夕学レポート
2007年12月10日
平松 庚三「あえて火中の栗を拾う」
平松 庚三 株式会社ライブドアホールディングス 代表取締役社長 >>講師紹介
講演日時:2007年10月19日(金) PM6:30-PM8:30
平松氏は、ソニーに13年ほど勤めた後、外資系企業の雇われ社長を歴任された「経営のプロ」です。2006年1月に起きたあの「ライブドア事件」後、堀江貴文前社長の後任として同社社長に就任されました。
今回の講演ではライブドア事件当時のことだけでなく、ライブドア以前のキャリアについてもお話をいただきましたが、当レポートではライブドア事件の「渦中」にいた当事者としての話を中心にご紹介したいと思います。
平松氏はライブドア社長に就任したことについて、今回の講演のタイトル(「火中の栗を拾う」)のような表現を他の方からしばしばされます。しかし、平松氏によれば、現実は、自ら火中の栗を拾いにいったわけではなかったそうです。
ライブドア本社と堀江氏の自宅が家宅捜索を受けた1月16日のその時間、平松氏は六本木ヒルズのバーで飲んでいました。そこへ、上が大変なことになっているという知らせが入ります。当時、平松氏はライブドアグループになっていた弥生(株)の社長で、弥生はライブドア本体と同じフロアにあってガラスで仕切られていました。
慌ててオフィスに駆けつけた平松氏は、そのガラス越しに、カジュアルな服装の社員とは異なるスーツ姿をした人々が大挙してやってきているのを目にします。東京地検の方々でした。
平松氏は、当初何が起こっているのかまるでわかりませんでした。翌々日になってようやく堀江氏と直接話すことができたものの、堀江氏自身も何が起こっているのか答えることができませんでした。しかしこの時、堀江氏から「僕に何かあったら、ライブドアをよろしくお願いします。」と事実上の後任指名を受けたそうです。
そして、1週間後の23日、堀江氏逮捕。翌24日、ライブドア本体の役員ですらなかった平松氏が同社執行役員社長に就任することになります。
その日から、平松氏はマスコミに追い回される怒涛の日々が始まります。ライブドア社長就任はことの成り行きだったとご本人はお話しされましたが、その重責から逃げることなく、8週間の間に6回もの謝罪会見を行い、トップの逮捕によって分裂しつつあったライブドアの建て直しに奔走されたわけですから、やはり結果的には「あえて火中の栗を拾いにいった」ことになるのではないかと思います。
さて、社長就任当時のライブドア社員は700-800人いました。みな動揺しています。社員だけでなく、その家族の方々も心配していたことでしょう。
そこで、まず平松氏が目指したのは社内の混乱を収拾することでした。そのために実行したことは、「ネアカ主義」に徹し、「さあこい!」とどっしり構える。平常心を失わない。そして、大声で笑うことでした。
この「ネアカ主義」とは、ソニーの盛田昭夫氏から直接教えられた言葉だそうです。平松氏は、ソニー時代は広報担当でしたので、盛田氏の会見などには必ず同席していました。そうして一緒の時間を過ごすことの多かった盛田氏から、経営者にとって大切なことは、いつでも「ネアカ」でいることという薫陶を受けました。「もし、元気が出ないときはどうするんですか?」と平松氏が聞いたところ、盛田氏は「そんな時は元気があるフリをするんだよ」との答え。元気のあるフリをしているとそのうち自分もだまされて元気になるということだそうです。平松氏もライブドア事件を乗り切る中で、「参ったなー」と感じた時がもちろんありました。でもそんな弱気の姿は一人でいる時だけにして、社員の前では常にポジティブに行動する。明るく振舞う。「ネアカ主義」は、とりわけ、社員たちが不安を抱いているクライシス(非常事態)において必要なのだそうです。
さらに、平松氏は、社員に対して折に触れて「辻説法」をたれ、同社の方向性について熱く語るとともに、社内のイベント(節分、バレンタインデーなど)も盛んに行って社員を鼓舞し続けました。広告の90%がキャンセルとなり、クライアントも会ってさえくれないという状態に陥り、仕事のなくなった営業部門を中心に退職する社員も出ました。しかし、幸いにもライブドア発展の礎となってきた技術者がほとんど辞めなかった。ライブドアの前身、オン・ザ・エッジはテクノロジーカンパニーであり「地あたま」の良いエンジニア達が揃っていた。このことはライブドアにとって大変幸運なことだったそうです。
平松氏は、ライブドアの再建に筋道をつけ、すでに「中継ぎ」の役割は終わったとして、2年間の任期が満了する今年末に同社を退任されます。平松氏はこの2年間を大変貴重な期間だったと考えているそうです。なにより「ネアカ主義」といった、クライシスにおけるリーダーのあり方を実践する機会でもあり、疎かった法務についての知識も得られました。また、記録に残る数となった謝罪会見も、刑事事件の被告として実刑判決を受ける機会も、平松氏にとってはかけがえのないプラスの経験と考えているそうです。
最後に平松氏は、個人としてのキャリアづくりについて大切な示唆を与えてくれました。それは、「自分のことをプロダクト(製品)と思っていますか?」ということです。平松氏は、受講された方々に問いかけます。「自分の強み弱みを理解し、将来の夢や目標を持ち、その実現のための実行計画(アクションプラン)を立て、実行していますか?」「その成果をきちんと測定していますか?」すなわち、平松氏は、自分のキャリアづくりに「戦略的」に取り組むことが必要だと考えているのです。平松氏がそもそもソニーを退社したのも、社内に自分には絶対勝てないスター社員がいる、ここでは自分の強みが活かせないと判断しての戦略的なキャリアチェンジだったのです。
なお、平松氏が、ライブドアを退任するのは悠々自適の生活を送るためではありません。平松氏はほかにもたくさんやりたいことがあります。平松氏が数年前から立ち上げているシニア向けのSNS(ソーシャル・ネットワーキングサービス)の「小僧com」のキャッチフレーズ「50、60はハナタレ小僧。」の通り、平松氏の人生はまだまだこれからということだそうです。
主要図書
『ボクがライブドアの社長になった理由(ワケ)』ソフトバンククリエイティブ、2007年
推薦図書
『本田宗一郎の見方・考え方』梶原一明著、PHP研究所、2007年
推薦サイト
http://live.ladio.livedoor.com/special/hiramatsugekijo/ (平松のねとらじ「平松ちゃん劇場」)
http://www.kozocom.com/official/index.html (小僧com – 小僧SNS)
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