今月の1冊
2022年07月11日
佐渡島 庸平『感情は、すぐに脳をジャックする』
妻が映画を見て感動の涙を流していた。それを見て、ふと、ここ数年感動していないことに気がついた。もちろん感情が動くことはある。仕事がうまく行けば嬉しいし、上司に怒られれば落ち込む。美味しいものを食べたら幸せな気持ちになる。ただ、それは感動ではない。辞書では「感動(スル):心が物事を受けとめて深く動かされること」とあった。心が”深く”動かされることがポイントのようだ。ふと疑問が湧いた。そもそも感情はどのような理由でどう動いているのだろうか。感情ほど身近なものは無いのに、自分の感情に対して無頓着だと気づいた6月の雨の日だった。
そんな中出会った本が『感情は、すぐに脳をジャックする(著:佐渡島庸平)』である。本書の前半は株式会社コルクの代表である佐渡島庸平さんが感情について考察しており、後半は佐渡島さんと予防医学研究者の石川善樹さん、漫画家の羽賀翔一さんの3人が感情について対談(雑談?)する流れとなっている。(実際の流れとしては、後半の対談をもとにまとめた考察が前半だということ。)佐渡島さん曰く、感情を深く知るためには、認知・受容・選択をすることが大切であり、その中でも最初の認知が最も重要だという。自分の感情をしっかりと理解していないからこそ、感情に脳をジャックされ、人は言葉通り感情的になってしまうそうだ。
私たちはいろんな感情を持っている。嬉しい、楽しい、微笑ましい。むかつく、イライラする、怒る。悲しい、辛い、くやしい、恥ずかしい、驚く…など。ヤバい、エモいのような様々な感情を表せる言葉もある。様々な感情を持っているが、日々の感情を、つまり自分が何に対してどのように感じているかを意識することはどれくらいあるだろう。喜怒哀楽のような強い衝動的なわかりやすい感情以外は普段あまり意識しないのではないだろうか。「仕事がうまく行けば嬉しいし、上司に怒られれば落ち込む。美味しいものを食べたら幸せな気持ちになる。」と先程書いたが、嬉しい・落ち込む・幸せは表面に現れる感情であり、その裏には承認欲求やプライド、罪悪感などがあるのかもしれない。なぜそう感じたのか、なぜそう反応したのか。その裏にある感情を認知することが自分自身を知る大切な第一歩なのであると佐度島さんは言う。ここでのポイントは他人を理由にしないことである。「あの人が○○をしてくれたから」、「あいつが××をしてきたから」ではなく、自分の中に理由を見つけるということだ。動機の言語化か…あまり好きじゃないしな。しかし案外…いややはりというべきか。自分を掴むカギはそこにあるか…と思い、少し考えてみた。
どうだろうか。ビジネスではどうしても面白いかより、実績があって安心で、リスクの少ない堅実な案が選ばれる。日常でも面白いと思うことがあっても、やらないこと、思うだけのことは多い。
いやいや、面白いことを懸命にやるからこそ勝てるのだ、という堀田さんの言葉は、結果を出しているだけに説得力がある。さらに、新しい発想や結びつきがますます求められる現代にはストレートに響く。思い切って面白いと思うアイデアでチャレンジしてみようではないか。そして、面白いと思うことがあるなら、いますぐやろう。人生は誰かと戦うものではないけれど、面白いことを始めなければ女神はこちらを向いてもくれまい。面白いほうを懸命にやってみよう。
【喜び:仕事】
顧客への提案が受け入れられたとき、公開講座の参加者からのアンケートで感謝の言葉が書かれていたときは単純に嬉しい。ではその時の嬉しいとはどういうことなのだろう。自分のやったことを認められた、つまり『承認欲求』が満たされたということはあるだろう。顧客や参加者に貢献できた『他者貢献』ということもあるかもしれない。はたまた自身の評価が上がり、『報酬』が増えるかもしれないことを喜んでいるのだろうか。
【イライラ:子育て】
5歳の娘は集中力が無い。直ぐに気が散ってしまい、食事、お風呂、片付けなどのやるべきことがいつまで経っても終わらない。特に食べるのが遅く、夕飯を食べるのに、嫌いのものがなくても2時間以上食べている。保育園でも毎回お弁当を食べ終わるのはビリで、先日先生から苦言を頂いてしまった。5歳だから仕方ないと思うのだが、このままでは集団行動に支障を来す。だが、モンテッソーリ教育方式で褒めても、頑張ったらご褒美方式にしても、叱っても、何度言っても変わらない。不思議なことに本人はやる気があるようであり、たまに早いこともあり、どうしてもできないわけではなさそうだからこそ困ってしまう。そんな娘に対し、最初は優しく促せるのだが、3回、5回言っても変わらないとどうもイライラしてしまう。特に急いでいるときは理不尽な当たり方をしてしまう。ではなぜ私はそんなに簡単にイライラしてしまうのだろうか。1つには、これくらいであればやって欲しいという『期待』があるのだろう。成長するにつれ、できることは増えてきた。だからこそ、理解でき、やればできるのであれば、1度注意されればやってほしいという期待があるのだと思う。もしくは『支配』したいのかもしれない。自分の人生は自分で判断できるような人に育てたいが、「親の言う通りに動け!」とコントロールしたい気持ちもあるのかもしれない。
試しに喜びとイライラについて考えてみたが、自分の感情を深掘りすることで気づきはあっても、その根源的な理由を明確に言い切ることは難しかった。もしくはいずれの思いも正しいのかもしれない。一つ言えることは、感情を深掘りして解像度を上げると、自分自身に対する理解度が上がったということだ。嬉しいやイライラするで終わらせず、なぜ嬉しいのか、なぜイライラするのかを深掘りし言語化することで、自分を客観的にメタ認知することができる。そうすれば簡単には感情に脳をジャックされなくなり、感情に振り回されることは減るだろう。生きていれば様々な感情が生じるが、それらの感情と向き合うことはよりよい生き方を追求する第一歩と言えるのではないだろうか。自分探しの旅にインドに行くよりも、自分の感情と向き合うほうが自分を見つけられると感じた36度の6月であった。
(塚田卓満)
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