夕学レポート
2023年07月30日
平藤 喜久子氏講演「日本の神様を知っていますか~神話学から紐解く~」
変わりゆく世の中で
意外にも会場には中高年の男性が多かった。人気のパワースポット巡りや御朱印帳関係は女性向けの雑誌掲載や商品が多いから聴衆も女性が多いのではと思っていたのだけれど。
なぜに現代の中高年の男性が日本の神話に足を運ぶのか。
(仮説1)現代日本の右傾化を示すものである。
(仮説2)実はパワースポット巡りは男性にも人気である。
(仮説3)高齢男性は子供の頃に聞いた神話を思い出したい。
(仮説4)中高年男性の間で神話のゲームが流行中である。
(仮説5)多国籍・多民族となった現代日本で中高年男性は「日本的な何か」に縋りつきたい。
そんなことをつらつら考えながら、平藤喜久子先生の講演開始を待った。
平藤先生の講演は当然ながら学術的で、国粋主義的な匂いのするものではない。
まずは日本の神様についての3類型-神話に登場する神、民間信仰から生まれた神、もともと人間だった神-から始まった。ご存知の古事記、日本書紀、風土記に登場する神々と神社の関係も紹介される。日本は神様の種類が多いから有名なアマテラス、スサノオ、オオクニヌシはともかく、タケミカヅチ、ヒルコ、コトシロヌシあたりになると「?」となり、民間信仰から生まれた神の船玉さまあたりになると「船の神様?でいいのかな…?」となる。
ところで日本の神を語る時に外せない「人が神になる」、これは外国の人には驚かれることだそうだ。日本では菅原道真や安倍晴明などを祀った神社があり、日本人にとっては特段奇異なことには思わないけれど理由を尋ねられると答えられない。それは確かだ。もともとは「神が人に宿る」のイメージから来ていて日本では「人が神になる」ハードルが低いらしい。これは時代によっては危険なことにもなりえそうだ。こうした「理由」を知ることは何だろう、自分の思考の鋳型を知ることに繋がるような気がする。
実際、神話学から神話、神を考えることのポイントは比較だという。「個別の文化の特徴や、その社会に属する人たちの物事に対する考え方などを検討する」、それだけでなく広く「人類の足跡や、人類に普遍的な思考、観念について考察する」ことだと平藤先生は話す。
そうして講演はいよいよ神話学へと進む。神話がなぜ存在するのか、神話学の始まりはどういうものであったのかなどの大変面白い話が展開された。個人的に一番面白かったのは「形容詞はすぐに変化するけれど宗教に関する言葉はあまり変化しない」という点。確かに。平藤先生が挙げた「やばい」など言葉の使い方はどんどん変化していく。
(宗教に関する言葉が変化しづらいのは、すぐに変化すると教義の変容に繋がる危険性があるからかもしれない。)語彙だけでなく話すスピードも変化する。声の高さや大きさ、音程などの文字化されないものはどうなのだろう。気になる。
以前「大衆芸能の言葉は(時代に合わせて)変化しています」と聞いたことがある。そうすると一方で「高尚な」芸術分野の言葉はあまり変化しないということで、だから普通の人が聞いてもわからないものもある。ということは「敷居が高くなる」のか。
自然界で生き残るのは「強い者」ではなく「環境に適応する者」。講義後の質問には「神道の今後」についての質問があった。平藤先生は神社にある手水とペットの七五三をする神社を例に挙げた。コロナ禍でひしゃくの共有ができなくなったため手水の利用がなくなった。その代わりに手水に花を浮かべる神社が登場してインスタ映えすることから人気なのだそうだ。また少子化で都市部でも七五三ができなくなり、ペットの七五三をしたら半年先まで予約がいっぱいになっている神社も人気とのことだ。これにはペットの位置づけが変化したことが背景にある。そして神道の今後も「変化をどう私たちが受け止めるか」にあるという。
譲れぬ点もあるだろうし、譲ってはいけない点もあるのろう。とはいえ私たちを取り巻く環境の変化はあまりに激しい。かつては神仏習合もあった。環境に合わせて変えるにせよ、変えないにせよ、一つ一つを解きほぐし見直し由来と本質を知ることは大事だ。その上での変化なら本質的なものは変わらないだろう。いや、本質は変えてはいけない。やり過ぎとも「?」とも思えるようなものが宗教界の最近の動きにあるし、安易な変化や流行の便乗は忌避すべきだ。そのための本質を踏み外さないか否かを測るには何よりもまず本質を知る必要がある。それが環境の変化への対応に繋がるのかな。いきいきと楽し気に話す平藤先生の姿に私は終始ワクワクしながらそんなことを感じていた。
(太田美行)
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平藤 喜久子(ひらふじ・きくこ)
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- 國學院大學神道文化学部 教授
学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程日本語日本文学専攻修了。博士(日本語日本文学)。専門宗教文化士。専門は神話学、宗教学。
日本神話を中心に他地域の神話との比較研究を行う。また、日本の神話、神々が研究やアートの分野でどのように取り扱われてきたのか、というテーマに取り組んでいる。日本や海外の学生のために、日本の宗教文化を学ぶための教材を作るプロジェクトにも携わっている。
著書に『「神話」の歩き方 古事記・日本書紀の物語を体感できる風景・神社案内』『神話でたどる日本の神々』『世界の神様 解剖図鑑』『現代社会を宗教文化で読み解く』など。
慶應MCC担当プログラム
『平藤喜久子さんと【見て、立って、感じる日本の神話と神々】』(2023年10月)
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