ピックアップレポート
2019年11月12日
前野 隆司「引き算のワーク」
引き算のワーク
慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)で教えている講座『デザイン×システム思考-幸せなイノベーションを実現する』(3時間×6回の講座、年2回開講)では、観察について教える一環として、「引き算のワーク」を行なっています。
「引き算のワーク」とは、坂倉杏介先生(現在東京都市大学)が始めたワークで、かつては慶應SDMの看板科目デザインプロジェクトでも教えていましたし、拙著『システム×デザイン思考で世界を変える』(日経BP)にも載っています。
要するに、「自分にとって大切なものを、一週間、引いて(なしにして、使わずに)、暮らしてみよう、そして、何に気づくか自分を観察しよう」というものです。これは、様々な気づきが得られるため、質的な観察について学ぶ際にとても有効な方法です。(残念ながら慶應SDMの授業では時間短縮のために現在はやっていませんが、興味のある方は是非やってみてください)。
これまでに、いろいろな引き算をした者がいて、とても興味深い知見が蓄積されています。
・家を引き算した女子学生
・右手右足を引き算した学生
・靴を引き算した坂倉先生
・右折を引き算した者
・歩くのを引き算していつも走っていた者
・職場の椅子を引き算して立ったまま仕事した者
・炭水化物を引き算した者
・炭水化物以外の食べ物を引き算した者
・海外出張に行く際にカバンを引き算した者
・化粧を引き算した女性
・スマホを引き算した者
・電車を引き算した者
・着替えを引き算した者
などなど、さまざまな事例があります。
今日は、慶應MCCの講座において、各人が「引き算」の結果を紹介し合う日。30人くらいの受講者から、様々な引き算と、様々な気づき(インサイト)が紹介された、興味深い回でした。
・「目覚まし時計を引き算してみたら、目覚まし時計を使っていたとき以上に快適に起きられた」
・「現金を引き算してみたら、祭りの時に困った(カードで払えないので)」
・「妻が家事をやめてみると、夫のトイレ掃除についての理解が半端であることを共に理解できた」
・「ネガティブワードを引き算してみたら、思った以上にストレスが溜まったので、サンドバックをパンチする必要があった」
・「子供の頃から大好きだったラジオを引き算したら、体調を壊した」
・「エレベータ、エスカレータを引き算したら、階段の上り下りで体を鍛えられた」
・「かかとの接地を引き算したら、体調が良くなった」
など、自分の想定していたのとは異なるインサイトが、強い実感を伴って得られるのが、「引き算のワーク」の優れた点。
一番大受けだったのは、以下の引き算。
「どうしよう」と考えてしまう優柔不断な思考を引き算したという銀行員の男性。
(なるほど、ものではなく、自分のマインドの一部を引き算するというのが面白い。ちなみに「引き算のワーク」でマインドの引き算をする人は増加傾向)。
「どうしよう」と悩むのを引き算した結果の具体例が極めて興味深かった。
・「オペラに行きたいけど高いなあ、どうしようか」と悩むのをやめて、4万円のオペラを予約!
・「気になる女性がいるけど、どうしようか」と迷うのをやめて、オペラに誘った!
・すると、いっしょに行くことに!(ここで受講者一同、拍手喝采!)
・「実は最初のオペラ4万円と、女性と行くオペラ8万円は、別の日なので、最初の方のオペラのチケットをどうしようか」と悩むのをやめて、メルカリに入会!
本人談「どうしよう、をやめると、身の回りにいろいろなことが起こります。」
なるほど。優柔不断に悩むのをやめるということは、行動力がアップするということなんだなあ。すばらしい。オペラのデートがうまく行くことを、慶應MCCの受講者とスタッフ一同、祈っています♡いやー。引き算のワーク、やめられない。今日も、いい話をたくさん聴けました。
「引き算のワーク」、みなさんも、ぜひ!
そして、何かわかったら教えてください!
前野隆司先生のFacebook投稿(2019年9月12日)を先生の許可を得て一部編集のうえ掲載。
前野 隆司(まえの・たかし)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授
慶應MCC担当プログラム
デザイン×システム思考-幸せなイノベーションを実現する
1962年山口市生まれ。1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。1986年キヤノン株式会社入社、生産技術研究所勤務。1990年7月カリフォルニア大学バークレー校機械工学科 Visiting Industrial Fellow(1992年6月まで)、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)。1995年慶應義塾大学理工学部機械工学科専任講師、1999年慶應義塾大学理工学部機械工学科助教授、2001年ハーバード大学応用科学・工学部門 Visiting Professor(9月まで)、2006年慶應義塾大学理工学部機械工学科教授。2008年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授、2008年慶應義塾大学環境共生・安全システムデザイン教育研究センター長兼任、2011年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長、およびシステムデザイン・マネジメント研究科付属システムデザイン・マネジメント研究所長兼任。
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