今月の1冊
2012年09月11日
『なぜ、あの会社は儲かるのか? ビジネスモデル編』
著者:山田英夫; 出版社:日本経済新聞出版社; 発行年月:2012年7月 ; ISBN:978-4532318215; 本体価格:1,470円
書籍詳細
「隣の芝生は青い」ではないですが、「なぜ、あの会社は儲かっているのか?」と、他社を羨ましいと感じたこと、真似できたらと思ったこと、どんな秘密が隠されているのかと考えたことはありませんか。
そんな誰もが抱いたことのある疑問に答えてくれるのが、この『なぜ、あの会社は儲かるのか? ビジネスモデル編』です。もちろん、虎の巻ではありません。この本は、「なぜ?」と、疑問を持つだけで終わらず、自分なりの考えを導きだすことができるよう、「青い芝生の見方」を教えてくれる一冊です。
今、日本企業の大半が、既存のビジネスモデルに限界を感じているか、このままでは限界も近いと危機感を持っているのではないでしょうか。しかし、「新しいビジネスモデル」というのは、新製品を作るのとは違い(もちろん、新製品を生み出すのも大変な苦労はあるかと思いますが)、技術研究を重ねたり、1つ1つの顧客の声に応えたりするなどの地道な企業努力だけでは難しいのも事実です。
本書の興味深い点は、同業他社のベンチマークではなく、異業種にあるビジネスモデルに着目し、それを移植することで、ビジネスモデルのイノベーションをはかろうというものであり、その際に異業種の企業のどこに着目をすれば良いのか、豊富な事例より説明されているところにあります。
構成は大きく二つに分かれており、前半は、本当に、異業種からイノベーションを学べるのか。という疑問を、1人でも多くの読者に納得してもらえるよう、メーカー、金融、サービスまで、幅広い分野から厳選した実際の成功事例をじっくりと解説していきます。
後半は、どうやって異業種からビジネスモデルのヒントを見出すのかを解説していきます。ここでは、「顧客の再定義」、「顧客の経済性」、「バリューチェーンのバンドリングとアンバンドリング」、「経営資源の持ち方」、「定番の収益モデル」と、テーマ毎に数多くの事例を紹介し、どのような点に着目すれば異業種からヒントを得られるのか、頭の中を整理しながら、勘所を鍛えることができる場となっています。
難しい専門用語はあまりありません。単純に、「なるほど」と思えるような、飲み会の席で部下に(少し自慢げに)話してみたくなるような豊富な事例が紹介されています。そして、それこそが、著者の狙いなのではと、私は感じています。
新しいビジネスモデルを模索している過程で、疲弊してくることもあるでしょう。自分がこれだけ悩み、考え抜いても答えが出てないのに、たった1冊の本で解答が導けるわけがないと、懐疑的な方もいらっしゃるかもしれません。考えすぎて凝り固まってしまった方、悩みすぎて出口が見えなくなってしまった方が、少し肩の力を抜いて、これまでと違ったものの見方ができるように、LCC(格安航空会社)やスーパーホテルなど、どんな業界にいても、ビジネスパーソンであれば興味を持てるような事例、あるいは、オフィスグリコやアマゾン、Facebookなど、生活に密着している身近な事例を集め、理想論を語らず、より具体的に、かつ事実に沿って、異業種から学ぶことの有効性を示しているのです。
また、ビジネスモデルのイノベーションは難しいと思われがちである成熟業界からの事例を数多く紹介しているのも、本書の特徴の1つだと思います。
著者の山田先生は、慶應MCCで『経営戦略―成長のための戦略思考』を担当いただいていますが、その最終セッションでは、”自分の親を安心して託せる施設”の実現を目指し定評ある青梅慶友病院の事例を紐解いて、戦略を学んでいきます(青梅慶友病院は、本書でもほんの少し紹介されています)。山田先生は、「青梅慶友病院のような医療の世界のように、Product、Price、 Place、 Promotion の4Pがすべて制約されているという特殊な環境であっても、ここまでの工夫ができる。だから、自分達の業界が住みづらいと感じていても諦めてはいけない!」というメッセージを込められていると、私は毎回感じています。
そして、本書でも同じ想いを読み取れました。例えば、歴史もあり、規制も多い金融業であるスルガ銀行の事例からは、「銀行って昔からこういうものだから」という既成概念を崩すのに、ホテル利用者が快適に過ごせるためのあらゆるニーズに応えていくコンシェルジュからの学びが大きかったことがよく理解できます。スルガ銀行は、困っている顧客は誰かといいう視点から、当時は個人ローンを借りにくかった働く女性、中小企業に勤務するビジネスマン、職種上転職の多いSEやプログラマ-、収入が不安定なスポーツ選手などを積極的にローンの対象としたり、「相談したい時には、店舗は開いてない」という声に対応して、住宅ローン専用の土日営業店舗の開設や、待ち時間を極力減らす工夫を重ねてきました。このように、成熟業界の中から、知恵を働かせてイノベーションを起こしている企業を紹介することで、読者の方に、「外部環境や内部環境のせいにしてはいけない!頑張れ!」と、応援メッセージを贈られているのではないでしょうか。
本書「はじめに」における著者の言葉が、まさに、この本の魅力を語っているように思います。
自分の業界ばかりを眺めていると、メガネは曇ってくる。メガネを新調して、異業種にあるわくわくするようなビジネスモデルを探しに行ってみませんか。
経営書の中には、意を決して表紙を開けないと読み進められないものも少なくありませんが、本書は、異業種のビジネスモデルだからこそ、肩の力を抜いて、そして先入観なく、学ぶことができます。ぜひ、どんなロマンやドラマが感じられ、どんな出会いがあるだろうかと、わくわくしながら、ページをめくっていただきたいです。
(藤野あゆみ)
『なぜ、あの会社は儲かるのか? ビジネスモデル編』 山田英夫(日本経済新聞出版社)
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