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夕学レポート

2009年05月12日

藤原 和博「「つなげる力」で日本を開放せよ!」

藤原和博 杉並区立和田中学校・前校長、大阪府知事特別顧問 >>講師紹介
講演日時:2009年4月15日(水) PM6:30-PM8:30

夕学五十講には3回目の登壇となる藤原氏。今回はまず、子どもたちのコミュニケーション力が近年低下している問題を取り上げました。コミュニケーション力の低下は、教育界にとどまらず、ビジネス界、特に若手の人材育成の分野でも共通した問題になっています。これは、高度化・複雑化し、変化の激しい今の時代に必要となっている「情報編集力」を高める教育が、子どもの頃から十分に行われていないからであり、同じ問題を抱える社会人が増えるのも当然だと、藤原氏は考えています。
さて、藤原氏は、インターネットや携帯電話を始めとする便利なコミュニケーションツールが世の中にあふれているにも関わらず、コミュニケーション力を低下させている理由として、次の2つを挙げました。
(1)超便利社会
たとえば店内に入って何かを買って出てくるまで、一言も発しなくてもすむコンビニエンス・ストア。コンビニは一種の「自動販売機」だと藤原氏は言います。かつては、お菓子一つ買うのにも駄菓子屋のおばさんとあれこれ交渉したりして、子どもたちが大人とコミュニケーションする必要がありました。


しかし、今の私たちをとりまく環境はますます高機能化、インテリジェント化してきています。人が望んでいるものを先回りして、「あなたはこれが欲しいんじゃないですか」と聞いてきます。子どもたちは受動的にならざるを得ません。能動的にコミュニケーションをする機会が失われているのです。
ただし、藤原氏は、「子どもたちを黙らせる」方向で技術開発が行われている現状を批判的にみているわけではありません。社会がどんどん便利になっていくことは止められない流れだという理解を踏まえて、どうやって子どもたちのコミュニケーション力を向上させるかが重要だと考えているのです。
(2)正解主義
現代の子どもたちには「正解主義」の呪縛があります。正解がわからなければ発言しません。このため、活発なコミュニケーションが成立しにくいのです。そこで、藤原氏は、「修正主義」を提唱しています。修正主義とは、とにもかくにも頭に浮かんだことを口に出してみる。そして仲間と議論を繰り返して、考えを無限に修正していき、自分自身、および周囲が納得して受け入れられる「納得解」へと到達するというものです。
そもそも、子どもたちが正解主義に囚われてしまう原因は学校にあります。学校とは、基本的に正解を教える場所です。小・中・高とずっと正解を詰め込むことばかりをやってきた結果、子どもたちはどんなことにも正解があるという勘違いをしてしまうのです。
このため、例えば、就職活動において、自分にとってどの会社が「正解」かを考えて会社選びをしてしまう。その結果、入社早々、3カ月くらいで「この会社はちょっと違う、正解じゃなかった」とあっさり辞めてしまうのです。
しかし、会社で働くということは、変化する会社と、変化する自分との間でぎりぎりのベクトル(方向性)合わせをし続けることです。常に変化する状況の中では唯一絶対の正解はありません。その都度その都度、最適な解、つまり納得解をすり合わせるのが働くということです。
結婚もまた同様です。意見が合わないからといって簡単に別れてしまうのではなく、子どもを含め、変化していく相手(夫、または妻)と自分との間で意見を戦わせながら、やはりぎりぎりのベクトル合わせをし続けるのが結婚生活なのです。
こういった理由で低下してしまったコミュニケーション力を向上させるため、藤原氏は、以前から「情報編集力」の重要性を訴えてきました。従来の学校が教えてきた、正解をすばやく答えられるスキル、すなわち「情報処理力」だけでは不十分だと考えているのです。そして、情報処理力と情報編集力の違いを、藤原氏は、ジグソーパズル=情報処理力とレゴブロック=情報編集力の違いにたとえて説明してくれました。
ジグソーパズルでは、あらかじめ決まった図柄(答え)を完成させることが重要です。しかし、自分の好きな図柄を創作したり、図柄を途中で変更することはできません。
一方、レゴブロックは組み合わせによって自由に新しい形をいくらでも生み出せます。正解がないので一人ひとりが世界観を持たなければできません。
20世紀の成長社会は、「長生きできて、平和で便利で安全な国」というジグソーパズルの図柄(ビジョンや目標)を完成させるため、みんな一緒にがんばる時代でした。この時代に必要とされたのは情報処理力です。図柄が事前に与えられていたからです。しかし、20世紀にめざした図柄がある程度実現した今日、すなわち21世紀の成熟社会では、みんな一緒ではなく、それぞれ一人ひとりが自分なりの世界観を持ち、様々な要素を自由に組み合わせて、新たな図柄を生み出すことが求められています。そこで、情報編集力がますます重要になってきたというわけです。
情報編集力は、要素(正解)をたくさん覚えるのではなく、自分が持っている知識、経験、スキルといった内側の要素、さらに、他者が持つ知識、経験、スキルといった外側のスキルも借りて、柔軟につなぎ合わせることがポイントです。したがって、情報編集力は、わかりやすく「つなげる力」とも言い換えることができます。
藤原氏によれば、情報編集力を構成する主な要素は、コミュニケーション力、論理的思考力、プレゼンテーション力の3つ。こうしたスキルを鍛えるために有効な方法のひとつが、藤原氏が開発した「自分プレゼン術」です。
自分プレゼン術は、わかりやすく言えば「自己紹介」ですが、自分の特徴を一言でわかりやすく説明する「キャッチフレーズ型」や、様々な質問を投げかけながら、相手と自分の共通点を探し出していく「Q&A型」など4つほどの方法を駆使して行います。講演では、受講者同士で「自分プレゼン術」の簡単なワークショップを体験することができました。
藤原氏自身は、教育界に転じた和田中学校校長時代以降、地域の教育資源を学校につなぐ「ネットワーク型の学校経営」に取り組んできました。現在は、大阪府知事特別顧問として、学校の先生だけでなく、引退したビジネスパーソンや、学習塾、大学生ボランティアなどの力を借りて、各地域での教育体制を充実させる仕組みづくりを構築しています。
学校が学習塾とタッグを組む方法は、藤原氏が和田中時代に始められたことですが、例えば外国人労働者が多い門真市では、母国の子弟を日本に呼び寄せる方が増えています。こうした、いわゆる帰日生は、日本語が十分に話せないなどの問題があり、学校の先生だけではとても支えきれません。そこで、塾の先生に放課後の補習授業をボランティアでやってもらっているそうです。
また、今年5月には世界で初めて携帯電話を活用した授業を大阪の高校で行う予定だとのこと。小学校、中学校での携帯電話の使用には否定的な藤原氏ですが、今の高校生にとって携帯電話は誰もが持っている必須ツールです。義務教育ではありませんし、発想を切り替え、高校の授業で携帯をとことん使ってみたらどんな学習効果があるか、確認することが目的です。
授業では、藤原さんが投げかけた質問に対して、メールで一斉に回答させるそうです。正解主義の呪縛のない、自由な発言が促せます。また、地元商店街に行き、流行っている店とそうでない店を調べさせるといったワークも想定しているそうです。
「つなげる力」を存分に活用して、日本の教育のあり方を大きく変えつつある藤原氏の今後の活躍にさらに期待したいと思います。

主要著書
つなげる力』文藝春秋、2008年
誰が学校を変えるのか』筑摩書房(ちくま文庫)、2008年
校長先生になろう!』日経BP社(BP online books)、2007年
人生の教科書[人間関係]』筑摩書房(ちくま文庫)、2007年
人生の教科書[よのなかのルール]』筑摩書房(ちくま文庫)、2005年
リクルートという奇跡』文藝春秋、2002年(2005年・文春文庫)

推薦サイト
「よのなかnet」 http://www.yononaka.net

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