ピックアップレポート
2024年07月09日
野田 稔「岐路に立つ人事〜人事のアップデートの必要性」
野田 稔
明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授、学科長
リクルートワークス研究所 特任研究顧問
今ほど人事が経営者の口に登る時代もかつてなかったであろう。
JOB型採用、リスキリング、高度IT人材の採用、労働力不足社会への対応、そして人的資本経営と、少し考えてみるだけでも「人」に関する経営課題が目白押しだ。
次々と現れる新たな課題に、果たして企業の人事は対応できているのだろうか。
人的資本経営ムーブメントのきっかけとなった、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」報告書 (経済産業省、2020年9月)では、それゆえ、人事に関する議論のイニシアティブを「人事から経営陣・取締役会に変更する」ことが必要と述べられた。
経営の最重要事項として人材戦略を考える必要がある。経営陣自らが人材戦略を担わなくてはならないと主張する。もちろんこのことに異論を唱えるものではない。しかし、経営課題としての人材戦略は、従来の人事では担えない、と暗に主張している点に着目しなくてはならない。
従来の人事を主体性も戦略性も持たないテクノクラート集団であると決めつけ、引導が渡されたということである。
私はこれに対して激しい怒りを感じた。
いくつかの会社の社外取締役を経験し、取締役会に出ることも多い身として、多くの取締役会メンバーの人事・組織に対する勉強不足、自らの経験のみに依拠した偏見・バイアスには今までも幾度となく驚かされてきた。労働三法のなんたるかも知らず、心理学の基礎知識もないに等しいものたちが、安易に人材戦略を語る傲慢さには今までも辟易としてきた。
それがお墨付きを得て、さらに加速することになるのだ。こんなことは断じて許してはならない。
しかし、同時にここまで言われてしまう人事の現状について、反省しなくてはならない点が多々あることも残念ながら認めざるを得ない。
人事における経営的視点の獲得は急務である。
人事が直面する現在の、そして将来の課題への対応を考える際に必要なのは、単なる技術的知識ではなく、深く本質をとらえた物事の理解と思考である。
大局観と中長期的な視点を持って経営陣と同じ土俵で議論を展開できることが求められている。
これは人事のリスキリングという段階を遥かに超える、いわば人事のOSのアップデートとも言えるような、大いなる視点の転換だ。
リクルート・ワークス研究所のシミュレーションによると、2040年には1100万人ほどの労働力が不足する。このことの自社へのインパクトを、今の人事スタッフは経営陣に理解させることができるだろうか。経営課題として、どのような取り上げ方をすべきか、主体的に提案することができるだろうか。イノベーションの必要性が語られているが、人事として具体的に何をすべきか、経営陣と議論することができるのだろうか。賃金アップが世の中の趨勢にはなっているが、果たして本当に経営的に見て正しいのか、説明できるのだろうか。
人事自身が自らのあり方を再創造し、経営陣に対して自信を持って経営の一翼を担えることを示さなくてはならない。
そしてそのために、新たな学びを自らに課さなくてはならない。それは従来の知識学習ではなく、現実を見つめた上での徹底したディスカッションでなくてはならない。
私はそんな思いを込めて今回の『これでいいのか日本の人事!』を構築した。
人事スタッフの皆さんには実務家であり、かつアアカデミックな議論にも耐える研究を行なっているワークス研究所の研究員から問題提起をしてもらい、エビデンスベースのハードな議論を楽しんでいただこうと思っている。
一連のディスカッションを通じて、ぜひ各人のOSをアップデートしていただきたい。
野田 稔(のだ・みのる)
明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授
リクルートワークス研究所 特任研究顧問
慶應MCC担当プログラム
これでいいのか日本の人事!(2024年8月)
成果と成長のリーダーシップ(2025年1月/B日程)
一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。野村総合研究所経営コンサルティング一部部長、リクルート新規事業担当フェロー、多摩大学経営情報学部教授を経て現職。ディップ株式会社社外取締役。2020年、一人一人の幸せなキャリア創造を支援する、Rakza楽座株式会社を設立。組織・人事領域を中心に、幅広いテーマで実践的なコンサルティング活動を行う。また、ニュース番組のキャスターやコメンテーターとしてメディアでも活躍している。
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