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夕学レポート

2006年11月14日

内田 和成 「20の引き出しと仮説思考」

内田和成 早稲田大学大学院商学研究科教授 >>講師紹介
講演日時:2006年10月23日(月) PM6:30-PM8:30

本日の夕学五十講に登場された内田和成氏は、日本航空を経てボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社、2000年からはBCGの日本代表として活躍されてきました。また最近、早稲田大学大学院の教授に就任されたばかりです。
本日は、今年出版された内田氏の最新刊のタイトルにもなっている「仮説思考」について、直接お話をお聞きすることができました。


「仮説思考」はとても難しい言葉に聞こえます。しかし、実はとても簡単なことだそうです。
内田氏は、身近な例を挙げてくれました。高速道路で渋滞につかまった時、誰もが考えるのが「走行車線と追い越し車線のどちらに乗っていた方がいいのだろうか?」ということです。「前の車がノロノロしてるから、車線を変えたほうがよさそうだ」とか、「みんなが追い越し車線に行きたがるとすれば、逆に走行車線の方が空くかも知れない・・・」など、いろいろと考えを巡らせます。内田氏によれば、これも「仮説思考」です。皆さんも普段の生活の中で無意識にやっていることなのです。
ただ、内田氏が大事だと考えているのは、
・「仮説思考」を意識して使っているかどうか
・「仮説思考」を仕事に応用しているかどうか
だそうです。
「仮説思考」とは、端的には「結果から先に考えること」です。
手元にほとんど根拠となりうる情報がない状況であっても、とにかく早い段階で「どうやら結論はこうらしい」という「仮説」を最初に立ててしまってから、仕事に取り組むやり方です。
一方、従来のやり方を内田氏は「網羅思考」と読んでいます。
まず様々な情報を網羅的にたくさん集め、それらの情報からどんな結論が導けるかを考えます。しかし、しらみつぶしに情報収集するので時間も手間もかかります。また、情報収集後いざまとめる段階になって、結論を裏付ける肝心な情報が実は漏れていた、ということが起きます。つまり「網羅思考」はあまり効率的なやり方ではないのです。
内田氏は、「網羅思考」は「海図」を持たずに太平洋に漕ぎ出すようなものであり、一方の「仮説思考」は先ずおおまかな「海図」を作ってから船旅に出るようなものだと喩えてくれました。
さて、仕事における「仮説思考」には具体的には次の3つのメリットがあるそうです。
情報の洪水におぼれない
最初に「仮説」(結論)を立ててしまえば、その後は、その仮説が正しいか正しくないかを検証するために必要な情報を集めるだけで済みます。したがって、「網羅思考」でやみくもに集めた膨大な情報に圧倒されることがありません。
仕事の質、スピードが上がる
結論(仮説)を検証するための限定された情報だけを収集し分析を行うので、仕事のスピードがアップします。また同時に情報量が限られており、それらを深堀りすることができることから、仕事の「質」も向上します。
他人に仕事が見えるようになる
「仮説」としての結論ありきで仕事を進めますので、他人に安心感を与えることができます。仕事のゴールが見えているからですね。また「仮説」を検証できているかという視点で仕事の進捗具合が確認できますし、的確なアドバイスが可能になります。他部署の人など、様々な立場の人の意見も聞きやすくなるそうです。内田氏によれば、自分も上司も部下も関係者全員がWin-Winの関係で仕事ができるのが「仮説思考」なのだそうです。
ただ、皆さんの中には、まだろくに情報のない時点で「仮説」、つまり「答え」を出してしまっていいのかという心配を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。そもそも「仮説」が間違っていたらどうするのか、というわけです。実際、よくわからない状態でともかく答えを出してみるのは感覚的にはとても気持ち悪いことです。内田氏自身も、当初は気持ち悪かったそうです。
内田氏はBCGで代表を務めていたころの話をしてくれました。
経営コンサルティングの仕事は、おおむね3ヶ月から6ヶ月の契約期間の中で業務を行い、クライアントに対してなんらかの提案を出します。しかし、内田氏はプロジェクトマネージャーに対し、「最初の2週間でともかく答えを出してみろ」と指示したそうです。マネージャーはそんな短期間で結論が導けるわけはないと抵抗するそうですが、とにかくやらせます。その後、プロジェクト終了時に提出した正式な提案内容と2週間で出した答えを付き合わせると7割方合っていました。限られた情報であっても、当初の仮説と最後の提案が大きくずれることはないということです。
また仮に仮説が間違っていたとしても、初期の段階でわかることが多いそうです。網羅思考と違って必要な情報だけを集めていますから仕事は速く進んでいます。ですから、新たな仮説を立て直しても十分な作業時間が残っています。効率的に仕事を進めることができるだけに、柔軟に仮説を修正していけるというわけです。
ところで、「仮説思考」においては、限られた情報の中でいかに適切な仮説を思いつけるかという点も重要です。これは豊富な知識や経験の蓄積によるところが大きいそうです。そこで、内田氏が「仮説思考」と並んで提唱されたのが「20の引き出し」です。
「20の引き出し」とは、頭の中の仮想のキャビネットです。内田氏が最近関心のある様々なテーマ、例えばパラダイムシフトやビジネスモデルなどのテーマに分かれていて、かつそれぞれのキャビネットには20個ほどのフォルダーがあり、そこに個別の内容が収められています。要するに約400(20× 20)ほどの、ネタとして使える様々なエピソードが内田氏の頭の中には格納されているのです。
内田氏は、目を引いたエピソードを新聞の切り抜きなどから拾いつつ、頭の中のフォルダー、キャビネットに収納し、「熟成」させ、折にふれ人に話します。こうして、普段から情報に対する感度を上げて、多くの引き出しを持っておくことが、的確な仮説づくりに役立つと考えているそうです。
内田氏の今回のお話は、ビジネスパーソンにとってはすぐに業務に役立てることのできる、極めて実践的な内容であったと思います。

主要著書
『仮説思考』 東洋経済新報社、2006年
『eエコノミーの企業戦略』 PHP研究所、2000年
『デコンストラクション経営革命』 日本能率協会マネジメントセンター、1998年
『顧客ロイヤルティの時代』(共著) 同文館出版、2004年
『「量」の経営から、「質」の経営へ』(共著) 東洋経済新報社、2003年

推薦サイト
早稲田大学大学院商学研究科 修士課程プロフェッショナルコース
内田和成Webサイト

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