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夕学レポート

2019年04月09日

吉田 ちか「好きなことでヒトの役に立てる時代」

吉田 ちか
YouTube Creator
講演日時:2018年11月27日(火)

吉田 ちか

好きなことで生きるための努力と才能

「好きなことで、生きていく」— みなさんは、このCMコピーを覚えているだろうか? このコピーとともにYouTubeのCMがテレビに流れた2014年、YouTubeというプラットフォームはまだそれほど一般的でなかったと記憶している。
そして2018年。「好きなことで生きていこうだなんて、現実ナメんなよ!」という大人のイラつきをよそに、”YouTuber”は子どもたちの憧れの職業ランキング上位に君臨し、お茶の間にすっかり浸透した。

でも、わたし自身はYouTuberの作品をほとんど見たことがない。数少ないサンプルから受ける印象はあまり良いものではなく、言葉は悪いが”シロウトによる悪ふざけの延長”というイメージを持っていた。

しかし今回吉田ちかさんの講演を聴き、帰宅後に吉田さんの過去の作品をいくつか拝見して、この認識は180度変わった。よく考えればあたり前のことなのだが、努力と才能に裏打ちされた凄腕クリエイターだからこそ、人気YouTuberは「好きなことで、生きて」いけるのだ。

クリエイターとして生きる覚悟

吉田さんは、ご両親の仕事の都合で小学校から大学卒業までをアメリカで過ごした。週末には補習校で日本語を学んでいたものの、得意な言語は圧倒的に英語。しかし大学卒業後に帰国し、そのまま日本の企業に就職したそうだ。

まずはこの行動力に驚かされるが、吉田さんがさらにすごいのは会社勤めのかたわらでネイルサロンを開業したこと。そして個人的に興味深かったのは、そのころの吉田さんがブログを書いていた、というお話だ。副業でネイルサロンを経営するにあたり、学んだことや感じたことをブログで発信していたそうで、「人の役に立つことを発信したい」という吉田さんの信念が伝わるエピソードだと感じた。

ただ吉田さんの場合、「ボランティア精神が旺盛」という一言では片付けられない。個人の情報発信といえばウェブサイトやmixiなどのSNS、またはブログと相場が決まっていた2011年当時、吉田さんはすでに動画配信に興味を持っていた。「動画配信に適したコンテンツは何だろうと考えていました」という嗅覚の鋭さは大したものだ。

やがて英会話レッスンを題材とする動画コンテンツを思いついた吉田さんは精力的に動画を投稿し、徐々に多くの視聴者を集めることになる。しかし、視聴者の母数が増えるにつれ、ネガティブな意見や批判的なコメントも増えていった。吉田さんは心ないコメントに傷つき、あるとき1ヶ月間も動画を投稿できなくなったそうだ。でも、その沈黙の期間に「クリエイターとしてやっていこう」と覚悟を決めたという。

動画コンテンツビジネスの将来性に掛けることを決意した吉田さんは会社を辞めることになるのだが、そのお話の中で意外だったのは「会社を辞めるまでに数年悩みました」という言葉。CMの中では「気づいたら辞めていた」と語っていたが、実際にはそんなわけはない。そりゃそうだ。
いかにも勘がよくてエネルギッシュな印象の吉田さんだが、と同時に、思慮深く状況を冷静に見つめる目をもった人物だということが伝わるエピソードだった。

自己顕示欲とサービス精神の絶妙なバランス

SNSを日々眺めていて思うのは、自分が写っている写真や動画を投稿する人がとても少ない、ということ。控えめであることに美徳を感じる日本人。それはそれで良いのだが、一方で、小さな子どもたちはカメラを向けられると何とか目立とうとしてポーズを取り、とっておきの”良いお顔”をする。子ども時代、多くの人は目立ちたがり屋だったはずなのに、大人になるにつれて目立つことを恐れ、あまつさえ目立つ人を批判する文化は何だか不健全な気もする。

誤解を恐れずに言えば、YouTuberは目立ちたがり屋だ。だから日本社会では必要以上に反感を買いやすいのだろう。たしかに、プロポーズや出産まで動画にして不特定多数に公開する行為は、多くの日本人からすると”出たがり”がやることに見える。でも吉田さんは、たとえ個人的なイベントであってもエンタテインメントに昇華するための工夫を欠かさない。その根底にあるのは、徹底したサービス精神だ。

たとえば、吉田さんの作品にはそのときどきのトレンドが反映されている。トレンドを盛り込んだ方が視聴数が上がるからだ。でも視聴者はそんな戦略を感じることなく、目の前の動画を純粋に楽しむことができる。それはなぜか。オリンピックを題材にした動画には手作りのユニフォーム風衣装で出演し、ヒット曲を題材にした動画ではPVそっくりの映像を作り込む吉田さんの熱烈なサービス精神は、全てのネガティブ要素を吹っ飛ばすくらいのパワーを秘めているからだ。

吉田さんが「みんなが見たいコンテンツ」と「自分が作りたいコンテンツ」の比率に細心の注意を払い、たとえ企業とのタイアップ企画であっても視聴者を楽しませようと頭を悩ますのは、「私の動画を観て元気になったり、一歩踏み出すきっかけにしてもらいたい」という純粋な思いからだ。

素材は自分自身だが、常に視聴者への愛とサービスを忘れない。その絶妙なバランスが、吉田さんを人気YouTuberたらしめている理由なのだろう。やはり、「好きなことで、生きていく」のは、生半可ではない。

(千貫りこ)

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