今月の1冊
2022年03月08日
本田 秀夫『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』
聴くと気持ちがうんざりしてしまう言葉というのは、ありませんか?
ベタな例を挙げるとすると、母親が小学生に言う「宿題はしたの?」というセリフ。
「わかってるよ!」とキレ気味で返したくなるような、あの系統の言葉です。
「付き合って長いんだし、そろそろはっきりさせるタイミングでしょ?」
「結婚して大分経つのだから、もう子供を考える時期じゃない?」
「いい歳なんだし、いい加減家を買ったらどうだ。」
振り返ってみると、人生の節目ほどこうした系統の言葉を浴びやすくなっているように思います。
きっとこの調子で、そろそろ介護の事も~、相続の事も~、お墓のことも~…と延々と続いていくのでしょう。さりとて、「うるせえ!」と返せるようなパンクな心の持ち主ではありませんので、どうしたものかなと真剣に考えてみるタイミングがつい最近ありました。
どうして「うんざり」してしまうのか
そもそも、どうしてこれらの言葉にうんざりしてしまうのか。自分の中でどの様な心の動きがあるのかを考えてみました。
まず、相手の言っていることは無茶苦茶なことではありません。社会通念上、ごく一般的なあるべき論で、正論ともいえる内容だと思います。
当初は、そんなあるべき論に対して自分自身の価値観にそぐわない部分が反発しているのだと思いました。ただ、よくよく考えてみると反発は怒りに近い感情こそ生みますが「うんざり」とはならないはずです。一体私は何に対して「うんざり」しているのでしょうか?
更に深掘りしてみると、8割の反発の気持ちに加えて「まぁ、そろそろ結婚した方がいいのかな…」「同期も結構家やらマンション買いはじめているしな…」と2割程度はあるべき論に肯定的な気持ちもあるのでした。この二律背反が自分の中でモヤモヤし、「うんざり」した気持ちの根源になっているのかもしれません。
本著との出会い
そんな話をカウンセラーとして働く知人にするきっかけがあったのですが、その時薦められたのがこの本でした。
この本は精神科医として、主に発達障害に関わる分野を中心としながら30年以上臨床と研究に携わってきた著者が、周りに合わせすぎて疲れた大人たちに向けて自分らしい人生を歩むコツを贈るというスタンスで書かれたものです。
余談ですが、私はよくある「〇〇をやめたら人生変わった」的な本があまり好きではありません。How toが過ぎたり、自身の経験談に寄りすぎている内容であることが多くあるからです。しかしながら、この本は心理学や発達障害の理論・臨床経験をベースに、非常にわかりやすい解説がなされています。私の様にこの種の本にバイアスを持っている方にもおすすめしたい内容です。
人間誰しも異なる「特性」を持っている
本書を読み進めていくと、紹介される発達障害の特性の中に自分にも思い当たる節のあることがあり、ドキリとさせられることがあります。
人間は誰しも「生まれながらの特性」を持っています。その特性が発達障害と診断されるかどうかは、医学的には生活上の支障が出ている場合、つまりその特性の出方の強弱の問題でしかなく、特性そのものを優劣で語ることは出来ません。
そして生まれ持った特性である以上、後天的に変えることが出来ない、あるいは変えることが難しいものです。これは、我が家の幼い2人の娘を見ていても本当にそう思います。
MCCでも「組織・人材プロフェッショナル養成講座」や「企業参謀養成講座」に登壇されている高橋俊介先生が、よく『天才と発達障害』(岩波 明 著/文春新書)という本を紹介されます。モーツァルトやアインシュタインなど、歴史上の偉人の精神病理を紐解きながら、現代では発達障害とされている特性が彼らの業績にどれだけの影響を与えたかを考察しているものです。
こうした特性はほとんどの場合トレードオフの関係となっており、ある場面では弱みとなるものが、状況やテーマが変われば一転して大きな強みにもなります。個々人が持つ特性を一面的に捉えることが適当ではなく、まして単純な優劣で語れるものではないことが良く分かります。
「やるべきこと」を手放すとは
著者の本田さんはあっさりと冒頭で私のモヤモヤを晴らしてくれました。
発達障害の特性で生きづらさを感じる人たちは、特性自体がつらいのではなく、周りに合わせようとすることで起こる「二次障害」でつらい思いをしているケースがよくあります。二次障害とは、生活環境からのストレスによって、二次的に生じる支障のことです。
何事にも意欲を感じられなくなり、熱中できる対象がどんどんなくなっていき、自信がなくなったり、集中力が低下したり、疲れやすくなったりします。
誰もが異なる特性を持っているにも関わらず、人間の行動を一般的なあるべき論に押し込めてしまえば、無理が出るのは当たり前のことです。
自分自身の特性に目を瞑り、一般的な当たり前に自分を合わせようとすることが「うんざり」を生み出していたのかもしれません。
本田さんはこうも語っています。
「『しなくていいこと』を決めて手放そう」というと、本来やるべきことを避けて、ラクな道に逃げていくようなイメージを持つ人もいるかもしれません。
でも、「しなくていいこと」を捨てるのは、「逃げの姿勢」ではありません。
~中略~
世の中には「攻めの姿勢」で「やりたいこと」をやっている人がいますが、そういう人には遊び心があります。「こうしなければ」という義務感にとらわれずに、ひらめきを大事にしながらパフォーマンスできるのです。
攻めの姿勢の人には、基本的に悲壮感がありません。「しなくていいこと」を決めてラクになるというのは、そういうことです。
「やりたいこと」は何だろう
この本は、自分自身の特性や価値観の棚卸をするひとつのきっかけとして、非常に良い本だったと感じています。
あるべき論を取り払い、自分が何をやりたいのかを考えていった結果、私は「家を建てる」という人生におけるビックプロジェクトを進めていくことにしました。
知識ゼロで土地から探すような状況でしたので、大量のインプットと休日ごとの商談や現地見学等の物理的な移動はかなりの負荷とはなっていますが、今のところ「攻めの姿勢」でそれらを楽しみながら取り組めています。
人生における大きな意思決定ほど「攻めの姿勢」で後悔の無いように行いたい。そんな風に背中を押してくれた1冊でした。
(石井雄輝)
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