ピックアップレポート
2015年05月12日
豊田 裕貴「知識ゼロからのビジネス統計学入門」
「ビジネスでの成功には、ビジネスパーソンとしての知識や経験が必要だ」という意見に声高に反論する人は少ないだろう。しかし、ビジネスパーソンとしての知識や経験はどうやったら効果的に得られるのか、という問いに十分な答えを持っている人がどれだけいるだろうか。これらに対しての答えを持っている人が、ビジネスで成功している人といえるだろう。
もちろん、その方法は多種多様である。公私にわたる修羅場をくぐり抜けることで知識と経験を積むのもひとつの方法。MBAで理論やケースを学ぶというのもひとつの方法だ。どれも魅力的だが、ここでは「ビジネスデータから学ぶ」という方法を提案したい。
ビジネスデータには、さまざまなものがある。たとえば、売上げやシェア、利益といったデータ。これらは、多くのビジネスパーソンの努力の結果が数字として記録された情報である。だとすれば、ビジネスデータを分析するとは、実は、ケースや歴史から学ぶことと同じ側面を持っている。つまり、多くの先人の知恵や工夫の結果から学べるという共通点だ。
にもかかわらず、ケースや歴史に学ぶ人に比べて、データ分析のアプローチを採用する人が少ないのは、データ分析が「難しい」という誤った先入観があるからだ。実際には、データ分析の本質を理解してしまえば、あとは、ケースを読み解くのと一緒で、推理力と仮説構築力、そしてストーリー展開力での勝負になる。
本書は、7つのMissionを通じて、データ分析の本質をケースと共に体感し、先人たちの知恵や経験を吸収する術を身につけられるように設計されている。
Mission1 売上データを分析せよ【学ぶ手法:要約】
ビジネスの現場で取り扱うデータの種類はさまざまだが、なかでも売上げに関するデータを目にする事は多いだろう。データをただ眺めているだけではもったいない。統計学の得意技は「平均」や「要約」だ。
Mission1では、売上金額や来店人数といった身近なデータを基に、データの全体像を把握するための「要約」について学んで行く。
Mission2 売上げデータを比較視点から分析せよ【学ぶ手法:比較】
「今日はいつもより売上が多かった」「今期は予想より来店人数が少なかった」など、データ分析で重要なのは「比較」をすること。同じような成績の2つの店舗でも、来店人数や売上金額で比べると新しい知見が得られる。この場合、「いつもより」「予想より」など、基準となるものと比較して判断することが大切だ。
Mission2では、「比較」という視点を導入する。計算式を使って、手元にあるデータを比べていく。
Mission3 2店舗の売上げ能力を比較せよ【学ぶ手法:推定】
ビジネスの現場では、いつでも詳しいデータが揃っていることは少ないだろう。一部のデータだけでも、比較はできる。そして、判断を誤る可能性を含んだ、難しい意思決定をしないといけないこともある。
Misson3では、「2店舗の売上げ能力の比較に差があるといえるのか」を検証しながら、誤るリスクを加味する方法を見ていく。
Mission4 顧客満足度を分析せよ【学ぶ手法:変数の組み合わせ】
マーケティングで重要なのは、どれだけ顧客が満足しているのかを把握することだ。顧客になってもらっても、一度きりの顧客ではビジネスが成り立たない。満足度を基にすれば、その店の問題点・改善点も見えてくる。Mission4では、とあるコーヒーショップの調査データ(アンケートデータ)を基に、要約や比較分析を駆使してデータの分析を見ていく。
Mission5 仮説視点でビジネスデータを活用せよ【学ぶ手法:仮説】
ビジネスでは現状をさらに良い状態にもっていくことが重要であり、その為にはデータを分析し、目標を立てる。ただし、やみくもに目標を立てても意味はない。
Misiion5では、今あるデータを分析して仮説を立て、その検証方法を学ぶ。
Mission6 表やグラフでビジネス仮説を検証せよ【学ぶ手法:仮説検証】
全く新しい商品サービスでない限り、顧客はすでに他社の商品サービスの利用者である。満足度や重要度を基に顧客を掴んでも、その顧客を他社に奪われてしまうこともあるだろう。では、顧客は何を基準に他のメーカーを選ぶのだろうか。
Mission6ではさまざまな表やグラフを使って、ブランドスイッチをテーマに、とある携帯電話会社(キャリア)の分析を見ていく。
Mission7 売上げを改善するヒントを探す【学ぶ手法:モデル分析】
商品の売上げを変えたいと思ったとき、まず考えるのは商品価格の変更だろう。しかし、値下げをすれば本当に売上げはあがるのだろうか。また、他社が同様の商品の価格を変えて販売した場合に影響は受けるのか。
Mission7では、価格や広告が売上げにどのくらい影響を与えているのかをモデル分析を使って分析していく。
ビジネスには、”結果”とそれをもたらした”原因”との関係を発見する力、つまり仮説構築力が重要である。ビジネスパーソンに向け、仮説の重要さを説いた書籍がたくさんあるのもそのためだ。
私がビジネスパーソンに統計学の勉強をすすめるのは、単にデータから知見を導き出す力がつくからだけではない。より重要なのは、統計学のスキルを用いてデータを検討すれば、この仮説作りから検証、解釈までの流れをどんどん経験でき、仮説構築力を高められることだ。
実際、統計学を得意としていた人が、ある時からデータ分析を必要としなくなった例を数多く見かける。統計学をマスターしていくと、仮説構築力が高まり、データ分析をしなくても、ビジネス仮説が思い浮かぶようになるのだ。
「データをいじらなくても知見を得られるようになるために、データを効率よくいじる技を身につける」。これが、本書の根底に流れる統計学感であり、そのために少しでも役に立つ内容があれば幸いである。
幻冬舎『知識ゼロからのビジネス統計学入門』のまえがきを著者と出版社の許可を得て改編。無断転載を禁ずる。
- 豊田 裕貴(とよだ・ゆうき)
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- 法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科 教授
- 『ビジネスデータ分析』講師
- 法政大学経営学部卒業、法政大学大学院にて経営学修士号(MBA)、同大学院経営学博士号(DBM)を取得。その間マーケティング・リサーチの実務を経て、2004年4月より多摩大学経営情報学部マネジメントデザイン学科助教授、2015年4月より現職。専門はマーケティングリサーチ、マーケティング。
主な著書に、『すぐやってみたくなる! データ分析がぐるっとわかる本』『知識ゼロからの売れる消費者心理学』『現場で使える統計学』などがある。
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