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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

私をつくった一冊

2022年08月09日

野田 稔(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授、リクルートワークス研究所 特任研究顧問)

慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。

野田 稔

野田 稔(のだ・みのる)
  • 明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授
  • リクルートワークス研究所 特任研究顧問

慶應MCC担当プログラム

1.私(先生)をつくった一冊をご紹介ください

亜空間不動産株式会社
石川英輔
講談社
1986年12月

2.どのような内容ですか?

SF小説ですから荒唐無稽な内容です。
崖を背負って建っているビルの売れない不動産屋の奥の部屋に、ある日大きな穴が開き、なんとそこが未知の惑星と亜空間を通ってつながってしまうというところから物語は始まります。この惑星は地球から21光年離れた場所にあるのですが、実に快適な気候で有害な生物も一切おらず、人間が住むにはまさに理想的な環境でした。この不動産屋はなんとかこの惑星の所有権を獲得し、広大な土地の商売をしたいのですが、そのままだと間違いなく悪徳業者か政治家に差し押さえられてしまう。知恵を絞って考えたのが宗教法人を設立し、惑星全体を寺の境内として扱い、宿坊を立てて人を住まわせるという、まあ、よくこんなことを考えついたと思うような内容です。

3.その本には、いつ、どのように出会いましたか?

大学生の時にテレビ局でニュース作りのアルバイトをしていました。ニュース直前は嵐のように忙しいのですが、ニュースとニュースの合間は緊急事態に備えて待機しているだけなのでとても暇です。そこで、本を読むことにしました。「一日一冊、本を読み切る」という目標を立て、速読の訓練のつもりで乱読しました。
この習慣は大学を卒業し社会に出てからも続き、仕事や勉強で読んだ以外に10年間で4000冊を読了するに至りました。乱読なだけにあまり記憶にない本も多いのですが、このとき身につけた読書する習慣や続ける力は、いまの自分にもつながっていると思います。

そして、そんな中鮮明な記憶があるのがこの『亜空間不動産株式会社』です。
会社員になって数年が経った頃だったと思います。毎日本屋に行っていました。いつものように、面白そうな本をあまり考えずに何冊か買ったうちの一冊でしたが、その後も何度となく読み返した一冊となりました。

4.それは先生にとってどんな出会いでしたか?

まさに衝撃です。亜空間を通じて理想的な星と繋がってしまう、という前提は荒唐無稽ですが、その惑星の所有権を認めさせる法律的解釈、絶対に政府から手出しできない組織形態としての宗教法人の選択、その後の信者の集め方などは全て現実に即しています。

この、“荒唐無稽な前提の上に現実的な論理を組み立てる”というのはまさしくSF小説の手法ですが、実はこれがイノベーションを産む思考法としてかなり有効であると気づいたのです。今では「SFプロトタイピング」といった考え方も一般的になってきましたが、当時は斬新だったと思います。以来、「もし○○だったらどうなるかな」と大胆な前提をおき、そこから現実のルールに則って議論を進める癖がつきました。この発想法は実にいろいろな局面で役に立ちました。

5.この本をおすすめするとしたら?

本当に頭の柔らかい人には必要のない本でしょう。でも、あまりに頭が硬くて「そんなこと起こりっこないだろ!」と腹を立ててしまうような石頭の人にもお勧めできません。
柔らか頭になりたいな、と感じている“普通な方々”にお勧めしたいと思います。
SF思考法で、是非閉塞突破を図ってください。

野田 稔

野田 稔(のだ・みのる)
  • 明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授
  • リクルートワークス研究所 特任研究顧問

慶應MCC担当プログラム

一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。野村総合研究所経営コンサルティング一部部長、リクルート新規事業担当フェロー、多摩大学経営情報学部教授を経て現職。ディップ株式会社社外取締役。2020年、一人一人の幸せなキャリア創造を支援する、Rakza楽座株式会社を設立。組織・人事領域を中心に、幅広いテーマで実践的なコンサルティング活動を行う。また、ニュース番組のキャスターやコメンテーターとしてメディアでも活躍している。
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