ピックアップレポート
2024年08月13日
木ノ下歌舞伎、注目と期待高まる、江戸情緒を謳う会心の現代劇
舞台や古典芸能に関心をお持ちの方であれば、一度は木ノ下歌舞伎の名前を目にしたことがあるのではないでしょうか。木ノ下歌舞伎(通称:キノカブ)は、主宰である木ノ下裕一氏が2006年に京都で活動を開始した、数々の古典作品を現代劇化している団体です。
これまで『東海道四谷怪談』『義経千本桜』『三番僧』『娘道成寺』など人気の歌舞伎作品を現代劇化し、昨年9月には、監修・補綴の木ノ下裕一、演出・美術の杉原邦生による5年ぶりの木ノ下歌舞伎『勧進帳』を上演し、全国6都市で好評を博しました。中でも東京では、東京芸術劇場シアターイーストで3週間以上にわたる長期公演が行われました。
そして今年9月の上演に、注目と期待が高まっています。
今回の上演作品は、『三人吉三廓初買』(さんにんきちさくるわのはつがい)です。
「当今のシェイクスピヤ(我が国のシェイクスピア)」(©坪内逍遥)とも評された、歌舞伎作者のレジェンド・河竹黙阿弥による最高傑作『三人吉三』に挑みます。
東京芸術祭2024の参加演目であり、上演時間は約5時間におよぶ大作です。
今秋作も木ノ下裕一と杉原邦生がタッグを組み、会場はシアターイースト(最大324席)からプレイハウス(同834席)へ移ります。このことからも注目と期待のほどが伺えます。では次に、作品の特徴からその魅力に迫ってみましょう。
江戸情緒を歌い上げた会心作
日本文化の上澄みだけを掬い出して“美しい国”をアピールする昨今の風潮においては、歌舞伎もまたはその道具の一つにすぎないのかもしれません。しかし、江戸情緒を謳い上げた歌舞伎作者と目されている河竹黙阿弥の会心の作『三人吉三』は、幕末という時代の転換期の光と闇を包み隠さず描き切ったショッキングな作品でした。
震災(安政の大地震)や疫病(コレラ)の大流行という受け止め難い現実に対して、死んだ者と生きる者へ万感の愛惜を込めて筆を握り、立ち向かった黙阿弥のパッションを現代に蘇らせたいと思っています。
(木ノ下歌舞伎主宰 監修・補綴 木ノ下裕一)
木ノ下裕一のコメントにあるとおり、江戸情緒と時代の転換期の重なりに、作品の心が共感を得ていると言えましょう。キノカブ版『三人吉三』は、2014年に初演、翌年、東京芸術劇場が若手演劇団体と提携して公演をおこなう“芸劇eyes公演”としてシアターウエストに初登場し、読売演劇大賞2015年上半期作品賞部門のベスト5に選出されました。
数奇な運命に翻弄されながら疾走する、和尚、お坊、お嬢という“三人の吉三郎”の物語と、現行歌舞伎ではカットされている、商人と花魁の恋をめぐる廓の物語がダイナミックに交錯する群像劇。黙阿弥の描いた複雑かつ多面的な登場人物たちは、過去の人びとやコミュニティだけでなく、今を生きるわたしたちの姿をも浮かび上がらせます。
9年ぶりの再演となる今回は、作品タイトルを演目の本外題である『三人吉三廓初買』に改めました。初演以来約160年ぶりの上演となった「地獄の場」を完全復活するなど、今や幻となった黙阿弥オリジナル版の全貌を見られるのは、このキノカブ版のみです。
変貌する時代の音を聴く
物語の中心となるのは同じ「吉三郎」の名をもつ三人の若者です。
兄貴分の和尚吉三を演じるのは、今年2月にプレイハウスで上演した『インヘリタンス』での圧倒的なエネルギーによる熱演が記憶に新しい田中俊介。血気盛んなお坊吉三は、幼少期から活躍を続け、昨年は演出家デビューを飾るなど舞台での活動が注目される須賀健太。女装の盗賊・お嬢吉三は、昨年『勧進帳』の富樫役で複雑な心情を表現する演技も注目され、映像での活躍も広げる坂口涼太郎が演じます。また、和尚吉三の父親・伝吉として近年ストレートプレイでも珠玉の演技を見せる川平慈英が登場します。
もう一つのストーリーラインを動かす、お坊吉三の妹・花魁一重に、若くして着実に俳優としてのキャリアを築く藤野涼子。一重に恋する商人・文里に、渋さと色気を兼ね備えた演技で舞台に映像に存在感を示す眞島秀和。文里の女房・おしづに、魅力あふれる演技で、舞台で目覚ましい活躍を続ける緒川たまきの顔ぶれがそろいました。「吉三郎」の物語と「廓噺」の物語の両方をつなぐキーマン・十三郎は小日向星一が演じ、十三郎とめぐりあうおとせをオーディションで抜擢された深沢萌華が演じます。また、木ノ下歌舞伎や杉原邦生演出作品を支えるおなじみの個性派、武谷公雄、高山のえみ、山口航太、武居 卓、田中佑弥、緑川史絵が、豊富な舞台経験で物語の世界観を作り上げます。
さらに、昨年の『勧進帳』公演では、スウィング俳優が本役として出演する「スウィング公演」の試みが高い評価を頂きました。今回もご好評にお応えして実施予定ですので、こちらもあわせてご期待ください。
幕末動乱期の初演当時より、その時代を映し出し、今もなお愛され続けている物語が、同じく変化と激動のまっただなかにある現代(いま)を撃つ――木ノ下が新たに補綴した台本と、近年さらにスケール感を増す、杉原の鮮烈かつ緻密な演出。充実のコンビが多彩なキャストと繰り広げる一大群像劇をどうぞお楽しみください!
東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション
東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』
▼早割・吉三割(一般S席同日3名のご購入で割引になります)もご用意しております。
お申込みはこちら
https://tmt.pia.jp/list/onsale.jsp?venuecd=02&genrecd=00
▼日程・出演者等詳細はウェブサイトをご覧ください。
https://www.geigeki.jp/performance/theater364/
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