ピックアップレポート
2018年09月11日
前田 鎌利『最高品質の会議術』
「会議の品質」がチームの生産性を決める
「会議術」はマネジャー必須のスキル
課長クラス以上のマネジャーにとって「会議術」は、チームの生産性を上げるために必須のスキルです。
会議とは、「関係者が集まって相談をし、物事を決定すること」(『大辞泉』)小学館)。つまり、「物事を決定すること」=「意思決定」こそが会議の本質ということです。そして、現場のメンバーがプロジェクトを前に進めるためには、組織的な意思決定が不可欠。現場に「生産性を上げよう」と激励する前に、マネジメント・サイドがスピーディかつ精度の高い意思決定をしなければならないのです。
であれば、マネジャーが「会議の品質」を高めることによって、「意思決定の品質」を高めるスキルを磨かなければならないのは、当然の理というべきでしょう。
ところが、私たちには「会議術」を体系的に学ぶ機会がほとんどありません。だから、どうすれば「会議の品質」を上げることができるのか、手探りを続けているマネジャーも多いと思います。
私自身がそうでした。ソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)ではじめてマネジャーに昇格したときには、「どうしたらいいのか?」と頭を抱えそうになったものです。
何しろトップは孫正義社長(現代表取締役会長兼社長)ですから、矢継ぎ早にやるべき仕事が降りてくるうえに、現場では解決すべき課題が次から次へと持ち上がります。それら一つひとつに対して、スピード感をもって意思決定をしていかなければならないのですが、会議をうまく運用する技術がありませんでしたから、プロジェクトをスムーズに動かすことができず、メンバーからは不信感をもたれ、上層部からは強く叱責されたこともありました。このままではダメだ……。こうして、否応なく、私は「会議の品質」を高めるために、試行錯誤を繰り返すようになったのです。
「最速PDCA」を回す会議術
まず注力したのは、チーム内で行う会議です。
ここで最も効果的だったのは、「意思決定に必要な条件は何か?」をメンバー間で共有することです。会社で意思決定を行うためには、「利益を生むか?」「実現可能か?」「企業理念と合致するか?」など、いくつかのクリアしなければならない条件があります。逆に言えば、この条件をクリアしていれば、即座にGOサインを出すことができるわけです。
そこで、私は、すべてのメンバーに機会あるごとに「意思決定に必要な条件」を何度も伝えて、会議に何かを提案するときには、必ずそれらの条件をクリアしていることを、明確な根拠(データ)とともに示すことを徹底してもらいました。提案内容を考える段階で、品質をできるだけ高めてもらうようにしたのです。
そして、その内容を「1枚の提案サマリー」にまとめ、会議の場で手短かにプレゼンできるように指導。つまり、メンバーの「社内プレゼン力」の向上を図ったのです。
一方、会議のやり方も抜本的に変えました。
定例会議に1時間を取ることが慣例化していましたが、これを基本的に30分に短縮。提案書の事前提出を徹底させ(意思決定に必要な条件を満たしていないものは、この時点で差し戻し)、会議では3分以内でのプレゼンを義務づけました。
そのうえで、意思決定というゴールに向けてまっしぐらに議論を深めていきます。ここでも、プレゼンとディスカッションを合わせて15分以内という制約を設定。限られた時間であっても、メンバー全員が「意思決定に必要な条件」共有していれば、議論がムダに拡散することもなく、的を射たものになります。むしろ、時間を限るからこそ、メンバーは集中力を切らさずに質の高い議論ができるのです。
そして、議論を通じて提案内容を多角的に検証することでブラッシュアップ。最終的には、マネジャーである私が採否を決するわけですが、このプロセスを踏むことによって、自動的に意思決定の精度は上がります。こうして、最速で精度の高い意思決定が可能になるプロセスを確立。さらに、これをもとに最速のPDCAを回すことで、生産性の向上を図ったのです。
この会議手法がうまく回り始めると、チームの意思決定回数が倍増。それに比例して、チームの生産性もどんどん高まっていきました。それに関心をもった社内のマネジャーから、社内プレゼンのやり方や会議術を教えてほしいと頼まれることも増えていったのです。
「上層部の会議」を攻略する
ただし、チーム会議を改善するだけでは十分ではありません。
なぜなら、マネジャーの権限において意思決定できることであれば、チーム会議で完結することができますが、課長クラスであれば、その権限領域は非常に限られているからです。チーム会議で決定した案件を、上層部に認めてもらわなければ、意思決定が完結しないケースが非常に多いのです。
私も、ここで何度も躓きました。せっかく、メンバーが一生懸命考えてくれた案件を、私の力不足で「上層部の会議」で差し戻されてしまえば、その間、プロジェクトを動かすことができないうえに、メンバーに二度手間三度手間をかけることになってしまいます。それでは、チームの生産性が低下するうえに、メンバーからの信頼までも失いかねません。
だから、そのような事態をできる限り少なくするために、常日頃から万全の準備を整えるように心がけるようになりました。直属の上司との信頼関係を盤石なものにするとともに、他部署との協力関係を築くことによって、社内における信頼を勝ち取る。「経営会議」に参加するチャンスをつくり、そこでの意思決定のプロセスを観察する……。そのような努力を重ねることで、何度も失敗をしながらも、少しずつ「上層部の会議」において、一発でGOサインを勝ち取るコツを身につけていったのです。
「最高品質の会議術」がキャリアを拓く
これができるようになると、状況は劇的に変わっていきました。まず、チームのメンバーたちのモチベーションの向上です。自分たちの提案が次々に実現していくわけですから、仕事が面白くなるのも当然。そして、意欲的に仕事に取り組むからこそ、生産性が上がり、成果も上がりやすくなる。その結果、さらにモチベーションを高めるという好循環が回り始めたのです。
さらに、私のチームの意思決スピードが速く、生産性も高いことを見込んだ上司が、上層部から有望な事業を引っ張ってきて、私のチームに任せてくれるようになりました。こうなると、他部署の若手も「前田さんのところに行けば面白い仕事ができる」と、私のチームに異動願いを出してくれるようになりますから、やる気があって優秀なメンバーが増加。新規事業でも、次々と成果を生み出すことができるようになっていったのです。
そして、上層部の評価を勝ち得た私の上司が出世するにともない、私も新しいステージに引き上げていただくことができました。しかも、ちょうどそのころ立ち上がった、ソフトバンクグループ孫正義社長の後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」の第1期生にも選抜。孫社長に直接プレゼンした事業提案が評価され、グループ会社の役員を兼務するなど仕事の幅を大きく広げることができたのです。
こうして、私のキャリアは拓けていったのですが、その出発点には、試行錯誤しながら磨き上げた「会議術」があったのです。
本書は、私が実践を通して確立し、ソフトバンク在職時に効果を実証した「最高品質の会議術」をまとめたものです。
私は、2013年にソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)を退職。独立後に出版した『社内プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)が10万部を超えるヒットとなったこともあり、ソフトバンク、ヤフー、ベネッセコーポレーションをはじめ数多くの企業から「社内プレゼン」の研修を依頼されてきました。社内の意思決定スピードを上げたいというのが皆様の動機でしたが、研修も終盤に差し掛かると、実に多くのマネジャーの方々から「会議術についても教えてほしい」との要望をいただきました。
そこには、「なんとか自分のチーム、さらには会社の意思決定スピードを上げて、生産性を最大化したい」という切実な思いが込められていました。その思いに応えるために、この本をまとめた次第です。
本書を参考に「会議術」を磨いていただき、メンバーの力を最大限に引き出すとともに、ご自身のキャリアを大きく切り拓いていただければ、それに勝る喜びはありません。
『最高品質の会議術』の「はじめに―「会議の品質」がチームの生産性を決める」を著者の許可を得て掲載しました。無断転載を禁じます。
- 前田鎌利(まえだ・かまり)
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- 書家
1973年福井県生まれ。東京学芸大学教育学部書道科卒業後、独立書家として歩む。Softbank「志高く」JAXA「こうのとり」Jリーグ「絶対突破」、重要文化財 旧小坂邸襖書「花鳥風月」、国宝 彦根城築城410年祭イベント揮毫、NY、台湾でのライブパフォーマンスなど国内外にて展開している。また未来へ日本文化を継いでいく活動として全国15カ所で書道塾「継未-TUGUMI-」を主催。600名を超える生徒へ日常における書の楽しさや面白さ、内観することの大切さを伝えている。
大学卒業後通信事業分野にて勤めていた経験より、2010年に発足したソフトバンクアカデミア(孫正義 後継者育成機関)では初年度主席を修めた。
書家業と共にプレゼンテーションクリエイター、講演・企業研修・大学講師などマルチな活動を行う。
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