ピックアップレポート
2024年12月10日
芝 哲也「イノベーションを目指すほど、ウェルビーイングが高まる!~ウェルビーイング・イノベーションA日程を終えて」
ウェルビーイングとイノベーションを掛け合わせる
ウェルビーイングという言葉を耳にすることが増えてきました。ここ3年ほどで世間に広まり、ビジネスの世界はもちろん、教育や政治の世界でも一般的になってきた概念です。ウェルビーイングとは、「幸せ」と訳されますが、感情的な幸福(ハッピー、ハピネス)とは少し違い、「身体的、精神的、社会的に満たされた状態であること」を指すとWHOの憲章では定義されています。この「ウェルビーイング」と世界を変えるようなビジネスを生み出す「イノベーション」をつなげる新しい視点をご提供するのが、「ウェルビーイング・イノベーション」という講座です。
今回の記事では、新設された『ウェルビーイング・イノベーション』プログラムのA日程の様子をお伝えします。
Session1は、「幸せとイノベーションのメカニズムを理解する」ことをテーマに、前野教授によるウェルビーイングとイノベーションの解説から始まりました。なぜ、2つを掛け合わせて学ぶ必要があるのか、背景となる研究結果とともに、ウェルビーイングとイノベーション、それぞれの基本枠組みについて、わかりやすく解説いただきました。
後半は、習うより慣れよ!として、グループでブレインストーミングを実践しました。あらかじめ提示されたルールを念頭に、各自が付箋を持ちながらのアイデア出しです。初めて会ったメンバーとの演習は、初めこそ遠慮がちな様子でしたが、すぐに場も和み、短時間ながらたくさんのアイデアが出ていました。
そこには、幸せな空気感を全身にまとい、出てきたアイデアにいいね~!と称賛しながら、自らも触発されてアイデアを出すという自然体でファシリテーションする前野先生によって醸し出されたクラス全体の雰囲気が影響しているように感じました。加えて、開講前に行われたML上での自己紹介、肩書を外したニックネームのみの名札、アイスブレイクで行ったチーム名づくり、強力な助っ人であるアイデアサポーターの介入など、事前に設計された場づくりも大いに功を奏していたように思います。
1週挟んで開催された Session2は、事後課題の共有からスタートしました。
初めて自転車に乗るのと同じで、乗り方を説明され、理解したつもりになっても、繰り返しやってみなければ習得はできません。そのため、このクラスではセッション間での課題の取り組みも大事にしています。課題は個人とチームの2つ。ご自身のスケジュールに合わせて、オンラインブレストツールも活用しながら、学んだ内容を実践いただきます。
事後課題の共有では、同じ部署だと…、子供が入ると…、テーマが仕事に直結していると…、オンラインだと…など、実際にやってみたからこそ浮かび上がる課題や気づきを共有しながら、次の試行錯誤の判断材料にしていくこと、これもこのクラスで大切にしている学びの1つです。
さて、Session2の本題は、「発想をカタチにし、価値を検証する」です。皆さんは良いアイデアが出たのに、企画書にすると物足りなく感じる、実現まで至らなかった、と悩んだことはありませんか?これを解決するためにお教えするのが「コンセプト」と「コンテンツ」です。
コンセプトとは、どんな行動をしなければならないか想像がつくひと言へ言い換えること。以前話題になった旭山動物園で言えば、「形態展示を生態展示へ」といった具合です。一方、コンテンツとは、コンセプトを軸に企画の内容に落とし込んだものです。実は、この作業をするだけでアイデアの質と実現性が大きく変わります。「発想をカタチに」の部分ですね。
後半は、「価値を検証する」の部分、デザイン思考を生み出したIDEOでは、「プロトタイプなしには会議に参加してはならない」と言われるほど、重要視されるフェーズです。なぜプロトタイプがそんなにも重要なのか、具体的なプロトタイプピングの事例と合わせてご紹介した後は、実際に手を使ってやってみます。先に出したアイデアのうち、これだ!と思うものを各自選び、試作します。次々に試作品を作る人、細部が気になり1つを作り込もうとする人、人それぞれ作った後は、互いに共有しあいます。
なお、ブレインストーミング、コンセプト、コンテンツ…と様々アイデア出しした後は、ざっとアイデアを選別すべく、“投票”を行うのも、このクラスのお決まりです。チーム皆でアイデアを一度俯瞰してみて、良いアイデアに印をつける。この作業で、一旦、アイデアに優先付けします。優先度の高いものから、プロトタイプで価値を検証する。この作業を繰り返しながら、本当に優れたアイデアを見つけ出し、企画化していきます。
Session 3、Session4は、私が開発したオリジナルの演習が続きます。
アイデア発想には特別な才能=センスが必要と思われがちですが、その認識を覆すべく開発したツールが「アーキタイプ」です。既存の優れたアイデアから凄い理由を見つけて、応用します。最初は、「既存の優れたアイデアって?」と戸惑いながら考えていた皆さんも、車!コンタクト!文字!iPhone!ChatGPT!と、互いの意見に刺激されながら続々と付箋が張り出され、あっという間にホワイトボードに付箋が溢れました。この要素を上手く使って、自分たちのアイデア出しに応用していきます。そのまま真似をしてしまうこと(パクリ)はよくないですが、凄い理由を抽象化した要素は自分が分析して見つけたものなので使うことができます。このアーキタイプにより身の回りにあるものすべてが題材になり、アイデアのヒントとなる事から、セッション後半では、「アーキタイプ」づくりが習慣化した方も複数でるなど、効果を実感いただいたツールの1つでした。
「分析的思考を鍛え、潜在意識にアクセスする」がテーマのSession 3は前半で「アーキタイプ」を、後半では、人間中心のイノベーションアプローチとされるデザイン思考において、プロトタイプと並ぶフェーズの1つとなる「観察=オブザベーション」を通じて、無意識の声にアクセスする手法も学びました。
クラスでの演習に慣れてきた後半戦。Session4からはチームメンバーを入れ替えてさらなるアイデア創出に挑みます。私たちは与えられた枠組みの中で発想しがちで、どうしても突飛なアイデアを出しにくい性質を持っています。こうあるべき、前提として…と、仕事上におけるアイデア出しであれば尚更、枠を外したアイデアが出せないのが常です。その状況を打破しようと、開発したのが「二極ブレインストーミング」です。「究極の〇〇」「最悪の〇〇」という二軸の極限の問いを設定し、アイデア出しをします。突飛なことを考えにくい日本人ですが、設定された問いには忠実に考えようとするから不思議で、この手法を使うことで普段考えないような極端なアイデアを出すことができ、創造性が解放されてきます。この間、様々な手法を使ってアイデア出しし、発散に慣れてきたこともあり、どのチームも短期間にホワイトボードがアイデアで埋め尽くされました。
終盤となるSession5では、「アイデアの判断基準と方向性を明確にする」をテーマに、これまで考え尽くしたアイデアが本当に価値あるものかを判断するべく、ビジョン、ミッション、フィロソフィー(大切にしたい価値観)を検討しました。アイデアはそれ単体で評価することが難しいので、「何を持ってして正解とするか?」という基準を自分たちで作る必要があります。日本では、具体論を重視するため、このような抽象的な議論は避けがちなのですが、アイデアの目標やおおもとにある価値観を明確にすることで、強いアイデアを生むことができます。加えて、これらを検討することで、アイデア実現までの独自のKPIをも設定することができ、アイデアの実現性が格段に向上します。
最終回は、ご自身のテーマに置き換え、これまで学んだ手法を活用しながら、考え出したウェルビーイングデザインを一人ずつ発表していただきました。ウェルビーイングデザインのポイントは、誰の何を幸せにするデザインなのか。仕事の課題に合わせて取り組む方から、家族や友人、ご自身の困りごとから考えた方まで、当初は普段考えることのないテーマに戸惑う方もいらっしゃいましたが、じっくり考え、チームメンバーから意見をもらって改訂していく中で確かな手ごたえを感じた方も多くいらっしゃいました。
参加者の声
参加者からは「参加して有意義だったと思う」という項目では5点満点中平均4.8点など高い評価を受けました。「座学だけでなく、手を動かして学べた」「論理的でわかりやすくウェルビーイングやデザインについて説明されていた」「ウェルビーイングはビジネスと地続きであると実感できた。」「タイミングよく社内の新規事業プロジェクトに活用した」など嬉しい声をいただいています。
終わりに
製品、サービスは「人を幸せにする」ことを目指しているのにも関わらず、どのようにしたら幸せになるのかがあまりわかっていなかったために、性能の追求、技術の追求に焦点が当たりがちです。ウェルビーイングの研究において近年、「幸せとは何か」「その仕組みはどうなっているのか」が明確になってきました。そして、その要素や仕組みを応用して新しい価値を創出する段階に移ってきました。
「ウェルビーイング・イノベーション」の講座では、様々な方法論やプロセスを余すことなくお伝えしています。知るだけではなくて、体験すること、そして、体験することだけでなく、体験を経験に変え、業務に活かすことができるような設計となっています。
ウェルビーイング・イノベーションを学ぶことで、新しい商品やサービスにさらなる価値を付加することができるのはもちろんのこと、仕事のやりがいを高め人生を豊かにすることができると講師一同信じております。ぜひ、ご参加ください。
■関連記事■
ウェルビーイングとイノベーションの関係とは?
芝 哲也「ウェルビーイング・イノベーション~幸せなイノベーションを実現する~」
https://www.keiomcc.com/magazine/report257/
芝 哲也(しば・てつや)
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 教授
慶應MCC担当プログラム
ウェルビーイング・イノベーション
略歴
カナダのブラストレディアスというブランディングカンパニーにて、プロアクティブ、任天堂US、スターバックスを担当。帰国後、NOSIGNERの太刀川英輔氏のもとでデザイン業務に従事し、東日本大震災の復興デザインやサイエンスコミュニケーションプロジェクトに参加。その後、デザイン事務所Cauzを設立し、中野のまちづくりや特許事務所のブランディングを手がけながら、慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科に進学。
現在は武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授、日本ブランド経営学会理事、クリエイティブ思考協会共同代表理事を務める。主な研究領域は、イノベーション、創造性、アイデア発想、ブランディング、地域創生。
登録
オススメ! 秋のagora講座
2024年12月7日(土)開講・全6回
小堀宗実家元に学ぶ
【綺麗さび、茶の湯と日本のこころ】
遠州流茶道13代家元とともに、総合芸術としての茶の湯、日本文化の美の魅力を心と身体で味わいます。
オススメ! 秋のagora講座
2025年1月25日(土)開講・全6回
宮城まり子さんとこころの旅
【どんな時にも人生には意味がある】
『夜と霧』の著者V.フランクルの思想・哲学・心理学を題材に、生きる目的・人生の意味を語り探求します。
いつでも
どこでも
何度でも
お申し込みから7日間無料
夕学講演会のアーカイブ映像を中心としたウェブ学習サービスです。全コンテンツがオンデマンドで視聴可能です。
登録