KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2017年01月16日

日産はいかにしてV字回復したか  志賀俊之さん

photo_instructor_848.jpg1986年プラザ合意。急激な円高によって、それまで順調だった日産自動車は赤字に転じた。その危機的状況から、いかにしてV字回復を遂げたか。一言で表すなら「レジリエンス(Resilience)」であると、志賀俊之さんは冒頭で力強く述べた。現日産自動車副会長であり、倒産危機に陥ってから復活するまでカルロス・ゴーンのもとでその手腕を発揮してきた。レジリエンスとは「はねかえす力」であり、演題も「変革を支えるレジリエントオーガニゼーション」である。日本語で言うなら「危機的状況をはね返す力のある組織」といったところであろうか。
1990年代のマーケットシェアの恒常的低下、積み上がった負債から、いかにして今の状況まで回復できたのか。志賀さんにはレジリエントの6つの要素を自問自答形式でお話しして頂いたが、ここではその中でも組織だけでなく個人レベルでも重要だと思える3点に焦点をあてて論じてみたいと思う。

1.実行する組織

1999年に日産とルノーはアライアンスを締結。4月からカルロス・ゴーン氏がCEOに就任した。まず、行ったのは「全従業員の前で熱いスピーチ」ではなく、「徹底した現場ヒアリング」だ。なぜか。ここはゴーン語録に答えてもらおう。
「長所、短所を知り尽くし、どこに可能性があるかを指摘できるのは当事者だ。答えはすべて現場にある」
そこで、言わずと知れた日産クロスファンクションチームを立ち上げた。聖域無し、強制無し、タブー無しのチームである。現場から短所・長所を洗い出し、自分たちの声から日産リバイバルプラン(NRP)を立てた。そこで、ゴーン氏がはじめに全従業員の前でスピーチをしなかったことが生きてくる。もし、あらかじめ決められた計画ならどうであろうか。あなたはやる気を出して取り組むだろうか。「NRPの策定はタスクの5%に過ぎない。あとの95%へやり遂げること」だと志賀さんは言う。進んで実行が可能なプランにするためには、従業員たちが愛着を持って取りくめるプランでなければいけない。人は与えられた目標や計画では、モチベーションは上がらない。

2.多様性(Diversity)のある組織

日産は「すべては一人ひとりの意欲から始まる」というコアメッセージのもと、行動指針を定めている。ここに共通の価値観がある。
http://www.nissan-global.com/JP/CSR/STRATEGY/EMPLOYEES/
中でも心構え(Mind Sets)の(1)異なった意見・考えを受け入れる姿勢 (2)すべてを分かりやすく共有化 の部分は、講演中に強調されていた「多様性」と深く関係している。さらに言えば、「多様性」は日本の企業が抱える課題でもあり、志賀さん自身もかつてこの問題に直面した。
フランス人が加入した会議でのこと。終了後に彼がやってきてこう問い詰めた。
「なぜ意見がないまま会議が終わるのか」
当時は「だから外国人が入ると面倒なんだよ」と思った。しかし、その後、ひとつの問題に対する様々な視点、ありとあらゆるアプローチがあることを彼が教えてくれた。今までの日本企業は「あ・うん」の呼吸でやってこられたが、これからは通用しない。多様性-国籍、年齢、男女-自分とは違う様々なバックグラウンドを持った人たちと、議論や対話をしなければならない。日産独自で行った調査によれば「多様性のある組織は、失敗もあるがブレークスルーも生まれる」。反対に、多様性のない組織は安定しているが、ブレークスルーは生まれないのだ。
日本人は議論が苦手である。日本にいると本質的な議論をせずに色々なことが決まっていく。以前は、「多様性」や「異文化」とは海外に出ていく人のための言葉であったと思う。しかし、グローバル化の進む現代では、日本で働く人々にとっても避けられない言葉だ。志賀さんもかつては同質の集まりが心地よかったが、今では異質なものがないと不安になってくるという。

3. 危機的状況に強い組織

2011年東日本大震災の際、日産の工場も大きな被害にあった。その時、従業員たちは特に指示しなくても、自分たちにできることを一丸となって行った。聴講者たちとインタラクティブに行われた講演であったので、「そういう素地ができあがっていたのか」という私の質問にも答えて頂いた。まずは、常日頃からの価値観の共有。そして対話。伝わりやすい仕組み。震災の際、従業員たちが取り組んだのは工場内だけの仕事に留まらなかった。外の片付けなど「自分で仕事を見つけて取り組んでいたのが嬉しかった」と、志賀さんは本当に嬉しそうにお話しして下さった。
危機的状況に関するまた別の話。こちらは最後の質疑応答の際に飛び出た。ゴーン氏によれば「日本には素晴らしいリーダーがたくさんいるのに厳しい状況に弱い」。志賀さんもゴーン氏も、危機的状況には恐れもあるが、それよりexcitementのほうが強くなる。実際に日産が倒産寸前まで落ち込んだ時も、スリルを感じたという。現在求められているリーダーはリスクテイカーでなければならないのだ。
AIやIoTによる第四次産業革命がはじまり、人類の生活と常識は根底から覆される。大量生産、大量消費の資本主義からモノ・コトをシェアする新しい経済がすでに始まっているのだ。時代が変われば、求められるリーダー像も組織もマネジメントも変わらなければならない。この変革の時代にはどんな組織が生き残れるだろうか。現在、私は組織に属していないが「実行する組織」「多様性に対応する組織」「危機的状況に対応する組織」この3点の組織の部分を「個人」に当てはめてみたらどうであろうか。これからの時代どんな人物像が求められているのか。日産のV字回復劇から多くを学ぶことができた。
(ほり屋飯盛)

メルマガ
登録

メルマガ
登録