたくなるようなものではないはずです。キャリアをもう一度「チャンス」と感じられるようにすること。これが私のミッションであると考えています。

今、小学生・中学生の子供たちにキャリアを理解してもらおうという、キャリア教育が動き始めていますが、その基本は「世の中、ワクワクするような仕事にあふれている」という認識を持ってもらうことであると思います。どのような仕事も、社会にとっても個人にとっても重要であり、大事なもの。どんな小さなことであっても、必要とされ、お役にたてる重要なものであると認識し、理解してもらうことが重要であると考えています。とてもレベルの高い、高邁な自己実現や理想主義的なことを言ってもしょうがない。そんなアジテーションをしても、世の中の現実に直面した時、挫折感を持ってしまう可能性が高くなってしまいます。世の中の現実が厳しいだけに、その可能性は高いですよね。

私は、世の中は理不尽であり、矛盾に充ちており、予測不能であり、何が起こるかわからないと認識しています。でもそういう世界だからこそ、私たちは自分自身の世界を構築し、一歩踏み出すことを求められているのではないでしょうか。その時大切なことは、世の中は希望があり、可能性に充ちており、チャンスにあふれているという、前向きな気持ちと意欲を持つことです。自己否定、ネガティブな自己イメージからは一歩踏み出す勇気がわいてこないのではないでしょうか。苦しい中でも、自分の可能性、生きているからこそできることに眼を向けるための支援が大切であると考えています。

「元気の世界」から最初の一歩を踏み出す

最初の一歩は小さいものでかまいません。元気も最低限のレベルでいいからまずは「元気の世界」に自分を置き、そこから一歩一歩歩んでいくのだという自己認識を持つことからキャリアを考えていきたいのです。今まで、いろいろ自己の振り返り・気づきに関する自己チェックの指標を作成してきましたが、私の指標は皆、一歩の踏みだしにつながるものです。元気度、キャリア自律度、居場所作り度、人間力度、などなどです。ネガティブな自分のイメージの可視化につながる指標は作成してきませんでした。

そのような視点に立って、キャリアの実践において、私は不安に寄りそうだけではなく、一歩踏み出す元気の支援に軸足をおいたキャリアアドバイザーが重要であると考え、活動をしてきました。慶應丸の内シティキャンパスで2003年から開催している『キャリアアドバイザー養成講座』の基本スタンスです。一歩の踏み出しを通して、個々人が元気にキャリア開発に向き合うための第一次支援と、そうして元気になった方々が、組織の活性化のために相互支援・啓発を通して活動をしていく第二次支援がキャリアアドバイザーの重要な活動と考え、10年間その育成に力を入れてきました。今年11年目に入り、キャリアアドバイザーの役割はますます個人にとっても組織にとっても重要となると思います。これからも慶應MCCと連携して、キャリアアドバイザーの育成に力をいれていくつもりです。

キャリア構築を後押しする5つの「C」のアクセル

私たちは、先が読めない、見通しの立たない、何が起こるかわからない世界で、未来予想図を描くことを求められています。だから、私は”未来予想図パートII”ならぬ、”パートC(キャリア)”をめざしたいと思います。ドリカムの人気曲である『未来予想図II』では、愛の印として「ブレーキ」が5回踏まれます。でも私の”未来予想図パートC”ではブレーキではなく、「アクセル」を5回踏みます。

「Chance:チャンスを創る」、「Challenge:挑戦する」、「Create:創造する」「Contribute:貢献する」「Care:いつくしむ」という5つのCで前進するキャリアのアクセルです。

キャリア作りは苦しいものでも、不安なものでも、避けたいものでもなく、むしろ、チャンスを生み、新たな価値を創造し、周囲や社会に貢献し、そしてLoving Care、生きることをいつくしむことにほかならないことだと思います。

私がめざしているキャリア論は、いたずらに不安にとらわれることから脱却し、新たな可能性に充ちたライフスタイルの構築に向けて前向きな第一歩を踏み出すことをベースとしています。これからも皆さんと一緒に、元気になるキャリアの実践を愉しみたいと思っています。

花田光世(はなだ・みつよ)
花田光世

  • 一般財団法人SFCフォーラム代表理事
  • 慶應義塾大学名誉教授
南カリフォルニア大学Ph.D.-Distinction(組織社会学)。産業能率大学教授、同大学国際経営研究所所長を経て、1990年より慶應義塾大学政策学部教授。企業組織、とりわけ人事・教育問題研究の第一人者。
日本企業の組織・人事・教育の問題を研究調査、経営指導する組織調査研究所を主宰する。特に最近はキャリア自律プログラムの実践、キャリアアドバイザーの育成、Learning Organization の組織風土づくりなどの研究や実践活動を精力的に行う。
日本人材育成学会副会長、産業組織心理学会理事をはじめとする公的な活動に加えて、企業の社外取締役、経営諮問委員会、報酬委員会などの民間企業に対する活動にも従事。現在は、キャリア・リソース・ラボの活動に加え、財団法人SFCフォーラム代表理事として活動。著書に『新ヒューマンキャピタル経営 エグゼクティブCHOと人材開発の最前線』(日経BP社)、『「働く居場所」の作り方‐あなたのキャリア相談室』(日本経済新聞出版社)、『その幸運は偶然ではないんです!』(ダイヤモンド社)などがある。
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