夕学レポート
2024年12月24日
鈴木 俊貴氏講演「シジュウカラ語の発見と動物言語学の挑戦」
動物に言語は存在するのか?
先生、動物言語学の講演を聴いてきました!先日お知らせした鈴木俊貴先生の「シジュウカラ語の発見と動物言語学の挑戦」の講演です。ドリトル先生ファンである私の興奮気味の第一報に先生は冷静に「動物はコミュニケーションしているのは確かです、が言語を話すのか?これまで、言語が人間と他の動物を区別するものとして理解されてきました。これは変わったのだろうか」と仰っていましたのでその点を探ってきました。以下はご報告です。
アリストテレスの時代からコンラート・ローレンツまで動物の発する音声は「感情の表れ」と捉えられていたそうですね。でも鈴木先生はシジュウカラの発する音声を言語として認識しています。
まず「単語の力」。シジュウカラも人間と同様、概念に当てはめて物を見ていることが実験で証明されました。同じ雲を見ても「猫」と言われれば猫に見え、「犬」と言われれば犬に見えるように、単語が持つシンボルのイメージに当てはめて物を見ていて特定の天敵が現れた時だけに使用する鳴き声が存在するのだそうです。シジュウカラはヘビを見た時に「ジャージャー」と鳴いて仲間に警戒を促し、他のシジュウカラ達はそれを聞くと(ヘビのいそうな)下を向いて一斉に警戒をします。ヘビ以外の、例えばタカやフクロウなどの動物を見た時でも同じ鳴き声をするかと思いきや、そうではありません。タカが来る時には「ヒヒヒ」と鳴いて仲間に知らせ、聞いた仲間達は一斉に(タカのいる)上を見るそうです。
とはいえ、これだけでは単に「警戒を促す声」だけであって、ヘビのイメージ(概念)が想起されているかは不明ですよね。そこで鈴木先生はその点を確かめるべく、ヘビに見立てた枝を木の上へ這わせてヘビのような動きをさせる実験をしたのです。本来ヘビと枝は似ていないので見間違えようもないのですが「ジャージャー」の鳴き声を流しながら枝を幹の上方へ這わせると、シジュウカラはヘビと見間違えて枝を確認しに行くのだそうです。その確率は12回中11回です。
ただしこれだけでは本当に単語が指すシンボルをイメージしているかは不明のため、他の天敵に対する時に発する鳴き声を流しても12回中1回しかシジュウカラは集まりません。また「集まれ」の鳴き声だけを流しても集まったのは12回中2回のみ。素人はこれだけで「ほほう」となるのですが、言語学者である先生にはまだご納得いかないでしょう。
鈴木先生はさらに「ジャージャー」の鳴き声を流しながら、枝を左右に動かす(ヘビに似ていない動き)実験をしてみたところ、シジュウカラは枝に近づきすらしなかったそうです。このことから「ジャージャー」の鳴き声を聞くとヘビをイメージして枝を見る、つまり単なる「感情の表れ」でなく「単語」としてとらえることが判明したと結論づけています。
天敵や食べ物に特別な声を出す動物は他にもベルベットモンキー、ミーアキャット、ワタリガラスなどがいるそうです。
「文法の存在」。先生には大変気になるトピックですね。シジュウカラ語に文法はあるのか。鈴木先生はあると主張され、文法能力を「文法のルールを当てはめることで初めて聞く文章でも正しく理解できる」と定義します。さて、シジュウカラの反応やいかに。
正しい語順でないとシジュウカラは鳴き声に反応しないことがわかりました。意味の理解には語順が大切であること、シジュウカラが語順を認識していることが実験で判明したのです。これはシジュウカラとコガラが混群して、コガラの言葉をシジュウカラが理解することを利用した実験で、なんでもタレントのルー大柴の「藪からスティック」「寝耳にウォーター」(文法は日本語、単語は英語)からヒントを得たようです。……思うに、リンゴが落ちるのを見たニュートンのひらめきとでも言いましょうか。二人ともすべてのものが自分の研究分野と関連して見える、聞こえる程のめり込んでいたのでしょうね。「99%の努力と1%のひらめき」「機は日常どこにあるやもしれぬ」とはこういうことかと感じ入りました。
シジュウカラ語とコガラ語を混ぜた文章を人工的に作ってシジュウカラに聞かせたところシジュウカラは理解できました。つまり二つの語を一つのまとまりにする能力、言語学用語でいう「併合」の能力があるのです。
この時点で私はドリトル先生に感じる親しみどころか「この結果を出すまでの実験はさぞ苦労の連続だったでしょう」と、大自然の中で意のままにならぬ相手に実験を繰り返す鈴木先生に対して、ただもう感心することしきりでした。
最新の研究では、ヒトや類人猿のみと考えられてきたジェスチャー(身振り)にも意味があると判明してきているそうで、鈴木先生は「ようやく人間も動物の言葉を取り戻しつつある」と評されています。「取り戻しつつある」。実に味わい深い言葉です。これまで人間は上から目線で動物を見下ろしていたのが矢印の方向を変えて見直してみようというのです。
そうすればきっと人間を人間たらしめているものも見えてくるように思いますが、さていかがでしょうか。
(太田美行)
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鈴木 俊貴(すずき・としたか)
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- 動物言語学者
- 東京大学准教授・東京大学卓越研究員
1983年、東京都生まれ。東邦大学理学部生物学科卒業、立教大学大学院理学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員SPD、京都大学生態学研究センター機関研究員、東京大学大学院総合文化研究科助教、京都大学白眉センター特定助教などを経て、2023年より現職。2018年に日本生態学会宮地賞、2021年に文部科学大臣表彰若手科学者賞と日本動物行動学会賞、2024年にWorld OMOSIROI Awardなど受賞歴多数。シジュウカラ科に属する鳥類の行動研究を専門とし、特に鳴き声の意味や文法構造の解明を目指している。英・動物行動研究協会と米・動物行動学会が発行する学術誌『Animal Behaviour』の編集者なども務める。2023年4月に東京大学にて世界初の動物言語学分野を創設し、世界的に注目される研究者。
東京大学先端科学技術研究センター動物言語学分野 鈴木研究室:https://www.animallinguistics.org
鈴木俊貴WEBサイト:https://www.toshitakasuzuki.com
X(旧Twitter):@toshitaka_szk
X(旧Twitter)『僕には鳥の言葉がわかる』単行本【公式】:@bokutori_2025
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