夕学レポート
2012年07月10日
宮脇 昭 「いのちの森を育てよう~エコロジーの脚本にもとづいて~」
宮脇氏は過去40年にわたって、世界中の1,700箇所に4,000万本を超える植樹を行なってきました。「宮脇方式」と呼ばれる森づくりは、その土地に昔から植生していた木を用いて、様々な種を混ぜて、密植して植えます。それぞれの土地本来の木のことを「潜在自然植生」と呼ぶそうですが、日本の多くの地域では、シイ、タブノキ、カシ類といった常緑広葉樹を指します。こうした木は、深く根をはり(深根性)、また、根がまっすぐに伸びる(直根性)という特徴があります。したがって、地震、津波や暴風雨などに耐えることができます。
しかし、日本の多くの土地に本来生育していた常緑広葉樹林は、「木材」を効率的に生産するためのスギ、ヒノキ、マツなどの針葉樹林へと植え替えられてしまい、現在、土地本来の森が残っているところは全体のわずか0.06%に過ぎないのだそうです。
東日本大震災後の大津波では、陸前高田市にあった高田松原の70,000本の松林は1本だけを残して流されてしまいました。しかし、常緑広葉樹であれば、大きな津波が来てもそう簡単に抜けてしまうことはありません。そして、密集して生い茂る葉のおかげで水が破砕されるため、津波の勢いを減衰させることができます。また、油分を含んでいるため燃えやすい針葉樹と異なり、常緑広葉樹は葉に十分な水分を含んでおり、大火にも耐えることができます。ですから、私たちの命や財産を守ってくれる「いのちの森」となるのです。実際、関東大震災の際には、大火事によって多くの人命が失われる中、常緑広葉樹に囲まれた清澄公園(当時は、岩崎弥太郎が造成した深川親睦園)に逃げ込んだ多くの人命が救われました。
そこで宮脇氏は今、壊滅的な被害を受けた東北地方の太平洋沿岸に、南北300キロメートルの「森の長城」を作ることを提唱しています。そして、できるだけ早くこの森づくりに着手しなければならないと、宮脇氏は強く訴えています。なぜなら、津波の被害の結果として生まれた膨大な量のガレキが、新しい森を育てる貴重な地球資源として活かせるからです。宮脇氏が現地で調べたところによると、ガレキの90%が木質でした。したがって肥料として利用可能です。しかし、このままでは、2年以内にはガレキのほとんどが焼却処理されてしまうことでしょう。そうなる前に、森づくりに着手しなければならないのです。
宮脇氏の構想によれば、まず穴を掘り、ガレキを埋め、土を混ぜながらマウンド(盛り土)をつくります。そのマウンドの上に、シイ、タブノキ、カシ類など、その土地本来の潜在自然植生の木の様々な種類を混在させて植えるのです。カシなどの場合、その果実であるドングリの実を集めて、30時間ほど水につけてから、腐葉土を入れた小さなポットの上に置いておけば芽がでてきます。こうしてつくった高さ30センチそこらのポット苗を植えるとすくすくと育ち、おおよそ3年で3メートル、5年で5メートルもの高さになるのです。そして、20年もすれば立派な森となり、いつまた襲ってくるかもしれない津波や大火から人々の命や財産を守ってくれると、宮脇氏は主張しています。
人工的に同じ樹種だけを造林された針葉樹林は、20年たっても、定期的な間伐や下草刈りが必要です。すなわち、継続的に管理しなければならず、放置すれば山は荒れてしまいます。しかし、潜在自然植生の樹木で構成される土地本来の森は、管理しなければいけないのは最初の3年間だけで、後は何もしなくても荒れることはありません。また、常緑広葉樹は、80年から120年に1回の伐採となりますが、直径80-90センチほどの木は、1本1千万円ほどの値がつくそうです。最初の投資回収までは時間がかかるものの、自然災害から私たちの守ってくれる土地本来の森林を回復・維持しつつ、経済的な効果も見込めるのが宮脇式の森づくりです。
宮脇氏はまた、海外の熱帯雨林の再生にも取り組んでいます。マレーシアのボルネオ島では、ラワンを始めとする木をこれまで40万本植樹。アマゾンでの「宮脇方式」の植樹も始まっています。中国でも、万里の長城の地域において、その土地の潜在自然植生である「モウコナラ」などの植生に取り組んでいます。
「木を植えることは、命を植えること、明日を植えること、心を植えること」だとおっしゃる宮脇氏。現在84歳の宮脇氏ですが、1年中全国・全世界を飛び回り「いのちの森づくり」に汗を流されています。これからもお元気で、豊かな森づくりの先頭に立ち続けていただきたいと願わずにはいられません。
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