ピックアップレポート
2016年03月08日
慶應MCC「クロシング」が生まれるまで III
体験利用の結果から見えたこと
前回(2月号)では、私達が考えている「WEB上だからできる異なるディスカッションのイメージ」について書きました。
そこでは、全員が均等に参加するのではなく、また一握りの人が独善的に場を支配するのでもない。マジョリティを占めるのは、目に見えるアクションは起こさないけれど潜在的な参加欲求を持った人々であり、彼らが「見えないミラーの役割」を果たすことで、ディスカッションの質が担保されていくはずだ、と結びました。
最終回である今回は、昨年の11月~12月にかけて実施した「クロシング」の体験利用の結果を中心にご紹介することにします。
私達は、これまでのオンラインコミュニティの研究知見をもとに、開発段階では「クロシング」での参加者の行動傾向を次のように想定していました。
A)がっちり視聴する人:70%
B)コメントを書く人:20%
C)ライブディスカッションに参加する人:10%
D)コアで楽しむ人:5%
※A)はB)以下を、B)はC)以下を含有しますので、全体で100になるわけではありません。
A)がっちり視聴する人:70%
「クロシング」では、毎月2本程度の新着講演映像を公開する予定ですが、一年間を通して映像の7割程度を30分以上視聴することを「がっちり視聴」とすると、そういう人が参加者の70%いると期待しています。
本当は全ての講演を「がっちり視聴」してもらいたいのですが、仕事の都合や嗜好性もあるので、毎月必ず視聴するという方は限られると思います。従って全体の7割程度を視聴していただくことを「がっちり」の基準値と考えました。
B)コメントを書く人:20%
講演映像を視聴するだけはなく、「クロシング」のディスカッション欄に、なんらかのコメントを書き入れてくれる人が、全体の20%いると見込んでいます。ここには、ディスカッションに参加はしないけれど、備忘録的に感想コメントなどを記す方も含みます。
C)ライブディスカッションに参加する人:10%
2月号に書いたように、「クロシング」のディスカッションは4つのフェーズに分かれており、そのうちの「発見」「創発」のフェーズは、毎月第2・第3水曜日の夜に、時間を定めた1時間のライブディスカッションで行います。
時間の制約がかかるライブディスカッションに参加できる人は、参加者の10%程度だと想定しています。
この中には、後日ディスカッションのアーカイブを閲覧する人は含んではいません。実際に、その時間に参加している方の意味です。
D)コアで楽しむ人:5%
A)~C)の条件を全て満たしたうえで、ラーニングコミュニティの中で、活発に発言するコアな参加者が5%程度は生まれてほしいと期待しています。
1月号でもご紹介したように、WEB上の企業コミュニティづくりの専門家である、エイベック研究所代表の武田隆氏は、「オンラインコミュニティの中で活発に投稿するのは登録者の1%である」としているので、私達が想定するコア参加者5%という数字は、少し(というよりかなり高い)目標値ですが、無料の企業コミュニティと異なり、有料の学習コミュニティなので、もっと多い(多くなってほしい)と考えています。
昨年の11月~12月にかけて実施した「クロシング」の体験利用は、慶應MCCの受講者から130人の方に協力をいただきました。130人を母集団とした体験利用の結果は下記のようになりました。
A)講演映像を30分以上視聴した人(がっちり視聴)64.6%
B)コメントを書いた人:18.4%
C)ディスカッション参加者:15.6%
D)コア参加者:1.5%
コア参加者以外は、おおよそ想定通り、ないしは想定より高い結果となりました。コア参加者は、1.5%と武田氏の見解に近い数字になりましたが、2カ月間で4回実施したライブディスカッションに全て参加するという条件が加わっていますのでかなり高いハードルでした。1回だけライブディスカッションに参加できなかったけれども、出た時には活発に発言していた方も何人かいらしたので、実態としては5%に近いかもしれません。
体験利用の結果が、これまでのオンライコミュニティの先行研究・実践知見をもとにした私達の想定に近い数字になったことから、オンライコミュニティの登録者の6割が「潜在参加欲求者」であるという先行研究の知見が、「クロシング」にもあてはまる可能性は高いと考えています。
従って、先月号にご紹介した、いくつかの仕掛けを通して、目に見えるアクションは越さないけれども潜在的な参加欲求を持った人々の背中を、そっと押すようなアプローチが出来るかどうかが、「クロシング」成功の鍵を握るといえるかと思います。
クロシングによって新しい道筋をつくる
ちなみに、ライブディスカッションで交わされたコメント数は下記のような結果となりました。
11月:「発見」のフェーズ53件、「創出」のフェーズ35件
12月:「発見」のフェーズ83件、「創出」のフェーズ65件
わずか2カ月ではありますが、参加者が「クロシング」に慣れて、コメント交換が劇的に増えていったことがわかります。
11月は最初ということもあって、ラーニングファシリテイターによる呼び水コメントも多かったのですが、12月はそれがぐっと減りましたので、参加者のコメント自体はもっと多かったと思います。
1時間のライブディスカッションで80件を越えるコメントが交換されると、WEB上の議論としては活発な印象を受けます。
私も体験利用の方々と一緒にライブディスカッションに参加しましたが、ひとりの参加者として経験してみると、WEB上のディスカッションが、リアルなそれと異なる点が浮かび上がってきたような気がしています。
それは、ひとことで言えば、参加者の皆さんが生みだした「ナマの言葉」が思考の交差の駆動力になる、ということです。
リアルなディスカッションとは異なり、文字でのやりとりは、参加者の言葉がそのままアーカイブとして残っていきます。
良質な講演を視聴したことで、各自の脳内シナプスが活発化しています。それを自分の知識や体験の文脈に組み込み、自分なりの表現モードに乗せて書き記していきます。それは誰に言うともなく紡ぎ出てくるつぶやきであったり、その人の心の深奥で何かが動き出していることを感じさせる予兆のようなものかもしれません。
リアルなディスカッションだと、声の大きな人の発言にかき消され、雑音として埋没してしまうようなちょっとした言葉が、文字として書き記されていくことで、みずみずしいリアリティを持つことがあります。
何気なく書き記したひと事が、ふとした拍子に、別の人の心のフックに引っかかり、ひとつの線がつながる。線がつながったことで、そこに道筋のようなものが浮かび上がってくる。それがクロシング=思考の交差のはじまりではないでしょうか。
クロシングとは、自己を意味づけることです。
過去の自分を回想し、現在の自己を分析し、未来の自己を予測することです。なぜならば、自己のアイデンティティは思考のぶつかり合いの中で相対化され、言葉に書き記すことによって表現されていくからです。
人は、思考の交差を繰り返すことで、「過去・現在・未来」の自分を形づくっていくのではないでしょうか
クロシングによって新しい世界をつくる、その世界で生きていくための、これまでとは異なったシナリオ、挑戦のための機会が浮かび上がる。
クロシングによって人生の流れに、新しい道筋をつくる。
そんな場になることを期待しています。
「クロシング」の内容
さて、与えられた紙面が尽きてきましたので、最後に「クロシング」の具体的なメニューをご紹介します。
夕学クロシング
慶應MCC定例講演会『夕学五十講』から選りすぐり、「クロシング」にあわせた形式に編集した講演動画をご覧いただきます。
毎月の新着動画を視聴した後に、テーマを基点に探索的な議論を行います。
講演動画は、毎月1本~2本(年間12本以上)公開されます。議論に参加せずに、動画だけを視聴いただくことも可能です。
4月以降の公開予定は下記のようになります。
4月:テーマ「アートと現場のクロシング」
5月:テーマ「コラボと独立のクロシング」
6月:テーマ「正論と怨念のクロシング」
7月:テーマ「グローバルとローカルのクロシング」
8月:テーマ「攻めと守りのクロシング」
夕学アーカイブ
上記の講演映像は、いつでも何度でもご覧いただける夕学アーカイブとして蓄積されます。開講時は、体験利用で視聴した7本の講演もアーカイブされていますので、すぐに視聴することが出来ます。
MCCセレクション
慶應MCCのビジネスプログラム・agoraのコンテンツを「クロシング」用に、新たなに撮影・編集した講義映像です。
毎月1本ずつ公開し、シリーズで展開します。
2016年度は、agoraで中国古典シリーズを担当いただいている東洋思想家の田口佳史さんによる「百字百回」を行います。
MCCレッスン
慶應MCC講師による公開型個別ウェブレッスンです。会員の中から希望を募り、公開で個別指導を受けていただきます。2016年度は、慶應MCCシニアコンサルタントの桑畑幸博による「図解道場」を行います。
「クロシング」は4月から開始いたします。4月・7月・10月・1月の年4回の開講で、それぞれ一年間の会員となっていただきます。
現在募集中の4月期会員限定で、通常32,400円のところ、3カ月相当分を無料とし、22,500円で入会することができます。申込受付は3月末までとなりますので、よろしければご検討ください。
※クロシングについては下記のサイトもご覧ください。
■クロシングー現代の”Eureka”をめざして!
https://www.keiomcc.com/xing/
■慶應MCCのFacebook
https://www.facebook.com/keiomcc/
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