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夕学レポート

2004年04月13日

柴田 昌治 「自分を生かすネットワークをつくる~風土改革の現場から~」

柴田昌治 株式会社スコラ・コンサルト代表 >>講師紹介
講演日時:2004年1月20日(火) PM6:30-PM8:30

ビジネスパーソンの琴線に触れる書名、そして、独特の企業変革手法を紹介した内容の素晴らしさで大ベストセラーとなった「なぜ会社は変われないのか」の著者、柴田昌治氏をお迎えした『夕学五十講』は、予想通り満席の人気となりました。


柴田氏は、「戦後日本の高度成長を支えたのは、間違いなく、企業の持っていたチーム力の強さ、言い換えれば日本的ネットワークの存在であった。」という持論をお持ちです。つまり、従来は社員間の濃い人間関係が、社内の円滑なコミュニケーションを促進し、その結果として日本企業が高い競争力を持ちえた、ということです。実際に今日の世界レベルで強い競争力を持つ企業では、社内のキーパーソンどうしがフォーマルだけでなく、インフォーマルなレベルでも密なコミュニケーションを取り合っているそうです。
したがって、80年代以降、世界における日本企業の競争力が低下してきた背景には、アフターファイブのつき合いの減少に象徴されるような、社員どうしの関係の希薄化があることを柴田氏は指摘します。実際、今の企業では表面的な付き合いかたが広がっていますが、それは、具体的には次のような現象になって現れています。

  • 部下をしかることが少なくなった
  • 相談すること(特に世代を超えて)が少なくなった
  • 自分のテリトリーだけで仕事をする傾向が強まった
  • 自分から仕事をつくるというより、指示を待つ傾向が強くなった

ただ、こうした日本企業における人間関係の希薄化が進む一方で、企業環境も大きく変わっています。高度成長時代は、文字通り右肩上がりの成長を続けている時期であり、顧客や競争相手も固定していましたし、「儲ける仕組み」が安定していました。しかし今の時代は、成熟した市場で、顧客ニーズの変化が激しく、意外なところから競争相手が出現します。したがって「儲ける仕組み」が流動的になっています。つまり変化が多様になりのサイクルも短くなっているのです。
そして、上記のような企業環境の変化に呼応して、必要とされる「働き方」も変わってきています。まず、幹部の姿勢としては、従来の「会社が決めたことだからやれ」といった指示・命令ではなく、夢、展望を語る、方向性を示す、励ます、部下を守るといった姿勢が求められています。その根底にある考え方は、答えや知恵は上が持っているのではない。上は方向性を示し、その方向性に沿った答え(どうするか)を現場がつくっていくべき、というものです。したがって、社員側の姿勢も、やらされる、待つ、してもらう、といったものから、考える、相談する、人の話を聞く、まずやってみる、というものに変わる必要があります。
しかし、現実には、今の時代が要求する「働き方」と現実の姿が乖離しているために、様々な問題が起きてしまっています。柴田氏によれば、大手企業に特に顕著ですが、相変わらず従来の「働き方」を続けている企業が多いそうです。今回の講演の受講生についても、会社ではどんな働き方が多いのかを挙手してもらって確認されたのですが、やはり従来のやり方をしている会社が圧倒的多数でした。
さて、こうした企業の現状における最も大きな問題、それは「経営に対する信頼感がゆらいでいること」だそうです。マネジメントの仕方、コミュニケーションの仕方が変わらないために、経営層、あるいは社員どうしの信頼感が醸成されず、結果として企業風土を変えることができないのです。
そこで、柴田氏は、この問題解決の最初の一歩として、新しくて、質の高いネットワークを作ることを提唱しています。質の高いネットワークとは、「思い」や「目指すもの」「問題と感じること」を共有している人間関係です。こうした人間関係が生まれれば、経営と社員が共感し合い、一緒に問題を解決していくことができるようになります。これこそ、経営に対する信頼感を醸成することだと柴田氏は言います。
そして、質の高いネットワークをつくるために必要なのが、気楽に真面目な話のできる「場」をつくること、すなわち「オフサイトミーティング」を実施することです。真面目に真面目な話をする「会議」でもなく、また気楽に気楽な話をする「アフターファイブ」でもなく、気楽に真面目な話ができるオフサイトミーティングによって、信頼感を醸成するための、思いの共有の促進を図ることが可能となります。
最後に、柴田氏は非常に興味深い指摘をしてくれました。質の高いネットワークづくりを通じて、経営や仲間に対する信頼感が醸成されると、思いきった提案をしても、誰かが必ず拾ってくれるという安心感が生まれます。そうした安心感がいわばセーフティネットとなって、社員が一歩踏み出す勇気が生まれるというのです。
日本企業は、おおむね減点主義であり、失敗を恐れるために思い切ったことができないということが言われてきましたが、柴田氏の言う「質の高いネットワークづくり」ができれば、新たなチャレンジに積極的に取り組む風土に変わり、再び高い競争力を取り戻すことができるのではないか。柴田氏のお話をそのように解釈することができたので、大いに啓発された講演となりました。

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