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夕学レポート

2005年03月08日

田中 康夫 「コモンズからはじまる、信州ルネッサンス革命」

田中康夫 長野県知事 >>講師紹介
講演日時:2004年1月14日(金) PM6:30-PM8:30

2005年を迎えた最初の『夕学五十講』講師は、長野県知事の田中康夫氏でした。
マスメディアを通じてだけでは、田中知事が実際どのような取り組みを長野県でされているのか、なかなか伝わってこないものです。しかし、今回の講演をお聞きして、実に多くの斬新な改革を地道に進めていらっしゃることがわかりました。

さて、田中知事は、長野県における21世紀のキーワードとして、「優しさ」「確かさ」「美しさ」の3つを掲げています。「優しさ」とは、福祉、医療、教育、環境といったものに予算を配分していくことだそうです。これらは、従来は経済効果が少ないといわれていましたが、人が人をお世話してはじめて成り立つ分野であり、莫大な財政赤字を抱え、人々が将来に漠然とした不安を抱える今、「富国強兵」ではなく「経世済民」(人々を救済することを通じて経済を興していくこと)を目指すものだそうです。

また、「確かさ」については、具体的な取り組みとして「原産地呼称管理制度」があります。これは長野県内で生産されるワインや日本酒について、どこの水・どんな原材料が利用されているのかなどを毎年目利き(ワインであれば田崎真也氏など)の方が一定の基準で評価し認定するものです。つまり、人の顔の見える確かさといったものを追求しています。

田中知事は、昨年、有名な温泉に入浴剤が入れられていたという事実が発覚した際にも、この「確かさ」を徹底するために迅速な手を打ちました。長野県内にあるすべての温泉(約200箇所)に県の職員を派遣して実態を調査し、ホームページを通じて調査結果を公開したのです。これは当初、県内では営業妨害であるといった非難も上がったそうですが、国も、後日同様の措置を取りました。田中知事としては、風聞や差別を生まないためには、「インフォームド・コンセント」が大事だと考えていたため、上記のような、長野県として取った対応の正しさを確信していたのでした。

さて、田中知事は、ことに当たって「的確な認識」を重視しています。常に変化していく状況に対する的確な認識を持つ。そして、良い意味での朝令暮改を恐れないこと。逆に、「ユーターンをしないことが勇気である」という考えを捨てることが大事だと考えています。「脱ダム宣言」をし、浅川ダム建設中止に踏み切ったのはこうした考えに基づいたものだったそうです。

また、これからは、一人一人が「自律」して動けることが必要だとも考えています。自分の中に座標軸を持ち、公開された情報(インフォームド・コンセント)に基づき、自律的に選択(インフォームド・チョイス)を行うということです。例えば、長野県では、全職員がバイネームで仕事をしています。これまでのように匿名ではなく、姓・名を出すことで、一人一人が職員としての自覚を持って仕事に取り組むことを田中知事は求めています。

ところで、タイトルにも入っている「コモンズ」とは、「社会的共通資本」のことで、自然環境(大気、水、森林など)、社会基盤(道路、交通機関、電力、ガス、水道など)、制度資本(教育、医療、金融など)のことを指します。長野県ではこうした「コモンズ」を整備していくに当たり、これまでのような国→県→ 市町村→地域と上から下へと落とし込むピラミッド型ではなく、地域を出発点に、市町村、県、国へと水平に横展開するイメージで進めています。各市町村の「自律」をベースとしているわけです。県としては、市町村の「自律」を支援するため、様々な施策を行うと同時に、各市町村に県職員を派遣しています。田中知事は、地域に入り込むことで、地域のニーズを県職員が肌で感じることができると考えているのです。

地域における産業と雇用の創出のための施策としては、「五直し」があります。これは、「水直し」「森直し」「田直し」「街直し」「道直し」のことです。「森直し」を例に挙げると、林業の担い手を増やし、間伐を促進することによって太い木を育てれば、一本の木からより多くの木材が取れるようになります。間伐材については、木製のガードレールに加工して、県内の道路への設置を進めているそうです。

田中知事は、街を良くするのは、バカ者、ヨソ者、若者だと考えているそうですが、周囲からの様々な批判・非難を恐れず、断固たる信念で様々な改革に取り組まれている姿勢が、講演を通じても強く伝わってきました。

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