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夕学レポート

2020年06月10日

丸谷 智保「セコマ流 地域と共に創るSustainableな社会」

丸谷 智保
株式会社セコマ 代表取締役社長
講演日:2019年11月15日(金)

コンビニの24時間営業問題の本当の原因とは何か

丸谷 智保

コンビニエンスストアは私たちの生活の一部である。飲料やお弁当、お菓子が買えるだけでなく、公共料金等も支払えるのでとても便利な存在だ。そんなコンビニ業界に衝撃が走った。2019年2月、セブンイレブンのある店舗のオーナーが、自身の判断で営業時間を24時間から19時間に短縮した。その後、本部からは勝手に営業時間を変更したことが、フランチャイズ(FC)契約違反であると、1,700万円の賠償請求とFC解約を求められた。この事件を発端に、人手不足による「コンビニ24時間営業問題」とそれに伴うオーナーたちの悲惨な実態が明らかになってきた。現在は経済産業省主導で営業時間の短縮等の改善が行われている。しかし、株式会社セコマ代表取締役社長の丸谷智保さんによると、問題の本質は24時間営業ではないという。講演では様々なお話をお聞かせ頂いたが、コンビニ24時間営業問題が一番印象に残ったので、ここではその話を中心にしていく。

株式会社セコマが展開するセイコーマートは、北海道を中心に展開する地元の人々に愛されるコンビニエンスストアである。私は今回の講演ではじめて聞いたが、セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートを抜いて顧客満足度一位のコンビニエンスストアだそうだ。東京都のコンビニエンスストアの多くが24時間営業だが、セイコーマートは7時から23時までの営業時間の店舗がほとんどだ。北海道だから、24時間営業する必要がないのではと考えてしまいそうだが、24時間営業が問題の本質ではないと丸谷さんが指摘するのは、そこ以外に「FC制度の破綻」が存在しているからだという。

まず、私たちはコンビニといえば「小売業」だと思っている。いや、商品を仕入れて販売しているんだから小売業に決まってるじゃんと考えてしまうのだが、そこがそもそも間違っているというか、考え方を変えないと24時間営業問題の本質が見えてこないらしい。丸谷さんによると、コンビニエンスストア、特に大手コンビニチェーンの業務形態は、実は「コンサルティング業」である。さらに付け加えると、経営指導によるロイヤルティを収入とするコンサルティング業である。ここまで聞くと、確かに!とはたと膝を打ちそうになった。コンビニのオーナーになっても、店の経営に関しては本部から指導を受ける。これはこうした方が売れるとか、コンサルティングしてくれる。そして、店舗の売上からコンサルタント料としてのロイヤルティを、オーナーが本部に支払う仕組みである。

問題はそのロイヤルティがとても高いのだ。店舗をオーナーが用意するか、本部が用意するかで変わってくるが、大体売上げの40~70%をコンビニのオーナーたちはロイヤルティとして納めなくてはならないそうだ。ある研究では、FC経営で35%以上のロイヤルティを取ってしまうとその店は立ち行かなくなるそうだが、その数字を大きく越えている。そして、高いロイヤルティを納めなくてはならないために、アルバイトの給料が高い深夜の時間帯は人件費を削減すべく夫婦交代で働いていたりするので、無理をしすぎて身体を壊してしまうこともあるらしい。FC本部では24時間営業を止めてしまえば、店舗の売上げが減少することによって、ロイヤルティ収入も減少してしまうので、結局24時間営業をやめられないという悪循環になっている。しかし、このような経営を続けていては持続可能性がない。

セイコーマートは大手コンビニチェーンとは全く異なった経営をしている。約8割が直営店として展開しており、FC店舗であってもロイヤルティは店舗売上げの10%しか取らない。コンビニの脱常識をはかり、持続可能な経営をしてきた。セコマの脱常識はそれだけでなく、ドミナント出店はしない(半径150メートル以内に店を出さない)、価格の裁量権は店舗のオーナーが持てる。つまり、賞味期限の近いお弁当は値引きをすることもできるようなFC契約になっている。なぜそのようなオーナーフレンドリーな経営が可能であるかというと、セコマはそのサプライチェーン、マーケットも脱常識をはかっているからである。

一般的なコンビニやスーパーのサプライチェーンを考えると、そこには多くのプレーヤーが存在している。農家、農協、物流業者などが関わってくれば、その分だけコストが掛かる。しかし、セイコーマートは生産から一貫して自社で行うことで、プレーヤーを減らしてコストを削減して売値を安くしている。リーズナブルでクオリティの高い商品を顧客に提供し続けているのだ。東京の年間平均所得が約574万円に対して、北海道は約373万円である。東京より60%平均所得が低いのに、東京と同じ価格では地域の人々のお財布に優しくない。また、選ばれる店になるために、他の店との差別化をはかっている。ユニークなのはコンビニだけど、おでんは販売しない。

丸谷さんは24時間問題の本質に関して新たな視点を与えてくれた。私たちはコンビニ24時間営業問題という「時間の長さ」ばかりに気をとられ、ニュースでも営業時間は短くてもいい、コンビニは顧客の過度なニーズに応えすぎだという議論が多いが、問題の本質はそうではない。これはあらゆる問題を考える上でも応用可能である。セイコーマートが顧客に愛される素晴らしいコンビニであり続けている方法だけでなく、問題の本質の捉え方を丸谷さんから教わった気がした講演内容であった。

(ほり屋飯盛)

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