ピックアップレポート
2015年11月10日
野田 稔「あなたは、今の仕事をするためだけに生まれてきたのですか」
あなたの現状はどれですか?
このレポートに目を留めていただいた皆さんに、何かお土産をお持ち帰りいただきたいので、早速ですが次の質問にお答えください。
問1
「自分の人生の目標や、自分がやるべきこと、自分が心底からやりたいことや、なりたいと思っている自分像などが明確にわかっていて、何ら迷いがない」
YES / NO
問2
「問1の結果に関わらず、人生そのものをあきらめているわけではない」
YES / NO
いかがでしたか?
このふたつの質問の答えで、あなたの現状を4つのパターンで表してみます。
問1「YES」 問2「YES」の方――>順風満帆の“キャリアの達人”
問1「NO」問2「YES」の方――>前向きだけれど悩みがある“もやもや君”
問1「YES」問2「NO」の方――>望みがかなわず沈滞している“世捨て人”
問1「NO」問2「NO」の方――>悟ったのか、あきらめたのか、“現状肯定派”
4つのパターンを順に見ていきましょう。
まず「やりたいことが明確で、かつ、人生に前向き」な状態の“キャリアの達人”に分類されたあなた。おめでとうございます! さぞかし、充実した日々をおすごしのことでしょう。
たとえば、会社で与えられている仕事がまさしく自分のやりたいことそのもので、とても充実している。思い描く将来キャリアは、いまいる会社での栄達で、しかも同期の先陣を切って真っ先に部長昇進も果たした。役員からの引きも強く、社長からも目をかけられている。
そんなあなたは、まさしくキャリアの達人です。ぜひ、この勢いを殺ぐことなく、理想のキャリアゴールに邁進してください。
ただし、そんなあなたも、ちょっとだけ自分自身に問いかけてみてください。
あなたがいま、「なすべきだ」「やりたい」と思っていることは「本当にやりたいこと」なのですか?
ほかの生き方はありえないものなのでしょうか?
もっと幸福になれる生き方を探さなくてもよいのでしょうか?
いまの状態は、未来永劫続きますか?
環境が大きく変化したときにも、自分の力で切り抜けられますか?
たとえば、会社から与えられているいまの仕事やポジションは、将来にわたって本当に保証されているのでしょうか?
もし、いまと異なる状況になっても、そのキャリアゴールはあなたにとって絶対であり続けるでしょうか?
これらの問いかけに、自問自答してみてください。
一方、特にやりたいことがあるわけでもなく、やらねばならないという使命感もない。人生の目標などといった、大それたものを持つ柄でもないと思っている。人生に関しては、「まあ、こんなものさ」と大して期待もしていないし、それゆえ自分が変わらなければならないといった焦燥感もない。
こうした“現状肯定派”に分類されたあなたは、キャリアの達人とは対極にありながら、悩みがないという意味においては同様の心理状態と言えるでしょう。
私たちはこういった生き方を否定するものではありません。「足るを知る」ということも大切ですから、これはこれでいいと思います。
しかし、本当にあなたの持っている能力や、潜在的な可能性は、「こんなもの」止まりなのですか?
本当はもっともっと、違う道、違う状態があるのではないでしょうか?
もしかすると、“こんなもの”で踏みとどまっていることは大変もったいないことなのかもしれません。
次は“世捨て人”です。やりたいこと、なりたい自分はあったけれど、いまとなってはもうかなわぬ夢。「頑張ってはみたものの、ここ止まりか」と静かにあきらめている。このような状態の方も多いのではないかと思います。
ある方に聞いたのですが、「会社というものは、運よく社長になれた者のほかは全員が敗者だ」と言うのです。すごい言葉だと思いました。
確かに社長レースにまで参加できた人は、とても優秀で、運もよかったのだと思います。もう少しで手が届く状態になったら、それはなってみたいと思うのが自然です。
しかし、社長レース参加者のなかで実際に社長になれるのは、ひとりだけ。そのほかの方は、サラリーマン生活の最後の最後で挫折を味わうことになります。それまでの努力を考えれば、もうあきらめたくもなるでしょう。
さて、ここからが思案のしどころです。ほかのパターンの方と同様、いままで自分が追い求めてきたやりたいこと、なりたい自分は、本当に自分にとってすべてだったのでしょうか?
あなたの挫折は、あなたの幸福なキャリアにとって、そんなに致命的なものなのですか?
考え方を変えれば、「むしろそれでよかった」とはなりえないのでしょうか。
最後は“もやもや君”です。
自分が本当にやりたいことや、なりたい自分像が実は明確ではない。なんとなくイメージはあるが、確証がない。
実は、このレポートを読んでくださっている方の大部分が“もやもや君”に分類されたのではないかと想像しています。
何の悩みもない“キャリアの達人”や人生をあきらめている、もしくは達観の域に達している方にとって、このようなレポートは響かないと考えるからです。
「諦めているわけではないが、どうしたらいいか明確にわかっているわけでもない」
私たちがお会いする、多くの企業人の方は、この状態です。特別なことではありません。
しかし、いつまでももやもやしているわけにもいきません。いつかは企業人としての人生にも終わりが来ます。やりたいこと、なりたい自分を見つけて、そこに向かって歩み始めなくてはなりません。
いつまでも、もやもやし続けているのは人生の浪費です。
そもそも、なぜもやもや状態になるのでしょうか?
もやもや状態とは、やりたいこと、なりたい自分、人生の目的が明確ではない状態と言いましたが、明確ではないものの何となくこちらの方向、といったおぼろげながらのイメージはあるかもしれません。
また、「いまはないけれど、かつてはあった」とか、「ときどきふと思うことはあるが、すぐ忘れてしまう」といったことなのかもしれません。
多くの場合、やりたいこと、なりたい自分のイメージをたとえ持てたとしても、あまり真剣に検討されることなく、忘れ去られる運命にあります。
なぜでしょうか?
原因のひとつが、自分の能力に対する自信のなさにあると考えられます。
確かに、やってみたいことはあるが、できる気がしない。なりたい自分のイメージもあるにはあるが、夢のまた夢だ、といった具合に実際に努力する前にあきらめてしまうのです。
本当に自分の能力はそんなに低いのでしょうか?
「あなたの能力は?」と問うと、多くの方が、いまやっている仕事で使っている能力を答えます。しかも、あたかもそれしかないような表現をします。さらにダメ押しのように、「自分はいまの仕事以外に潰しが利かない」と嘆きます。
私たちは、これは「人を縛る、目に見えない鎖のようなもの」「人をとらえて離さない“枠”」としてとらえています。
幸せなセカンドキャリアを手に入れるために最も大切な第一歩。それが、自らをとらえている枠を外すことです。
50歳にして天命を知る
私たちは現在、一般社団法人社会人材学舎という人材の能力開発と斡旋を一貫して手がける塾を運営しています。一昨年(2013年)9月に創立したばかりのまだ新しい学び舎です。
そこで現在展開しているサービスのひとつに知命塾というプログラムがあります。40〜50代のビジネスパーソン男女の受講生が、セカンドキャリアを充実させるべく、受講しています。
知命塾の名前は、中国の古典「論語」の「為政」にある「50にして天命を知る」に由来します。
論語 為政より
子曰、吾十有五而志于学、
三十而立、
四十而不惑、
五十而知天命、
六十而耳順、
七十而従心所欲、不踰矩
子曰く、吾十有五にして学に志す。
三十にして立つ。四十にして惑わず。
五十にして天命を知る。六十にして耳順う。
七十にして心の欲する所に従えども、矩を踰えず。
(意訳)
孔子は言った。
私は十五歳ころから学問を志した。三十にして、その学問についての見識を確立した。四十歳の頃には(理が明らかになり)、物事に惑うことがなくなった。五十歳になって、天から与えられた使命を自覚した。六十歳の頃は、人の意見に素直に耳を傾けるようになった。七十歳になっては、心の欲するままに行うことが、いつでも道徳の規準に合って、道理に違うことがなくなった。
この論語の言葉は私たちに多くのことを示唆してくれています。人は年齢を重ねるに従い、着実に円熟の域に進むことが可能だという、生涯発達の思想です。私たち社会人材学舎も「キャリア成長論」を主張しており、まさにこれに合致します。
特に“五十にして天命を知る”の部分はなかなか深いと思います。
一般的な解釈では、「50歳にもなれば自分が天から与えられた使命を自覚してそれに邁進せよ」となるのですが、うがった見方も可能です。すなわち、平均寿命が短かったであろう当時の中国においては、天命とはすなわち寿命が尽きることとも言えます。50歳にもなったらもう老い先そんなに長くないのだから、あきらめて寿命が尽きるのに任せよ、ともとれるのです。寿命が尽きるのも天の命ずるところだ、と。
あきらめるか、邁進するか、さて、皆さんはどちらの説をとりますか?
私たちは前者、すなわち「50歳になったら自らの使命を自覚して邁進せよ」と考えることにしました。その際に大切なことが、「自らの使命を全うすることが必ずできる」と思える自己への信頼です。
論語から名前を拝借した知命塾は、自らの能力を自覚し、これを余すところなく活用し、自分の信じる使命を全うするための準備をする場所です。
その第一歩が先ほども述べた、枠外しです。
知命塾の受講生はいずれも「自分を見つめ直そう、変えていこう」という前向きな気持ちを持った方々なのですが、そうであっても、入塾したばかりのときは、それほど自信満々とは言えない状態の人が多いようです。
枠にとらわれたままでは、自分の能力も矮小化してとらえているため、新しい世界での成功などイメージできません。
ところが、知命塾での講義が進むにつれ、だんだんみなさんの顔が明るくなってきます。
「あれ? もしかして自分には可能性があるのかもしれない」
最初はほのかな期待だったものが、次第次第に現実味を帯びてくる。そして、プログラムも半分をすぎる頃には確信に変わる。それが知命塾での受講生の変化です。
修了生たちは自信と自覚を持ってセカンドキャリアに進んでいますが、すべての方が最初から自信満々だったわけではないことをおわかりいただきたいと思います。多くの皆さんが、“もやもや君”だったのです。
実はセカンドキャリアに踏み出せない“枠”は、能力の矮小化以外にも複数あります。
たとえば、「年収落とせない病」。
セカンドキャリアは必ずしも転職を伴うものばかりではありませんが、転職も重要なセカンドキャリアづくりの選択肢であることは疑いようがありません。
しかし、かなりの方がこの転職に関して、今の年収水準を落とさないことを条件に掲げます。
「今の年収より減ってしまったら、生活が成り立たない」と言うのです。
本当ですか?
ちゃんと計算してみましたか?
正確に試算すると、漠然と思っていた生活必要金額とはかなり異なる(多くはかなり低い)金額になる方が少なくありません。
さらに言えば、なぜ目先の年収にばかりこだわるのでしょうか。
皆さんは再雇用後の収入について正確な情報を持っていますか?
多くの企業における再雇用後の収入は、現役時代から大幅に下がります。
200万円台は普通です。
私たちの知るなかで最も低かったのは、大手の金融機関の年収180万円です。しかも、再雇用後に与えられる仕事はメールサービスなどの単純労務作業でした。
50代半ばまでは本社の部長として腕を振るっていた方が、役職定年で年収が3分の1になり、閑職に回って60歳定年後は年収180万円で郵便物の仕分け作業。本当にこれで安定したセカンドキャリアといっていいのでしょうか。
しかも65歳で再雇用期間が終わった後は、次の仕事を見つけることが極めて困難です。
このような“定型的な”セカンドキャリア観を捨ててみるとどんな道が描けるでしょうか。
たとえば55歳で役職定年を迎える少し前から、気持ちの整理を含めてセカンドキャリアを考え始める。早期退職制度に応じて割増退職金を手にしたのちに、故郷の優良中堅企業に転じる。当初は会社に残って役職定年後にもらえる金額よりは低い年収になったが、そこで一念発起、頑張って認められ、徐々に年収アップ。周囲から認められるに従い責任もやりがいも増える。中堅企業ゆえ、定年制度はあるものの、そこから先は自分の貢献次第、70歳前後まで頑張ってみよう! こんな道もあり得るのではないでしょうか。
このように言うと、「徐々に年収アップなど単なる可能性の問題ではないか、楽観的すぎる」と言われそうです。
その通り。可能性にすぎません。
しかし、会社にとどまった場合、役職定年とそれに伴う年収ダウンはほぼ確実にやって来ます。再雇用は希望がかなうと仮定しても、現役時代とは比べ物にならないほどの低い報酬。これもほぼ確定です。
しかも、1円たりとも年収増はありません。これも確定です。
65歳で再雇用終了も確定。65歳では次の仕事が見つからないのも、ほぼ確定。
65歳以降も人生が続くことを考えると、どちらがリスキーでしょうか。
私たちは、日本のビジネスパーソンは驚くほど能力が高いと知っています。そして、50歳やそこらでその能力が劣化するとは思っていません。
ホワイトカラーの能力は、平均で53歳がピークになるという話を聞いたことがあります。53歳が能力の最大発揮年齢、というのです。
真意のほどはわかりませんが、なんとなく納得できる気がしました。
この本の副題にした48歳は、まだまだ能力伸長期にあることになります。
能力の最大発揮こそ幸せの源泉です。
いまの日本の企業では、50代はすでにリタイアの始まりのようにとらえられていますが、このような考え方はもう間もなく過去のものとなるでしょう。
人生、二毛作、三毛作が当たり前の時代がもうすぐそこまで来ています。
あなたには、新たな時代のフロントランナーとして、セカンドキャリアの充実を目指していただきたいと思うのです。
私たちと一緒に、本物のキャリアの達人を目指しましょう!
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『あなたは、今の仕事をするためだけに生まれてきたのですか―48歳からはじめるセカンドキャリア読本』の序章を著者と出版社の許可を得て改編。無断転載を禁ずる。
- 野田 稔(のだ・みのる)
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- 明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授
- 一般社団法人 社会人材学舎 塾長
- リクルートワークス研究所 特任研究顧問
- 慶應MCC担当プログラム
- 一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。野村総合研究所経営コンサルティング一部部長、(株)リクルートフェロー、多摩大学経営情報学部教授を経て現職。組織・人事領域を中心に、ベンチャー立ち上げ支援を含め、幅広いテーマで実践的なコンサルティング活動を行う。2013年9月、日本の人材教育レベルを高め、ミドルの能力発揮を支援する(社)社会人材学舎を設立。また、エデュテイメントタレントとしてメディアでも活躍しており、これまでのテレビ出演はNHK「経済ワイドビジョンe」(2009年4月-2010年3月)、同「Bizスポワイド」(2010年4月-2011年3月)、NHK Eテレ「仕事学のすすめ」(2011年4月-2013年3月)、BSジャパン「7PM」(2012年4月-2013年3月)など多数。
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