2017年11月14日
豊田 裕貴「データ分析でビジネスの生産性と価値を高めよう」
ビジネスデータには先人達のビジネス知が宿っている
「ビジネスの知を得るには経験が必要だ」。これは間違いないことでしょう。ただし自らの経験のみを頼りにしていては、十分な知を得るためにかなりの時間を要してしまうことになります。それに、環境変化が激しく、またグローバル化対応などが必要な今のビジネス環境では、経験が陳腐化してしまうリスクも少なくありません。
そこで必要なのは、自らの経験を補う術を得ること。ここでは、「他者(先人達)の知を自らの知として利用する」という方法を考えて見たいと思います。
先人の知を得るには、たとえば、歴史(ケーススタディ)を学ぶというのも一つの方法です。多くのMBAでケーススタディを取り入れているのは、まさに先人の知の価値が重要だと考えているからです。ケーススタディに限らず、多くのビジネスパーソンがビジネス誌などを読んでいるのは、それぞれのテーマでの先行事例からヒントを得るのが役立つからでしょう。
では、ビジネスの知は文章で書かれた歴史にのみ込められているのでしょうか。そんなことはありません。ビジネスの知は、数値などで記録されているいわゆる「ビジネスデータ」にも宿っています。これは、意外な指摘と考える方もいるかも知れません。例で考えて見ましょう。
「利益を最大にする価格」をどうやって設定する?
日々記録されるPOSデータには、いつ・いくらで・いくつ売れたかが記録されています。これは日々の工夫(値付けや陳列、プロモーションの工夫など)が反映された結果と考えられます。ですから、このデータを分析すれば、先人達の経験の結果を得られると考えられるのです。もう少し具体的に考えます。
価格と売上個数の関係に着目すれば、いくらで得ればいくつ具体的に売れる(どれくらい値引きをすればどれくらい売上個数が増える)かを明らかに出来るでしょう。もちろん、それだけでは十分な知を得たとは言いがたいと思います。それは、既にそれくらいのことは「経験」からなんとなく分かっていたと思えるからでしょう。先ほど指摘したとおり、経験を補うために歴史(ケースやデータ)に学ぶと考えれば、それ以上の「知」を期待するのは当然です。
では、価格と売上個数の分析結果を元に、利益を最大にする価格設定が出来るとすればどうでしょうか。価格は上げれば粗利は増えますが、その分、売上個数が減少するでしょうから、このトレードオフの関係から利益を最大にする最適価格を決めるというのは、なかなか経験からは求められない答えです。つまり、先人達が試行錯誤行ってきた価格付けの経験(とその結果)から、価格付けのヒントを得たことになります。
もしPOSデータに顧客情報が対応づけられるとしたらいかがでしょうか。誰がいついくらでいくつ買ったのかというデータがあれば、優良顧客が誰で、ターゲットとすべき顧客が誰なのかを特定できるだろう。そうすれば、マーケティングで言うところのS:セグメンテーションとT:ターゲティングについてのヒントが得られることになるでしょう。
数字に宿る先人達の知を誰もが引き出せる方法「データ分析」
いずれにしろ重要なことは、データとは数字などで記録された歴史だということです。ケーススタディが文章で記載された歴史からヒントを得るのに対して、データサイエンスは、数値で記録された歴史からヒントを得る。ケーススタディもデータサイエンスも、先人達のビジネスへの試みから知を得るという点で、目指すものは一緒ということを考えると、もっとビジネスデータは積極的に活用されるべきだと考えられます。
とはいえ、まだまだビジネスデータは十分に活用されているとは言いがたい状況があります。それは、データから「ビジネスの知」を引き出す技術=データ分析手法がまだまだビジネスの現場に広まっていないことが一因だと思っています。おそらく、多くの人にとっては「データ分析は、一部の専門家がすべきもの」と思っていたり、「数学ができないと使えないスキル」と思っていたりするのではないでしょうか。
データ分析スキルを得るのは、実はそれほど難しくはありません。Excelをはじめデータを分析する環境は整ってきており、実際に分析しながら、どう分析すれば何が分かるかを体感して勉強していけるからです。そして、手法の使い方を覚えてしまえば、あとは、それをどんなデータに使うかを考えていけば、誰でもビジネスデータから「ビジネスの知」を導き出せるようになります。
ビジネスデータ分析は難しくない!?
重要なのは、高度な手法を知っていることではありません。グラフや表しか作れなくても、意味のあるビジネスの知は十分に引き出せます。それはまるで、電子レンジでおいしい料理を作るのに似ています。簡単な道具でも使い方如何によっては、素晴らしい料理を生み出せる。ただし、道具の特性を理解していなければ、料理は失敗してしまいます。電子レンジに生卵を殻のまま入れてチンすれば、爆発してえらいことになることを知っているはずです。これはデータ分析でも同じで、あるグラフを作るためデータはどんなもので、どんなデータを使ってしまうと失敗するのかを知らなければ分析は失敗してしまうでしょう。
データ分析という道具の使い方を学ぶ
こんな考えから、慶應MCCでは、ビジネスデータを分析しながら分析手法を学ぶプログラムを開講しています。ただし、目的はあくまで「ビジネスデータから「知」を導き出す方法を学ぶ」こと。したがって、数学的な解説ではなく、道具としてのデータ分析を解説し、さらに結果の解釈(読み方)についても解説していきます。
『ビジネスデータ分析』ではExcelを用いてビジネスデータ分析を一から学習します。一からはじめるとはいえ、MBAで学ぶべき基本手法の多くを学習できます。具体的には、記述統計量、検定、回帰分析、クラスター分析、因子分析、ロジスティック回帰など。ビジネスデータ分析で必要な手法全体を使いながら学ぼうというのが目的です。
『マーケティング戦略立案のためのデータ活用』はテーマをマーケティングに絞った具体的なデータ活用方法を学びます。使用するのは「R」というフリーソフト。Rは統計データ解析の分野で2大メジャーソフトと言えるぐらいに普及しているソフトです。Excelではできない高度な手法も活用できますし、手法自体は簡単だが分析するデータ数が多い(例えば、店舗ごとに同じ分析を繰り返したい)といったときにもRは絶大な威力を発揮します。Rを使ったことがない人も想定して、ゼロからRを解説しつつ、マーケティングの様々なテーマでのデータ活用を学習します。
情報化の進展とともに、ビジネスのスピードは加速し、あらゆる場面においてデータが増えていきます。
データ分析のスキルはより普遍的なものとなり、分析結果を読み解く重要性はより一層高まっていくことでしょう。
一人でも多くのビジネスパーソンが、データをビジネスに活かす魅力を知り、成果に結びつけていただくことを願っています。
- 豊田 裕貴(とよだ・ゆうき)
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- 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授
- 『ビジネスデータ分析』講師
- 『マーケティング戦略立案のためのデータ活用』講師
- 法政大学経営学部卒業、法政大学大学院にて経営学修士号(MBA)、同大学院経営学博士号(DBM)を取得。その間マーケティング・リサーチの実務を経て、2004年4月より多摩大学経営情報学部マネジメントデザイン学科助教授、2015年4月より現職。専門はマーケティングリサーチ、マーケティング。
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