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私をつくった一冊

2024年06月11日

高木 聡一郎(東京大学大学院情報学環教授)

慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。

高木 聡一郎

高木 聡一郎(たかぎ・そういちろう)
  • 東京大学大学院情報学環教授

慶應MCC担当プログラム

1.私(先生)をつくった一冊をご紹介ください

Principles of Macroeconomics 4th edition
Gregory Mankiw (著)
Cengage Learning
2006年2月

2.その本には、いつ、どのように出会いましたか?

2007年頃、私は企業内研究所に勤務しており、運よくハーバード大学ケネディスクールに滞在する機会を得ました。
研究所で働いていたとはいえ、正直なところ、自分の研究をどのような理論や手法に基づいて行えばよいのか、暗中模索の状態でした。

そんなとき、ふとハーバード大学の生協で見つけたのがこの本です。これは経済学の学部レベルの教科書で、きわめて平易な英語で書かれていました。これなら自分も読めそうだと思い、なかなか高価だったのですが、買ってみて、ひたすら大学の図書館で読み進めることにしました。

3.どのような内容ですか?

経済学の基本的な概念や理論、分析の考え方について、とても分かりやすく解説されている教科書です。「需要と供給」や「貿易のメリット」などのトピックについて、実際に起きた具体的な事例を交えながら説明してあるため、面白く読み進めることができました。

また、世界中のビッグマックの値段を比較することで、為替レートの適正水準を検討する話(購買力平価)を知ったのも、この教科書でした。

なお、この本はマクロ経済学ですが、同じシリーズのミクロ経済学版もあります。
また頻繁に改訂されているため、当時私が読んだのはおそらく第4版だと思いますが、現在は第9版が最新です。

4.それは先生にとってどんな出会いでしたか?

社会現象の裏側で、こんな理論があったのか、こんな法則で動いていたのか、という驚きがありました。
また、書かれている事例や理論と、当時実際に課題となっていたトピックを掛け合わせることで、様々な気づきが得られるという感触がありました。

経済学の理論が、これから研究を行っていくうえで一つの土台となりうるという感触を得たことを覚えています。

帰国後、経済学をベースに研究スキルを改めて身につけようと思い、大学院の修士課程、博士課程で学びなおし、現在に至ります。

その後も、研究テーマを模索する際に、改めて教科書(同著者の類似の教科書でしたが)を読み返しながら、現在の事象と掛け合わせて研究テーマをリストアップしたりしたものです。

5.この作品をおすすめするとしたら?

自分が関心のあるテーマについて、研究として行っていく際に、どのような理論や学問体系からアプローチすればよいか悩んでいる人に、一度は読んでみていただきたい本です。

あるいは、近年の様々なトピック、例えばAIと失業の問題、プラットフォーム企業の独占の問題、ギグワークなどの働き方などについて理解を深めたい方、参考になる歴史上の事例や理論を探している方にも役に立つと思います。

日本語訳も出版されているようですので、ぜひ気になる方はチェックしてみてください。

高木 聡一郎

高木 聡一郎(たかぎ・そういちろう)
  • 東京大学大学院情報学環教授

慶應MCC担当プログラム

東京大学大学院情報学環教授。また、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主幹研究員。
株式会社NTTデータ、同社システム科学研究所、国際大学GLOCOM教授/研究部長/主幹研究員等を経て2019年より現職。これまでに、国際大学GLOCOMブロックチェーン経済研究ラボ代表、ハーバード大学ケネディスクール行政大学院アジア・プログラム・フェロー、慶應義塾大学SFC研究所訪問所員などを歴任。
専門分野は情報経済学、デジタル経済論。IT産業のビジネスモデルや、ITの普及・発展に伴う社会への影響を、主に経済学の観点から分析している。
2015年に社会情報学会より「新進研究賞」、2019年にKDDI財団よりKDDI Foundation Awardを受賞。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。
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